第3話 元気で羞恥な自己紹介
「後で様子を見に来ます」
そういって、雪那は部屋を出ていった。一人だけの部屋で俺は物思いにふける。
(ずっと混乱してて、よく考えてなかったけど、俺って結構ヤバい状態なのかもしれない。異世界に来たはいいけど元の世界はどうなってるんだろう?俺がいないまま時間が進んでるのかな?っていうかそもそも戻れないかもしれないけど。っつうかここに住んでる人達は誰なんだろう。本当の家族じゃないってことは他人同士?でも美和さんは大人っぽいけど、柚と子白と雪那ってやつは明らかに未成年だったし、親とかいないのか?もしかして家出?誘拐?だったら警察の捜査とかは?生活費とかはどうしてる?それにさっき俺の健康状態がヤバいって言われたけど実感0なんですけど!?もしかして神経まで狂ってんのか!?)
ガチャリ
俺の物思いは部屋にやって来た美和にかきけされた。
「通太さん、ちょっと私についてきてくれる?皆が待ってるわ。」
「皆ってまさか……」
「住人の皆よさあ早く!」
そう言われて部屋の外に出る。そういえば初めて部屋の外を見た。俺が居た部屋は廊下のはしっこに有ったようだ。途中に幾つか部屋が有ったが、美和は素通りしていく。そして、空き部屋と反対側の廊下の端にある部屋の前で止まると俺の方を見た
「ここがホールよ。さ、入って入って♪」
促されるまま部屋にはいると子白、柚、雪那を含めた7人が立っていた。その中で一番背の高い女性が言った
「よ、あたしがここの管理人だ。今日からよろしく」
「え?今日からって....俺が入居してもいいってこと?ってか、俺が入居したいって、いつの間に知ったんだ?」
俺の発言を聞いた美和がクスクス笑った。
「通太くん、私達にはめられてるね。管理人さんが雪那ちゃんに頼んで入居させるように説得してもらったの。」
「正確にはあたしが美和に頼んで、美和が雪那に頼んだんだけどな。」
管理人が美和につっこみをいれる。俺が雪那の方を見ると、雪那は申し訳なさそうに
「ごめんなさい。さっきの.........嘘です.....」
と謝ってきた。俺のさっきの心配事の一つがあっさりと解決された。完全にだまされてた。
「まずは全員自己紹介からだな。それぞれ担当があるから、しっかり覚えろよ。」
どうやら俺の入居は確定したようだ。
「改めて、あたしは稲見朱美。さっきも言った通りここのシェアハウスの管理人だ。管理人って呼んでくれ。」
管理人はニッコリ笑ってそう言った。次に口を開いたのは子白だった。
「僕は唐木子白。名目上は家事担当です。下心さん、よろしくお願いします。」
「だから、俺は下心さんじゃねーし!!」
俺の声に怖がったのか、子白の後ろから柚が顔だけを出し小さい声で話し始めた。
「あ.......僕は、小野瀬......柚です...........家事担当......です」
そう言うと、柚は完全に子白の後ろに隠れてしまった。気が弱いんだな。次に美和が、
「さっきも言ったけど私は美和。江月美和。私も一応家事担当だけど柚くんが全部やってくれるから実質ニート担当かな~」
ふざけて笑う美和を、スマホを手にした少年が睨む。
「ないだろ、そんな担当。」
そして、そのまま、
「俺は光希。」
とだけ言った。冷たい。そんな俺の言葉を代弁するかのように金髪の女性が口を開いた
「やっぱり光希ハンコーキじゃんw冷たいね~w」
そして、俺の方を向いた。
「ウチは充華。金銭担当~。よろ~♪」
「よろしくな!!」
俺が充華に返事をすると、充華の隣にいた青色の女性も口を開いた。
「ウチは端恵。バリバリの金銭担当だわ~。」
そして、端恵は雪那を指差した。
「この子は雪那。医療担当してくれてるの。医療以外は柚が一番頭がいいけど、医療だけは雪那が一番得意!」
柚が一番頭がいいということに驚いて雪那の情報が頭に入ってこない。管理人がニヤリと微笑んだ。
「これで8人の自己紹介が終わったな。あんたは自己紹介しないのか?」
「勿論してやるぜ!」
俺は意気揚々(いきようよう)と声を出した。
「俺は普山通太!!よろしくな!!以上!!」
場が静寂に包まれる。静寂を破ったのは管理人だった。
「あはははは!!こういうときは丁寧に挨拶するんだけどなww普通は!場が凍り付いてるwwってか普通じゃないとか名前に合ってないww面白いなwwあんたはwww」
腹を抱えて笑っている。本気で自己紹介したつもりだった、恥ずかしい。
「自己紹介が他に思いつかなかったんだよ!!。」
「あははははww」
俺の言うことを無視して、管理人は笑っている。俺はふと気になったことを口にした。
「そういや、担当って俺にはないのか?」
「ああww勿論あるwwあんたはパシリ担当だww」
「はぁ?」
思わず声が出た。
「パシリ?なんだその担当は?」
「無能な下心さんにも分かるように言い換えると買い物担当ですよ。僕らが欲しいものを買ってきて下さればいいんです。」
俺の質問に答えたのは子白だった。
「もう下心さんで決定なんだな.....。まぁわかった。欲しいものがあったら買ってくるからいってくれ!あ、そう言えば買い物の費用とか俺の生活費はどうするんだ?」
「それはあたしがはらうよ。じゃあこれであんたの入居決定!!あんたに否定権はないから!」
「否定権があっても、飯が食えるんだったら否定はしないぜ」
俺の言葉を聞くと管理人は満足そうにうなずいた。そして一枚のメモと最寄りのスーパーへの地図を俺に渡した。
「じゃあ通太、早速初仕事だ!」
そう言われて俺はメモを見た。
ー買ってきて欲しいものー
林檎
小松菜
ホウレンソウ
玉葱
長ネギ
岩塩
きび砂糖
葡萄酒
焼酎
「これを買ってくればいいんだな!!」
そういって俺はスーパーへと飛び出していった