第3話
「で、誰なんですか、エドさんって?」
アメリアがが2人に尋ねた。
いつものクエスト帰りの酒場、地獄のほとりでのことである。
「だから、エドさんはウチらの育ての親だよ」
「そもそもお2人って、なんで冒険者になられたんですか?」
レジーナがいった。
「ウチは両親が冒険者だったんだよ。でも遭難して、2人とも死んじゃっってさ。そのときに引き取ってくれたのが、親の冒険者友だちのエドモンドさんだったんだ」
「結構重い話ですね」
「全然! フツーだろ」
「それで?」
「親のこと好きだったし、その流れで冒険者になろうとしたんだけど、エドさんに止められたんだよな。でもなりたいって駄々こねてたら、エドさんもついに折れてくれて」
「ふ~ん」
「エドさんは、冒険者になるんなら、って自分の知ってる全てを教えてくれたんだけど、魔法がぜんぜん覚えられなくてさ。その辺はエドさんに任せっきりだったんだよね。スーは、そのころに知り合ったんだよ」
スーザンが話しだす。
「ジーナとは同じ年だったけど、冒険者になってるって聞いて、憧れてたんだ。何度かしゃべるうちに友だちになって、ウチも冒険者になりたいっていったら、エドさんが教えてくれるようになったんだ」
「どういう家庭だったんですか?」
「ただの小作農民の娘だよ。あのままだったら、農民と結婚するか、売春婦になってたんじゃないかな」
「結構重い話ですね」
「全然! フツーだって! っていうか、アンタは…たしか、商人の娘だったよね」
「ええ、何不自由なく生活して、勉強して魔術学校に入りました」
「恵まれてんなぁ」
「まあ、治癒士はこんな人、多いですよ」
「だよな。金ないと、本さえ買えないしな」
酒を飲んで、話を続ける。
「それで2人で、エドさんに付いて冒険者のことを教えてもらったんだけど、スーも魔法がダメで使えないしで、エドさんに怒られてたんだよな」
「一度ジーナが大ケガしたことがあって、エドさんがめずらしく、うろたえちゃってさ、ジーナを冒険者にしなければ良かったとか、止めるべきだったとかいったわよね」
「そうそう! いいから早く治して!って」
「それからも魔法のことを覚えろってキツくいわれたんだけどさ、そうカンタンに覚えられたら、苦労しないっての」
「エドさんも、オレはオマエらが魔法覚えるまで死ねないな、なんていってたけどさ」
「それがあっさり死んじゃうんだもんな」
「ウチら、かばってさ。エドさん最期まで良い人演じてさ。バカだよ、あの人」
「……」
「最期の言葉が、オマエら、パーティーに治癒士を入れろよ、だもんね」
「だから…」
スーザンが、アメリアを見ていった。
「…アンタがパーティーに入ってきたってワケ!」
アメリアは何もいえなかった。
2人の男の理想が高いのも、ひょっとすると、そのエドモンドさんのせいかもしれないな、と思いながら。
後日、気になったアメリアはギルドの受付嬢のドロシーにも尋ねてみた。
「あの… エドモンドさんって、どんな人だったんですか?」
「あの人は、そうね… 冒険者パーティーでは役割分担が最近の主流だけど、全部自分一人でやるっていう考えの人で、本物の一匹狼だったわ。ギルド最高の腕の持ち主だったし、憧れてる人も多かった」
「へええ、会ってみたかったですねえ」
「なのに、あんな娘に懐かれちゃって亡くなって」
「もしかしてジーナさんのこと恨んでます?」
「私はあの人に告白したことがあったんだけど、フラれちゃってね」
「……」
「今はそんな気になれないし、好きな人は他にいるって」
ドロシーは美人である。
そんな彼女にギルドでいいよる男も多い。
それにも関わらず彼女は、誰とも付き合っていなかった。
「へええ、ドロシーさんの告白を受けない人なんているんですねえ」
「そうね。それがあんなアホ女のせいだなんてね」
「え? え? それって?」
「そうよ。エドモンドさんは、レジーナが好きだったのよ」
ギルド一の冒険者が、あのレジーナを好きだって?
しかも、ギルド一の美人のドロシーより、モテてるって?
「それ本人にいったことあります?」
「なんでいうの?」
「だって…」
「私が負けたって、本人にいうの?」
「いや… その…」
「本人は気付いてないけどね、あの娘はモテるのよ。ギルドの腕のある冒険者は、みんなあの娘の腕を認めているからね。でもあの娘はアホみたいな男にホレられることをモテるってカン違いしているから」
「……」
「いうワケないでしょ、こんなこと… だって、いい男が取られちゃうんだから…」
アメリアはゾッとした。
「怖っ! ドロシー、怖っ!」
それ以来、アメリアはドロシーと距離を置くことにしている。