事故判断
山道には街灯が無く闇を切り裂くのはヘッドライトの灯りだけだった。
丘のカーブにかかり、ガードレールとその奥に広がる夜空を横目にハンドルを切ったその時、視界に薄紫色の塊が飛び込んできた。
「うわッ!」
ガンッ!と車に衝撃が走り、俺はとっさにブレーキを踏んだ。
車から降りると血の染み込んだ後ろ姿がヘッドライトに照らされていた。
小柄な背中とありえない方向に曲がった四肢を見る限り老婆のようだった。慌てて近づき声をかけた。
「おばあさん!おばあさん!聞こえますか?」
返事も無く、息もしていない老婆の首はぐったりと重力に従っていた。俺は老婆を地面に寝かせると携帯電話を起動し、119番を押した。
しかし、携帯電話を耳に付けた次の瞬間に俺はハンドルを握って車内に座っていた。
事態を飲み込めていない俺は眼前に迫るカーブを急いで曲がるとまた薄紫色の塊が目の前に出てきた。
ガンッ!
私には何が起こっているのか分からなかった。
しかし、人を轢いたことには変わりがないのですぐに老婆へと駆け寄り、119番へと電話をかけた。しかし、その通話は繋がらずに俺はまた車内に戻っていた。
俺はカーブを曲がり切る前にブレーキを踏んだ。
このままカーブを曲がれば恐らくまた老婆を轢いてしまうだろう。あのカーブを走ることが何かしらのスイッチなんだ。
俺は車をUターンさせると逆方向に走り出した。
これなら多少遠回りにはなるが老婆は現れない。そう思い加速した瞬間、脳裏に焼き付いた薄紫色の塊がヘッドライトに直撃した。
私の悪寒は全身を駆け、寒い感覚に反して嫌な汗が背中に服を張り付かせていた。
もう見なくても分かる。俺は携帯電話に手を伸ばした。
「この事故から逃れられないのか・・・」
幾度となく老婆を轢き、俺はもうどうすればいいのか分からなかった。
車を捨てようとして、老婆は上から落ちてくることもあった。
もう、これしか方法は無い。俺は覚悟を決めてアクセル吹かし、カーブにあるガードレールを突き破った。
そう、これでいいんだ。これならだれも傷つけずに済む。
俺は迫る地面をフロントガラス越しに見た。
前方から落ちた車は縦に潰れ、目の前にはいろんな残骸が落ちていた。そんな中、妙に大きな球体が転がっているのが視界に入った。
それはどちらのとも見分けのつかない血に染まった老婆の白髪頭だった。
俺はポケットの携帯電話に手を伸ばした。