032 レイリック
「陛下。三十年程度で小言を仰られていては国が立ち行きませぬ」
常識人枠と思っていたが、どうやらここでは俺の常識のほうが異常らしい。
つまり俺の感覚に合わせられるレイリックのほうが異端なのだ。
「……という状況だが、ユキア。私なしで行けるか?」
「ぜひ来てくれ、レイリック」
「貴様人間の分際で王を呼び捨てだとっ!?」
また別の精鋭の一人が凄むがレイリックが手で制する。
「寿命という概念のある人間の客人に三十年もの時を浪費させるわけにはいかぬ。私の付き添いの許可を待てばそれこそ数十年の時を要する……悪いが行かせてもらうぞ」
「陛下……」
ムルトが表情を暗くする。
集まった精鋭はむしろこのためだったかと思うほど見事に、レイリックと俺を素早く取り囲んでいた。
「力づくででも止めさせてもらいますよ……」
それまで声を上げていなかったこれもまた透き通るような肌をした美形の男がレイリックに向き合う。
「ユキアよ」
こんな事態において、レイリックは笑っていた。
よほど余裕があるかと思いきや……。
「すまぬな。流石に私一人でこの人数は相手にできぬ。五人ならともかくムルト爺は抜けぬだろう」
「諦めるのか?」
「馬鹿な。秘策がある」
そう言って耳を近づけてくるレイリック。
エルフの国においてなお目立つその美しい顔が迫ってくることに妙な緊張感を覚えさせられながらも、なんとかその言葉を聞き取った。
「本気か?」
「私は冗談は得意ではなくてな」
「そうだった……。なら遠慮なく」
レイリックの提案はこうだ。
──俺をテイムしろ
「陛下! ご無礼を!」
動き出しはほとんど同時、俺も指示に従いこう叫んだ。
「【テイム】!」
「何っ!?」
勝負は一瞬だった。
光かと見紛うほどに素早く動いたレイリックが、一瞬にして精鋭五人を鎮圧したのだ。
そしてその様子が目で追い切れたことから、俺の能力も大幅に向上したことがわかる。
だからすぐに気づいたのだ。
「ムルトさん……。悪いけど、やらせないよ」
「ほう……見事です」
俺の後ろに迫り人質を取ろうと動いたムルトさんの手を取り、逆に身動きを封じた。
「ムルト、長老会にはこう伝えよ。人間界の勇者がエルフの王と神獣霊亀を目覚めさせ、傘下に置いたと。永きに渡る悩みから解き放たれ、今まさにエルフは真の自由を得たと」
「……御意」
真の自由……?
霊亀がいたことが何かの妨げになっていたのだろうか。
とにかく俺とレイリックは、結局二人で封印の間へ足を踏み入れることになった。




