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時代の節目は突然に

 藍牡基地で激論が交わされている試製五式戦闘機を眺める志波は、ぼそっと


「こいつは野生馬か?それじゃあ、締まらないな・・・・・・、隼で良いか」


 などとその愛称を考えていた。


 そして、どうしようもなく非効率なプロペラに頭を悩ませても居た。


 試製五式あらため、隼0型に装着されたプロペラは、試験機という事もあって彗星のモノを手直しした4翅プロペラだったが、それではN24Xの出力について行けてはいなかった。


 その為、プロペラ開発も行われていたが、どれが良いのか結論が出ないまま、6枚、5枚、幅広4枚、3×2枚二重反転などが試作され、量産に向けた最終試験の段階にあった。


 そんな事もあり、整備員たちが過給圧問題でもめている最中にも酒寄が明確な指示を出さないのを見て、自分が試されているのだと思い、プロペラ性能から過給圧降下が妥当と判断して整備陣へと指示を出した。


 志波はプロペラだけでなく、彗星よりもさらに洗練された機体にも注目していた。


 環状ラジエータで機体に無駄な突起を持たないBa190にも劣らないソレには脱帽だったし、整備書に記載された空力処理に関する記述も何とも凄いモノだった。


 それまでは単に機体からダクトを出せば空気を捕まえられる程度の考えだったが、機体表面を流れる気流が周辺より遅く、すこし離した方が効果的だなどとは知る由もなかったし、ただ三角のヘコミを造形して空気を取り入れるなど、思いもしなかった。


 随所にその様な新たな考え方がちりばめられた機体には眩暈すらした。


 ただ、エンジンには驚きよりも先に呆れがが来たのも正直なところだった。


 NK24より小型化した挙句にどうして3000馬力など目指そうとしているのか、実のところ理解が及ばなかったし、そんな挑戦的なエンジンなのに整備性が考えられている事には感謝すらしていた。


 しかし、これを3000馬力まで高めるには、量産品ではなく芸術品の領域にしなければ無理ではないかという感想も持って居た。


 といっても、機体のリベット工法すら変更されているのを見れば、不可能だと断言できないところが怖くもあった。


 神聖歴1919年/皇歴2004年10月22日


 新たに隼0型が増強され、藍牡到着直後にエンジンが壊れた潟稲の様な迷人も居たが、おおむね隼の性能に問題はなかった。


「あの、着いてそうそうなんですが、交換エンジンは・・・」


「あるよ」


 寄って来たスキンヘッドの強面整備員に恐る恐る聞いた潟稲に返ってきたのは、彼の常套句であった。交換用エンジンがあったのは偶然だったが。 


 そんな珍事が起きた翌日、アレマニア軍の空襲が藍牡を襲い、前進基地のあった井倉恩へとアレマニア軍が強襲上陸を行い、航空隊は追い立てられるように最東端の港湾施設がある仕手藍へと逃れることになった。


 リーベン軍は中央山脈でアレマニア軍を阻害していたが、その東側、井倉恩へとアレマニア軍が上陸してきたことで危機に瀕するが、アレマニア軍の攻勢も長く続くことなく、事態はまた膠着する事になった。


 リーベン海軍でも飛行機巡洋艦がようやく実用化し、暮田島周辺へも進出させる事が出来た事と、海軍機の航続距離が四式双軽に迫るもので、穴井島に駐留し始めた海軍部隊が長躯飛来するようになったのが大きい。


 リーベンでは開戦前から飛行機巡洋艦に興味は持って居たが、平時に建造できるほどの予算は無く、更には空軍とは別に戦闘機や爆撃機を持つという議論も進められてはいなかった。


 しかし、暮田島へとアレマニアが、それも海軍航空部隊が進駐した事で、リーベンにも海軍航空部隊の必要性を感じ、彗星で手一杯の仲治ではなく、菱形へと開発を依頼することになった。


 当然、飛行機巡洋艦という艦種自体が暗中模索で着艦方式すら固まっていなかったが、アレマニア海軍の飛行機巡洋艦に対する偵察やPf109の残骸を調査した結果、艦載機に必要な構造を何とか習得し、開発されたのが、艦上戦闘爆撃機「海燕」だった。


 海燕には菱形が開発した空冷星形18気筒エンジンが採用され、Pf109の様な小型の機体に大馬力エンジンを積むことで高速を得、玉須賀謹製自動空戦フラップによって旋回性能も高く、225kg爆弾4発ないし、750kg爆弾1発を搭載しての爆撃能力も有する機体であった。


 空力研究所の技術も用いられており、空軍次期戦闘機として開発していた紡錘形から脱却し、液冷機の様な細い機体に大直径の18気筒エンジンを備え、集合推力排気管を機体側面に配置することで気流を整え、空軍戦闘機で目指した650km以上という速度をいともたやすく実現している。

 もし、紡錘形で製作していれば抗力の影響をもろに受け、同じエンジンを使いながらも630km以上出なかっただろうと言われている。


 ただ、リーベンは大きな勘違いをしていた。


 確かにPf109にも爆弾搭載能力はあるが、アレマニア海軍にはユルゲンス社の開発したJu99という艦上爆撃機が存在し、この頃には新型のJu187が登場していたが、いまさらその事実を知ったところでどうしようもなかった。

 何より、一機種で空戦も爆撃もこなせるのだから、わざわざ開発しようという考えも無かった。


 そんなリーベン海軍航空隊が400km離れた穴井島から井倉恩を横撃するような形になっているのだから、アレマニアの戦力は分散し、井倉恩の維持だけで汲汲するようになっていた。

 

 神聖歴1919年/皇歴2004年10月25日。


 リーベン海軍に海燕飛行隊が実戦発足して半年後の出来事であった。既存のエンジンを使い、既存計画の修正によって機体開発を行ったことが、隼よりも早く実用化にこぎつけた理由であった。

 といっても、隼も長大な航続力があるので気風路島から暮田島へと1000kmもの距離を往復可能ではあったのだが。


 こうして戦争体制がようやく整いだしたリーベンは陸軍にも新たな戦車を投入している。


 もともとが広大な砂漠を有して馬移動が当たり前であっただけに、自動車の発達も速かった。そう言う国情から、自動車産業がすでに存在し、戦車やトラックは容易に量産できたのだが、戦車それ自体の発展は遅れていた。


 開戦から2年を経たこの頃にようやくアレマニアに対抗可能な戦車の量産が始まったのだが、その搭載エンジンはNK16をデチューンしたものであり、仲治では量産の手が回らず、自動車メーカーである光丘に委託され、光丘では軽質油を用いる自己着火機関を製造していた関係で、委託生産だけでは飽き足らずNK16の機構を参考にした空冷H型16気筒自己着火エンジンの開発に成功していた。


 11月にはアレマニアによる攻勢は勢いを無くし、2度目の海戦が行われたのだが、結果は意外なモノであった。


 海上では明らかにアレマニアが優勢であった。38センチ砲を備えた戦艦6隻有し、巡洋艦も20センチ砲である。対してリーベン艦隊は未だに33センチ砲戦艦しかなく、巡洋艦も15センチ砲に留まった。


 勝敗を決したのは戦艦や巡洋艦による砲撃でもなく、駆逐艦や機雷艇による機動機雷ですらなく、飛行機だった。

 もちろん、飛行機に戦艦や巡洋艦を撃沈する能力は無かったが、暮田島、穴井島、更には気風路島から飛来する各種リーベン海空軍機はアレマニア艦隊の位置を暴露し続け、対するアレマニア陸海軍航空隊はBa190の不調、狂気の1800馬力彗星に振り回されるBa147、海燕の登場で引導を渡されたPf109と、全く良い所が無く、リーベン艦隊による余裕の着弾観測付き遠距離砲戦と嫌がらせの空襲による劣勢の中で、旗艦艦橋を四式双軽の放った750kg爆弾が襲い、司令部要員多数が死傷した事で決着となった。碌な対空装備などない時代、航空機に狙われ、副砲や測距、観測装置を破壊されては継戦は無意味だった。


 本来ならば飛行機巡洋艦が防空を行うのだが、荒れたリーベン海ではあまり役に立ってはいなかった。


 聖海で有用なアレマニア海軍の1万5千t級飛行機巡洋艦だったが、波の荒いリーベン海では飛行機運用が厳しく、リーベン海軍が有する2万t超飛行機巡洋艦が必要であることを示していた。

 

 そんなリーベン海軍は飛行機巡洋艦の重心低下のために主砲を捨て去り、その恩恵による飛行甲板の拡大によって、荒れたリーベン海でも飛行機の離発着が可能な能力を有していた。


 さらに、余勢を駆ったリーベン艦隊が暮田島アレマニア占領地域への砲撃を実施した事により、長らく忘れられていた戦艦本来の使い方すら思い出される事になった。


 それは神聖歴1919年/皇歴2004年11月16日の事であった。

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