第4話
レジーナの宿屋のドアをノックする音がしたので、出るとそこには見覚えのある顔が立っていた。
「え~と…」
彼女が言葉に詰まると、彼がいった。
「ケヴィンです」
「そうだ! ケヴィンだ! なんだ? 忘れものか?」
「先日は、ふがいない働きで、申し訳ありませんでした。もし可能なら、あなたのパーティーでもう一度使ってくださいませんか?」
「うん?」
レジーナは、スーザンとアメリアを集めた。
「…という話なんだが、どう思う?」
スーザンが答える。
「つまり、やっぱり金が欲しくなった、かな…」
アメリアがいった。
「いや、それは考えづらいんじゃないですか?」
「なんで?」
「だってそれなら、あのとき報酬を受け取るでしょう」
レジーナがいう。
「う~ん、じゃあアレか? ウチらから技術盗んで一人立ちしたいってパターン」
「まあ、その辺が妥当でしょうね」
「断るか…」
「え? 何でです?」
「だって、技術だけ盗まれて、逃げられたら意味ないじゃん!」
「バカだな。だからレジーナさんは、脳筋だっていうんですよ」
「とりあえず、聞こうか…」
「入口はそれでも、心変わりすることだってあるじゃないですか」
「え? 本気?」
ドロシーとの話で、アメリアの中でレジーナの評価が上がっていたのだ。
「ダメですよ! 自分を卑下しちゃ!」
「とりあえず、聞こうか…」
「レジーナさんとスーザンさんの魅力で、ケヴィンをこのパーティーに居つかせればいいんですよ!」
「なんだアメリア、つまりウチらにはそれだけの魅力があると?」
「もちろんです!」
「本当か?」
「自信を持ってください!」
「いろいろと引っかかるところはあるが… とりあえずやってみるか!」
そうして、ケヴィンをインフィニティー・パーティーに加入させることになった。
ケヴィンがこのパーティーに来たのは、自分が成長できると思ったからだ。
だとしたら?
「まずは、ケヴィンに技術を教えてください」
アメリアは、レジーナとスーザンにいった。
「自分が成長できていると思えば、彼はこのパーティーに居続けるでしょうから」
「まあ、そうか」
レジーナとスーザンは、エドモンドに教えられたように、彼に技術を教えた。
ケヴィンには、引きグセがあった。
大事な場面で、いったん引くのだ。
しかし攻撃にはタイミングがある。
連続して攻め続けることで、情勢が有利になるのだ。
「踏み込めない!」
ケヴィンがそういうと、レジーナは叱った。
「ちがう! 怖いんだ! キレイな言い訳をしてても技術は伸びないぞ! 怖がってる冒険者はいらない! 冒険者を辞めるか、ここで一歩を踏み出すか、今決めろ!」
何度もいい続けた。
「前へ出ろ! 引くな!」
ケヴィンが言い訳しようとするといった。
「いいから! ちゃんと失敗しろ! アメリアが治してくれるから! みんなを信じろ!」
いわれ続けて、ようやく踏み込めるようになった。
「どっちみち怒られるんなら、やって怒られたほうがいいって思うようになったんだ。経験にもならないしね」
酒場の反省会でそんな風に語る彼を見て、レジーナがいった。
「やっと冒険者になる覚悟ができたかな」
覚悟ができてくると、ケヴィンの成長は著しかった。
みんなで声を掛け合い、連携して仕事ができるようになる。
そうなるとできる仕事がどんどん大きくなっていく。
インフィニティー・パーティーは、ギルドでも屈指のパーティーとなっていった。
そうなると、ケヴィンにいい寄る女が出てくる。
さまざまな女があらわれ、彼を誘惑したが、彼は誰とも付き合わなかった。
ウワサでは、ギルド受付嬢のドロシーもフラれたという。
そしてケヴィンは、レジーナに告白した。
「レジーナさん、ボクと付き合ってください!」
アメリアは心ときめいた。
「これですよ! コレ! 最高じゃないですか! レジーナさん! やりましたよッ!! 勝ちましたよッ!!」
ところが、である。
レジーナはこういい放ったのだ。
「思ってたのと、ちがうな…」
「え?」
「いや… ケヴィンのことは好きだけど、そういうんじゃなくて、もっとこうなんだろうな… 燃えあがるようなカンジが…」
アメリアが叫んだ。
「死ねよーッ!!」
スーザンも、ドン引きである。
晴れ晴れとした顔をしているのは、ケヴィンだけ。
「レジーナさん、ありがとうございました。お世話になりました」
「え? どういうこと?」
アメリアがいうと、ケヴィンがいった。
「告白してダメだったら、パーティーを辞めようと思ってたんです」
「おいおい、勝手に決めてんなよッ!!」
アメリアがいうと、レジーナがいった。
「みんな、ケヴィンを気持ちよく送り出してやろうよ。仲間じゃないか」
「アホかーッ!!」
アメリアの絶叫が、こだました。
「レジーナさん、わかってます? ケヴィンの力もあって、このパーティー今絶頂期なんですよ?」
「うん。でも、ケヴィンの希望を尊重してやりたいんだ」
「はああああッ!?」
そしてケヴィンは去り、3人が残った。
「アホだ… アホすぎる…」
レジーナは満足顔だったという…
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