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( ᐙ )短編小説( ᐙ )

スマホネイティブ神様

作者: 迷迷迷迷

  休日のこと。

  バイトも気兼ねなく休める、ほぼ完全なる休日。要するにとてつもなく暇な時間。

  ある程度大人っぽく成長すると、こういった時間がとても貴重で有難いものであるということに、嫌でも気付かされていく。

  ガキ臭さに甘えたく無くなる、だがまだおつむは青臭いまま。

  何も完全なる成熟、完璧で最強な「大人」に成長することが出来たなどと傲慢な思いは持てそうにない。


  と、そのように哲学ぶった考えを巡らせられるほどには、いい感じに暇な時間。


  暇つぶしの方法この世界に多々有り。幾星霜の中で、モネはゲームで遊ぶことをピックアップしていた。

 

  文字通り指先で選んでいる。

  スマートフォンで気軽に遊べる、基本無料という名の大義名分のもと混沌が混沌を呼ぶ資本主義の電子迷宮。

  要するにソシャゲである。


  とても不変的なソシャゲ、こんご五年……いや三年くらいは安定したサービスが期待できる。

  安心して課金ができる媒体ではあるが、今月はまだ一円も貢いでいない。


  取り立ててコンプリート意欲がある訳でもなし。

  モネはゲームのホーム画面、特に欲しい訳でもない新しいキャラクターのPUガチャの広告分のような文字を読む。


  道端の看板を読むような感覚で読み終える。

  そして何をするでもなく、とりあえず目に付いた入力ボタンに指先を触れ合わせる。


  すると。

 

  こ。と、家のどこかから、スマホの表面とほぼ同じの音が聞こえてきた。


  疑問に思い、誰か尋ね人でも来たのかと身構えつつ耳を澄ます。

  無音がしばらく続く、スマホの音量はゼロ、自分以外に音は聞こえない。


  やがて諦めるように、再びスマホの電子画面に視線を戻して指を動かす。


  こ。


  まただ。

  また音がした。

  モネの耳は早くも集中力を極め、住居の窓の向こう、大通りの車が吐き出す排気ガスの気配も拾い集めている。日頃の耳掃除がここで効いてきている。


  しかし目的の音は聞き出せない。

  だが暇という名の空白は、今回の場合においてのみモネの脳みそに白紙のノートのような清らかさの元、思考という名の鉛筆が推理をスラスラと書き連ねていく。そんな感覚があった。


  試しに、指先でまたソシャゲに触れてみる。


  こ。


  ああ、やはりそうだ、ソシャゲに触れる瞬間に、この謎の家鳴りは鳴っているのだ。


  こ。


  不気味と言えば不気味。なんと言ってもモネがスマホに設定しているフリック音にとてもそっくりなのである。

  もちろんただの偶然の一致で、もしくはバーナム効果? のような思い込みかもしれない。


  こ。


  さすがに誰もいない部屋で家鳴りがこうも連続するとなると、心の方もだいぶオカルト気分になってきてしまう。

  ホラーは嫌いでは無いが、好んでみたいとも思わないタイプなのだ。


  こ。


  とりあえずスマホ、いやソシャゲを操作する際の指の動きに合わせ家鳴りが起きているようだった。

  それ以外に何かが起きる訳でもない。


  少しの間じっとしてみた。

  だが、どうにも落ち着かない。

  怖い訳では無い、せっかくの休みに家鳴りごときで大事な時間を消費したくない。という現代を生き急ぐ人間じみた考えも、なくはなかった。


  要するにだんだんとどうでも良くなってきていた。

  なので、お構い無しにソシャゲを遊ぶことにする。


  何もそこまで熱中することもないが、しかしほかにやりたいことも無い。

  積極的に生きたいとも思わなないが、だからといって意欲的に死にたいなんて思えるはずもなく、と言った宙ぶらりんな心持ちでしかなかった。


  やがてゲームにも飽きて、指先は動きを止める。

  家鳴りも、タイミングを合わせたかのように止まる。


  静けさ。


  考え事がまた膨らむ。

 

「もしかすると」


  もしかすると、この世界も所詮はゲームのようなものなのかもしれない。ということについて。

  生存戦略だとかレベルだとかステータスだとかジョブだとかレアリティだとかマルチシングルだとかガチャだとかクソゲーだとか弱肉強食だとか。

  そう言った中身、具の問題と言うより、もっと基本的な生地の話。


  ファンタジックな空想。

  この世界も実はゲームのようなもので? 先程の家鳴りは実は、なにかしらの神様がスマホでぽちぽちとソシャゲのログインボーナスを回収していた。その音色ではなかろうか。


  馬鹿げているとはおもう。

  だが、考えた瞬間にどこか救われたような心持ちにもなっていた。


  絶望、違う。諦め、それも違う。

 

  親近感……そう、モネは親近感を覚えていた。

 

  間違いない、あのフリック音は間違いなく自分の持つスマホのそれと同じ音をしていた。

  ダウンロード画面の僅かな暇も我慢できずに、無意味に電子画面を叩く。

  こ。こ。こ。音から電子画面の微かな電流まで、簡単に想像することが出来た。


  親近感が胸の内に灯った。

  神様も、自分たちの世界を好き勝手にできてしまうような神様も、もしかすると? スマホを持ってゲームで暇つぶしをしているかもしれないのだ。


  漠然とした不安が、スマホネイティブ世代な神様の寝姿に、少しだけ溶かされる。

  ほんの少しだけ、金平糖一粒の大きさだけが晴れた。


  これが神の天啓か? いやいやまさか、とモネは一人かぶりを振る。


  しかし家鳴りという謎のもと、ソシャゲという日常がつながりあって確かに、スマホで暇を潰す神様が生まれたのだ。

  それだけで、少しは面白くなったかもしれないではないか。

  神様が暇つぶしで遊んでいるかもしれない、この場所が、面白くなったかもしれないのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] Twitterからきました。 すぐによめちゃいました。 終始((( ;゜Д゜)))ドキマギして読み進めました。 とてもおもしろかったです
2023/03/04 16:42 退会済み
管理
[良い点] 世にも奇妙な物語のような不思議な雰囲気のお話で面白かったです! 神様がスマホを持っている様子が思い浮かびました! 容量問題でアンストされないことを祈るばかりです!
2022/11/29 10:15 退会済み
管理
[良い点] スマホの神様が箱庭を覗き込んでいるような光景が浮かびました。・・ちょっと違うかもしれませんけど。 取り上げたテーマというか、視点の妙を感じました!
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