3 パクパクモグモグ
森に踏みこんだからわかりにくいが、どうやら日が沈んだらしい。
樹と樹の区別もつかないほどの暗闇になってきた。
まっくら森は危険がいっぱい?
いえいえ、オオカミはにやりとする。
オレさまは成熟したオオカミなので、バババッと光を増幅させて闇を見通す能力が、網膜のうしろに備えつけられてるんだ。
こういうの、薄明薄暮性の生きものにはありがちでね。オレさまなんかは人間の4分の1ほどの光もあれば、くっきりはっきりお目目ぱっちり。
そんなわけで、タペタム――スイッチ・オン!
すると――わぁ! オオカミは仰天する。
目前の暗がりには色とりどりの野菜や果物が敷きつめられるようにしてひろがっていた。
どれもいままさに食べごろの熟しかたで、ぷりんぷりん。
なにここ、森の八百屋さん? 八百ってなぁに? 虹色のヘルシー地獄や――!? といわんばかりに腹が鳴り、気がついたらオオカミは手当たり次第にむさぼり喰っていた。
酸味やら甘味やらが口内にひろがり、果汁やらよだれやらが口外にあふれる。
そして、気づけばあらかた食い散らかし、オオカミは口をぬぐう。
ふぅむ、なかなかの前菜じゃない? 注文のいらない料理店かしらん――オオカミは鼻歌まじりに森のさらに奥に向かった。
ちょっとした藪をぬけると――水がひろがっていて、オオカミは一歩だけ踏みこんでしまい、あわてて縁にもどる。
うわぁ、なに、あぶないじゃないか、濡れると冷えるし……柵くらいつくってよ――そこは、ため池だった。
しかし、オオカミの不満は一瞬で消える。
そこに無数の色とりどりの鯉が無軌道に泳いでいたからだった。
なぁに、つぎはお魚料理ぃ!? あなたがみつけたのは金の鯉、銀の鯉、それとも、ふつうの恋――? などとはしゃぎながらオオカミは池に跳びこみ、次々つかみどり、がつがつ骨まで食べ尽くした。
そして、そのあとは予想どおりの肉だった。
お肉料理はいわゆる、うさぎや鹿やキツネの踊り喰いなので、こまかい描写は控えよう。
とにかく、オオカミはメインディッシュをパクパクモグモグ夢中でいただいて、気づけば地面に座りこんでいたのだった。