第2話
「お~い! アメリア!」
ここはアメリアがいる宿屋。
「お~い! いるんだろ?」
レジーナが隣にいるスーザンにいう。
「いないのかな?」
「どうだろ」
「お~い! アメリアさ~ん!」
ドアが開く。
能面のようなアメリアがいった。
「どなたですか? うるさいですよ」
「またまたぁ。行こうぜ、クエスト!」
「二度と一緒に仕事しないっていいましたよね、アタシ」
「あのときのことはさぁ、お互いさまでしょ?」
「謝ってくださいよ」
「はいじゃあ、さーせん」
早口で片付けようとするレジーナに、アメリアがいった。
「さーせん?」
「すいやせん」
「すいやせん?」
「めんご! めんご!」
「めんご?」
「もういいだろ? 悪かったよ!」
「……」
「え? まだ続ける気?」
「ま、いいですけど…」
「大人げないよな… ホントに来ないなんて」
「はい、お2人より若いんで!」
「なァーにィー?」
これでこの件は、不問となった。
ギルドに3人で出かける。
クエストを応募するのだ。
ギルドに入ると、レジーナがぶっきらぼうに受付嬢のドロシーにいう。
「ちわ~ス」
ドロシーは会釈した。
その様子を見ていたアメリアがいう。
「あの、前から気になってたんですけど、なんでそんなにドロシーさんに冷たいんですか?」
「え?」
「冷たいですよね態度」
「ああ、アイツらが嫌いなんだよな」
「は?」
「アイツらここに男探しに来てるだろ」
「そりゃそうですよ。ギルドの受付嬢なんて安い給料なのに、何でしてるんですか。冒険者と結婚するために決まってるでしょ!」
「仕事とプライベートを混同するのはどうなのよ?」
「いや、いや、いや。逆に新鮮だわ、そんな意見」
「マジメなウチとしては、許せないていうか~」
「モテるから悔しいだけでしょ」
「それもある」
「認めるんだ、それ」
ギルドの中にはいろいろなパーティーがいる。
その中の1人を見て、レジーナがいった。
「あ、ジャスミンだ」
「誰です?」
「アイツ、若い男と組んでんだよ。キショいわ」
「?」
「だってどう見ても絶対、恋愛目的だろ!」
「あの… さっきから、気になってたんですけど…」
「なに?」
「なんでそんなに冒険者原理主義なんですかね?」
「なんだそれ?」
「冒険者にストイックすぎるていうか、バカ正直っていうか…」
「?」
「合コン気分で仕事しても、良いんじゃないですかね…」
レジーナは、ハッとした。
モテないのは、これが原因だったのだ!
スーザンにとっても、それは同じだった。
3人は、急遽メンバーに男を入れることを考え始めた。
「とはいえ、気乗りしねえなァ…」
渋るレジーナをアメリアがなんとか口説いて、パーティーに入ってきたのがケヴィンだった。
もちろん、悪名高きインフィニティー・パーティーに加入しようというのだから、もちろん経験などなかった。
ゴブリン退治のクエストに出かける。
男がメンバーに入っただけで、レジーナとスーザンは浮足立った。
「あの…、気持ち悪いですよ…」
アメリアにこういわれて、2人は落ち着かねば、と思った。
しかし、目的にはストイックな2人である。
ゴブリンの巣の洞窟でよろけて、レジーナは足がくじいたふりをした。
「ケヴィン、見て…」
近寄るケヴィンにレジーナは、足を広げて見せた。
下着が目に入ったケヴィンが、顔を赤らめる。
たまらずアメリアがたしなめた。
「マジで止めてもらえます?」
「え?」
「ソレ若い男、マジでドン引きですよ…」
気負った2人の会話はぎこちなく、当然ケヴィンが気軽に話をするのはアメリアとなった。
2人はそれが面白くない。
「あのさ、コイツ、ゴブリンに犯されて、フツーのセックスじゃ満足できない体なんだよ」
「また! それいう!」
ケヴィンが反応する。
「また?」
全力でアメリアが否定した。
「いや、いや、いや。ウソですから! 全部デタラメですから!」
「はあ」
「頭おかしいからッ! ホント!」
「アハハハハ」
レジーナとスーザンはどこ吹く風という調子だった。
「!」
突然2人の表情が変わった。
ゴブリンの気配を感じたのだ。
気付かずしゃべろうとするケヴィンを制止する。
「シーッ!」
岩をよじ登ると、裏手にゴブリンがたむろしていた。
6匹。
数が多い。
しかし2人は、ひるんだりしなかった。
「行くぞ」
レジーナ、スーザン、ケヴィンで討ち取りにかかる。
しかし、ケヴィンは早々に敗退。
レジーナが助けに入り、スーザンがケヴィンを引きずって戦闘から離脱させ、アメリアに治療させた。
そのあとは2人の独壇場だった。
ケヴィンは、治癒士のアメリアを守るのが精いっぱい。
先陣を切るなど、全くできなかった。
彼の剣士としてのプライドは、大きく傷つけられた。
そうして、ゴブリンはすべて退治され、クエストは終わった。
レジーナがケヴィンにいった。
「全然役に立たなかったな」
「……」
「アメリアもさ、オマエを立てようとして後ろに付いてたけど、アイツ本当は結構戦えるからな」
その言葉で彼の最後のプライドも消し飛んだ。
アメリアがいった。
「それ、いわなくていいんですよ」
ギルドに着いて、報酬を受け取るとき、ケヴィンはそれを辞退した。
「持って帰れよ。一日分の拘束代だ」
そういわれても頑なに拒否した。
アメリアがいった。
「あれは、二度と来ませんね」
「うまくいかねえな…」
レジーナがいった。
スーザンが、ふといった。
「エドさんが、いればなぁ…」
レジーナが同調した。
「エドさんか… 確かに…」
アメリアがいった。
「誰です、それ?」
「ウチらの育ての親だよ」
「いや、いや、いや。そのエドさんでも無理でしょ!」
レジーナがいった。
「いいや! エドさんなら、何とかしてくれたね!」
そういって、レジーナとスーザンは、ため息をついた。