プロローグ
山下陽葵は普通の女の子だった。身長は平均だし、容姿は良くも悪くもないというところ。
足も早くはないし、特別な感性を持っている訳でもなかった。
ただ、学校の成績が少しだけ優秀なのが救いだった。
本人もこれからきっと普通の人生を歩むんだろうな、と思っていた。
あの日までは。
「次は特急、特急でございます。この駅には停車致しませんのでご注意ください」
学校の帰り道、陽葵は憂鬱だった。
今日は雨だった。湿気が多く衣類が体に張り付いているようになって気持ち悪い。
その上、傘をさしていたのにカバンにつけたストラップが濡れてしまった。
学校の登下校は地下鉄を使うので問題ないが、今日は土砂降りだったので傘では守りきれなかったようだ。
陽葵は誰か頭のいい人が天気を操れる機械を作ってくれないかなーと真面目に考えていた。
そう、陽葵がぼーっとしていると背中に衝撃が来た。
(え?)
線路に落ちながら見たのは笑ってる男性だった。
(なん・・で・・・・)
運の悪いことに、いや、男性が図ったのだろう。ちょうど二つのライトがすごい行き良いでこちらに向かって来ているところだった。
陽葵は目をつぶった。
(あれ・・・?)
来ない衝撃に目を開けるとそこには白い空間だった。
辺りを見渡すと前後上下左右全て真っ白だった。
「ここはどこ・・・?私は・・・山下陽葵」
ボケを笑ってくれる人はいなかった。
だからきっと誰もいないのだろうと思っていた。
「こんにち・・・」
「ひゃっ!」
だから、いきなり人の声がしたので飛び上がるほどびっくりした。
「・・・驚かせてすみません、私は『神』と呼ばれている存在です。あなたは死んで輪廻に組み込まれるはずでした」
「はずでした?」
「ええ、しかし、こちらの事情でもう一度別の世界で生きてもらいたいのですが・・・」
「転生ということですか?」
「・・・転生とは?」
現世のラノベについて神様に話す。
「なるほど、そうですね。転生です。しかし、人間がどうやって輪廻について知ったのでしょう・・・」
「・・・あの、少しいいですか?」
「なんですか?」
「一回、姿を見せてもらっても?」
「・・・わかりました」
神様がそういうと、白い空間に光が集まり始めた。
それはだんだん、人型になっていき、光が収まるとそこには12歳くらいの少女が立っていた。
その風景はとても幻想的だったが、今は言うことがある。
「何で私のボケの反応しなかったの!?滑ったみたいじゃん!」
「あれはどういう意味なんですか?」
よくよく考えると神様が知っているわけもなかった。
少し納得して落ちついた陽葵が質問を続けた。
「・・・で、これからどういう世界に行くのかですか?」
「私が管理している世界です。剣と魔法の世界です」
陽葵はとてもワクワクしていた。夢にまでみたあの展開だ。
「剣と魔法・・・じゃあ、チート能力はありま・・・」
「せん」
期待値が大きい分、ダメージはデカかった。
陽葵撃沈。
「あなたはそんな能力などなくてもだいじょうぶですよ」
「ふぇっ?なん・・・」
陽葵を眩しい光が襲った。