第1話
どうぞよろしくお願いします。
「さて…」
剣士レジーナがいった。
顔が赤くなっているのは、酔いが回ってきているからだ。
「…ウチらに男がいない、という問題なのだがーッ!!」
ここは『地獄のほとり』。
このあたりの冒険者の行きつけの酒場だ。
クエスト終わりのいつもの飲み会。
剣士レジーナと剣士スーザンと治癒士アメリアの女3人は、冒険者パーティ『インフィニティ―』のメンバーだ。
「またっスか? その話?」
少々あきれ顔でアメリアがいった。
男がいない話は、レジーナとスーザンが酔いが回ってくると必ずする話なのだ。
「『また』だと?」
いきりたってレジーナがいうと、アメリアが反論した。
「だって、そうじゃないですか。若いときは体目当てで寄って来る男を断ってたのに、年取って寄って来なくなったら今度は欲しいって! アホ過ぎるでしょ」
余裕をかますアメリアに、今度はスーザンがいった。
「オマエは男いるからな…」
「ええ、お二人と違ってモテるんで」
「なァーにィー!?」
2人がいきり立つ。
「事実ですから…」
「オマエなんか、若いってだけだろッ!」
「そもそもオマエの男なんて、クソだろがッ!!」
「ちょっ! 八つ当たりでハリーのこと、悪くいわないでもらえますぅ?」
「オマエだって、ブサイクだからなッ!!」
「あーヤダヤダ、モテない女のひがみって」
「……」
ふと我に返ったレジーナが、捨て鉢にいった。
「だったらッ! どうすりゃ、モテんだよッ!!」
アメリアが冷静な表情でいう。
「合コンとかすればいいんじゃないですか?」
「合コンッ!?」
「そうですよ。男と女が知り合うっていったら、合コンでしょう」
「ツテがあるわけねーだろッ!! ウチらにッ!!」
「ありますよ」
「えッ!?」
2人に希望の光が差す。
「まさか… オマエ…」
「魔術学校同期の知り合いにいえば、なんとかなるんじゃないですかね…」
「マジか…」
「でも、どうしようかな… アタシ、ブサイクらしいし…」
レジーナが、間髪を入れずにいう。
「まあ誰でしょう? アメリア様に、そんなこという人は?」
スーザンも立ちあがっていった。
「美しいアメリア様に、嫉妬しているんですわ。きっと!」
「そんなにいうんなら、考えなくもないかなあ…」
「アメリア様ぁ~!!」
そして…合コン当日…
レジーナとスーザンはできる限りのおめかしをして、店に急いでいた。
もちろん店は地獄のほとりなどではなく、洒落た料理を出す店『ボーノ』だ。
「それにしても、スゲーな魔術学校の同期。ウチも治癒士になれば良かった」
「脳筋のジーナさんが、治癒士ですかぁ? 面白い冗談ですねえ!」
(コイツ… 合コン終わったら、殺してやる…)
もちろん口にはしない。
男5人女5人。
女のうちの3人はインフィニティーのメンバー、残り2人はアメリアの同期だ。
合コンが進むにつれ、レジーナとスーザンは、自分が浮いていることに気づいてきた。
そもそも、話題が合わない。
アメリアがいう通りの脳筋の2人は、おしゃれなカフェも話題の演劇も知らなかった。
男たちとは全く会話が弾まなかった。
「ちょっと、トイレ行くわ…」
たまらず、レジーナとスーザンは、席を立った。
2人がいなくなると、男の1人がアメリアに話しかけた。
「あの2人はどういう人なの?」
「うちのパーティーの先輩です。お2人ともすごく腕が立つんですよ!」
「ふ~ん」
「前にゴブリン退治のときに、ゴブリンの巣で取り残されたんですけど、お2人が助けてくれたんです。あのときは頼もしかったなあ」
「ふ~ん。っていうかあの2人って、2人だけで、ゴブリンの巣を撃退できるんだ」
「ええ、お強いんですよ!」
「あはは、そんなカンジだよね! オレたちより、ゴブリンの方が似合いそう!」
隣の男が同調した。
「そうそう! 女ゴブリンってカンジ!」
「いえてるッ! あははッ!」
そこへ2人が、トイレから帰ってきた。
「なんだって? ずいぶん楽しそうだな」
アメリアが答える。
「ええ、お2人にアタシがゴブリンから助けられた話をしてたんです」
「ふ~ん。まあ… 聞こえてたんだけどさぁ…」
男たちは、顔を伏せる。
スーザンが陽気にいった。
「女ゴブリンの登場で~す!」
彼らの卓は、静まりかえった。
「そうそう、あのときコイツさあ…」
とレジーナはアメリアを指さすといった。
「…ゴブリンに犯されまくって、フツーのセックスじゃ、もう満足できなくなっちゃったんだよね!」
シーンとした卓。
「ちょッ… やめろや!」
アメリアが、顔を真っ赤にしていう。
「ウソですよ! ウソですよ! ちゃんと隠れてましたからッ!」
「はいはい! そういうことに、しときましょうね~」
「やめろや! マジでッ!」
「帰りま~すッ!!」
レジーナとスーザンは、店を出ていった。
逃げるようにアメリアも後を追う。
「あの… 本当に、ウソですからねッ!」
残った男たちに、最後にこういうのだけは忘れなかった。
2人に追いつくと、アメリアはいった。
「謝ってください!」
「は?」
「さっきの謝ってください」
「さっきの?」
「トボける気ですか? 許せませんよ、さっきのことは」
「ああ、オマエの性癖のことか」
「女ゴブリンっていわれて怒ったのはわかりますけど、アタシは無関係ですからね!」
「何いってんだ! わざわざ出向いて、不快な気持ちにさせやがったクセに!」
「アンタらが、会話下手なだけでしょうが!」
「合コンで、ツマんねー男そろえやがって!」
「謝らない気ですか?」
「あたりまえだろッ!」
「じゃあ、二度と来ないから!」
「は?」
「今後このパーティーには、二度と来ないから!」
「望むところだよ!」
「じゃあ! さようならッ! 今までありがとうございましたッ!!」
「ああ! あばよッ!」
そうして、2人とアメリアは別れた。