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まだ戦争が終らない

 神聖歴1920年/皇歴2005年2月は西方の混乱と共に過ぎ去った。


 シャー・ド・シールとその政権は2月16日、アレマニアの攻撃を交渉拒否と判断して第一王子を処刑する。


 この事でそれまで静観していたアルピオスがシャー・ド・シール政権に対して宣戦布告、それまでとは戦争の様相がガラッと変わってしまう。


 アレマニアはゴール本国を戦場にして南西部を目指し、アルピオスはゴール本国を素通りして大洋岸から南方大陸、メディーックやその沿岸地域へと侵攻した。


 アルピオスの目的は明らかだったが、この時点ではアレマニアはどうする事も出来なかった。もちろん、アレマニアにとっては聖海沿岸を既に支配下に置いているので今更焦る必要も無いのだったが。


 アルピオスの参戦で3月11日にはシャー・ド・シール政権はあっけなく瓦解し、アレマニア支配地域にあった暫定ゴール政府が全土への施政権回復を宣言し、西方における戦役は幕を閉じることになった。


 しかし、戦争はそれで終わりではなかった。


 戦後、アルピオスや独立を回復したゴールは南方大陸から収奪に近い形で輸入した資源や富による経済の回復を目指すのだが、それは既に南方大陸に植民していた西方系住民からの反発を買う事になる。


 それは当然の成り行きであったが、アルピオスやゴールが自国を再建するには他に手段がなかった。


 さらに、神聖歴1922年/皇歴2007年になるとゴールでは分離独立運動が活発化して、西部、南西部がそれぞれ独立闘争を始める、

 この闘争は南方領土へも飛び火し、南方での分離、独立運動にも火をつけることになった。


 この混乱の最中、行方不明となっていたシャー・ド・シールが南方大陸で新たにイフリーカ共和国の建国を宣言し、大陸中部で現地住民や西方入植民を巻き込んで独立闘争を始める。


 さらに南部にあるアルピオス系入植民とゴール系入植民でも分離独立や入植地間での抗争が始まってしまう。


 西方戦争に対し、南方戦争とも呼ばれるが、後に独立大戦という名称が付くことになった。


 個々の独立運動や抗争はバラバラに始まったもので、ここが始まりというモノは存在していないので、各国によってその始まりをいつとするかは様々である。


 例えば、リーベンにおいては、友好国であったアビシニアがシャー・ド・シールに影響された東イフリーカ軍なる組織の侵攻を受けた皇歴2009年からとしているが、実際に南方大陸に展開を開始したのは、大陸南東部に位置する自身の飛び地がゴール系入植民、ポルトランデに襲撃された皇歴2007年5月17日であった。


 南方大陸において独自の産業を既に構築しようとしていたアルピオス系入植地ブーアでは、世代遅れとは言え、その工業力を生かして独自の兵器生産まで開始されていた。


 そこにはシャー・ド・シールを通じた技術情報やゴールからの分離独立を図るスエビからの密輸による精密機器の取得という支援も行われており、戦力としては無視できない規模になっていた


 神聖歴1925年/皇歴2010年にはゴールは自国からの分離独立を図った西部モナルキア、南西部スエビの独立を認め、西方における戦争は収まったのだが、シャー・ド・シール率いるイフリーカ共和国や南部のポルトランデを承認することは無く、南方大陸への派兵を継続していた。


 アルピオスもブーア独立を承認せず、ゴールと共同で派兵を行っている。


 しかし、本国間での交戦こそないモノの、未だにモナルキアやスエビは南方勢力への密輸を止めることなく行い、アルピオスやゴールは戦争の泥沼へと引き込まれていく。


 そんな中、神聖歴1927年/皇歴2012年には南方大陸中部、オリミリ川下流のデルタ地帯で油田が発見されたことで、アレマニアもイフリーカ共和国打倒に参戦してくる。


 アレマニアの参戦で事態が収束に向かうという希望的観測もあったが、全く影響なくただ戦線が拡大していくだけとなっていた。


 中部は熱帯雨林地域であることから伝染病や感染症の危険も大きく、各国とも戦闘よりも防疫に力を入れるという、何をしているのか分からない状態になってはいたが、石油、宝石、金といった資源が各地に存在している事から、シャー・ド・シールも資金に困ることなく、鉱山を支配してはその採掘品を資金に密輸を繰り返していた。


 この頃になるとブーアの産業も密輸された宝石や金、更に自国でも宝石や貴金属が産出するのでそれをモナルキアやスエビに流し、または東方へと輸出することで様々な技術や工作機械を得ていた。


 その為、神聖歴1927年/皇歴2012年頃になると西方やリーベンとそん色ない性能を持った兵器を送り出し、イフリーカやポルトランデへと供給するようになる。


 そして、ポルトランデが南部に広がる原住民を制服して勢力を伸張し、本格的にリーベン南方領である南国へと攻勢を強めると、それまでの抑制的な戦闘から本格的な戦争へと拡大していく。


 神聖歴1927年/皇歴2012年7月23日には当時実戦配備されたばかりの一二式戦闘機、疾風が南国へと展開する事になった。


 

「ここは過ごしやすいな。ってか、なんで俺が・・・・・・」


 南国州の州都である真富戸で志波は肩を落としていた。


 酒寄はすでに引退し、空軍整備隊の要職にある彼がこんな前線に来たのには訳があった。


 それが実戦配備が始まった一二式戦闘機、疾風である。


「廠長、今は冬ですからこの程度ですが、1月だと日中は冷房が無いと室内は地獄ですよ」


 そんな声を掛けられた。絶句する志波であったが、それよりも不満があった。


「飛燕ですらイカレたエンジンだったのに、何だよ、アレ。複合機関?ターボコンパウンド?名前がどうのというより、複雑すぎるんだよ」


 そう、そのエンジンに大問題を抱えていた。


 隼の後継機である飛燕、八式戦闘機には耐熱技術の進歩で機械式過給器ではなく、排気駆動過給器、いわゆるターボチャージャーというモノが装備されたが、N24にはそれが2基備えられ、高過給が行われていた。

 エンジンも隼時代よりも進歩しており、4千回転を平然と回せる仕様で、3500馬力というトンデモだった。 

 なにより、排気制御によって低空域と高高度では過給に回す排気流量が違うのだが、その制御装置が熱でヤラれる事が多くて悩まされた。

 エンジン自体も下手な整備では簡単に失火し、燃料噴射器の調整を間違えるとエンジン始動すらままならない事もあったほどだ。、


 そして、そんな手間のかかるエンジンから今度はより複雑な構造が追加されている。


 これまでの戦闘機といえば、エンジンを機首に積むのが当たり前だったが、コイツは操縦席後ろにエンジンを積み、そこから延長軸でもって機首のプロペラを回す。


 ならば機体中央部に排気管の列が並びそうなものだが、当然、そんなものはない。


 排気は尾翼の下に大きな口をあけている。


 エンジンはこれまでのH型24気筒から水平対向12気筒へと変更されているが、それは単に新機軸を採用するためのスリム化である。


 水平対向エンジンの下にはさらにエンジンモドキがコバンザメしている。


 過給器と云うのはこれまで風車の様な構造だったが、この過給器は蒸気タービンの羽根車の様だ。


 蒸気タービンの様ないく層もの羽根車で空気を圧縮し、とんでもない高圧でエンジンを回すとともに、排気タービンへも送られる。

 そして、排気ガスで羽を回した直後に送られた圧縮空気は、排気ガスと混合され、離陸時や加速したい時には燃料を噴射してロケットのように噴射することでさらなる推力を得るという仕組みだ。


 通常時で752kmだが、低高度での噴射で786km、高高度でならば834kmという速度を出せるようになる。

 似たような装置をルテニアが戦闘機に装備したらしいし、アレマニアに至ってはエンジンを圧縮駆動専用と割り切ってプロペラではなく、噴射推力のみを用い時速850kmで飛ぶ機体を実験中だという。


 というのも、プロペラによる推進では750km前後が効率的な限界で、より高速を求めるのであればプロペラではなく、ロケットの様な噴射力に拠る方が効率が良いらしい。


 といっても、レシプロエンジンを用いない純粋なタービンエンジンは燃焼室の構造やその制御、熱対策が未だに上手くいかず、しょっちゅう爆発している。この制御が出来るまでは、こんな複雑怪奇なエンジンで空を飛ぶことになるらしい。


 当然、最前線で修理など出来ないので、前線後方に整備廠を設けて一括修理と重整備を行う事になった訳だ。


「ったく、ブルームフォンテーンとかいう爆撃機のためにここまでせにゃならんとは・・・・・・」


 志波はその異様に長細い機体を眺めながらため息を吐いた。


 戦争はまだ終わりを知らない。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] レシプロエンジンにアフターバーナーが付いとる……
[一言] 戦争は続くとなっているのに完結になってますよ。 レシプロ限界の800KM/h級化け物レシプロ機と、黎明期のジェット戦闘機とどっちが強いかと聞かれたらどっちなんでしょうね。
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