006 マインス親子
「これで良いのだな?」
「ああ、父さん。ユキアなんていなくてももともとこいつらの世話は回ってたんだよ」
ポンポンと竜のうろこを叩きながらエレインが父親のアイレンに得意げに語る。
竜はその程度の衝撃はなんとも思わない様子で身動き一つ取らなかった。
「なら良いのだ。これでお前が中心となってあのレインフォース家の後釜を担うとなれば、我が家は未来永劫安泰だ」
「はあ……父さんもレインフォース家って……あんなのただのホラ吹き一家だって。その証拠にほら、こいつらも暴れだしたりしないしさ」
またエレインがポンと竜を叩く。
相変わらず竜は動かなかった。
「ふむ……まあ良い、うまくやれ。これでレインフォース家に払っていた大きすぎる支出が浮いた。当然その金額は……」
「へへ……分前は弾んでもらうぜ」
親子ともに欲にくらんだ同じ表情で竜舎の中で笑い合う。
ユキアがいなくなったことでエレインは竜舎を一手に任される責任者となり、その地位も報酬も大きく向上していた。
順風満帆。
エレインにとってみれば、大した仕事もしていないのに指示だけ飛ばす楽な仕事で大金をもらうユキアを追い出したことはこの上ない善行のつもりだった。国家のために一肌脱いだという達成感と、上がった役職がもたらす全能感に酔いしれていた。
鬱陶しいユキアもいなくなり、竜たちは黙って自分の言うことを聞く。
最高の環境を手にしたと……そう確信していた。
今日、このときまでは。
「では、私はビッテル卿のもとへ行く」
アイレンもまたほくそ笑む。
息子から話を聞いたときには聖域に足を踏み入れるような恐ろしさすらあったが、いざ追い出しても何事も起こらないということがやはり、レインフォースなどお飾りであったことの何よりもの証明だった。
結果的に財務卿へ大きな恩を売れた上、うまく行けば息子が独立して爵位を得られる可能性すら芽生えたのだ。
「そうなれば我がマインス一族は王国の歴史に名を刻む名家だな……」
頭に描いた妄想が次の日には打ちのめされるなどとは夢にも思わず、軽い足取りでビッテル卿のもとへと向かっていった。
二人にとって今日は生涯でもっとも幸せな日だったと言えるだろう。
今日で短編部分終わりです
連載部分もう少々お待ち下さいー!