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8話

[ゴッドアーム]は本来人間には処理不可能な魔術である。

発動させるには自身が魔族に堕ちるしかない。


確かに教科書にはそう記載されているし、実際高位魔族であれば発動できると言う実例もある。しかし、演習場ではそれを覆す光景を目にしていた。

「お、お前…今の、は、[ゴッドアーム]で間違いないのか…?」

恐る恐るビリスがレイに尋ねる。

「ええ。僕が演算処理を間違えるなんてあり得ませんから。」

「う、嘘よ!だって、人間には処理不可能な筈よ!?その子、魔族なのよ!じゃないとおかしいわ!」

カリナがキンキンする声で観客席から叫んでくる。

「僕のことを魔族とは…不敬ですね。ですが撤回するなら許しましょう。」

「はぁ?ばっかじゃないの!魔族風情が!私に勝てるとでも?今のは不正でしょう!そうね、攻撃魔術を使わずに私に勝てたら編入を認めましょう!」

まぁ、絶対に無理だろうけど。

カリナはそうたかを括っていたが、レイにとって生活魔術は攻撃魔術と同値なのだ。

攻撃魔術を禁止したからといって何か問題があるわけでもない。

「おい、カリナ!いくらなんでもそれは…!」

ビリスが我に帰りカリナを止めるが、興奮しきっているカリナを止めることはできない。

「カリナ先生!やめてください!死人が出ます!」

リーシェも、あくまでカリナを心配して言ったのだがカリナは自分のことだとは微塵も思わない。

「殺しはしないわよ!それに、その子だってやる気みたいだしね!」

「ええ。まあ力を見るにはいいでしょう。カリナでしたか。君の発動できる中で一番強力な魔術をどうぞ。僕は生活魔術で無力化しましょう。」

そんなことできるはずがない。生活魔術が攻撃魔術を無力化など、夢のまた夢の話だ。

「バカにするのも大概にしなさい…!まぁいいわ。死んだって知らないからね。」

「ええ。詠唱が必要なのなら待ちましょう。」

「っ…その余裕が仇となるわよ…。『原始太古より我らを守りたもうている神よ 我が声に応え力をお貸しください 我の敵を打ち滅ぼさん』 [ゴッドサンダー]!!!」

カリナが魔術を唱えると、天から雷が発生し、それが集まって竜の形になりレイ目掛けて一直線に猛スピードで向かってくる。

「レイ君――」

「ええと…[ファイアー]でしたっけ…」

レイが唱えると、杖の近くに火が点火し、それがいきなり竜の形になった。その竜はカリナの魔術で作られた竜よりも遥かに大きい。

「喰らっていいですよ。」

そう言うと、炎の竜は雷の竜を一飲みして消すと、今度はカリナの元へ猛スピードでかけていく。

「え、え、あ…う…」

魔術師は自分に攻撃が向かってきたらそれを打ち消すか、避けるかのどちらかの行動を取らなければならない。しかし今のカリナは自分の絶対的自信を粉々にされたことによって言葉を紡ぐことさえできなくなっていた。

「先生!!!」

「…はっ…!あ、ああああ…!!」

リーシェの声で我に帰ったものの、炎はすぐそこまで迫っていて今更防御魔術など展開できない。

――――死ぬ…

そう思った瞬間、カリナの目の前で炎が消えた。

「…はぁ。君…攻撃魔術の研究、やめたらどうです…?実戦を積んでいないのではいくら魔術が使えたって意味はありませんし、何より生活魔術を強化した方がいいのでは?」

「っ…!!」

カリナの過去の記憶が蘇る。


昔攻撃魔術が得意ではなく、生活魔術に惹かれていた頃。周りの大人や友人はみんなこぞってカリナの事を落ちこぼれと言い精神的苦痛を与えてきた。親からの期待も大きく、カリナは親のために生活魔術の研究を捨て、攻撃魔術の研究を始めたのだ。カリナが心を殺して期待に応えていけばいくほど成果は上がった。伝説の魔術の一つである[ゴッドサンダー]だって演算処理を簡素化して、意のままに操れるようになった。しかしその分生活魔術は要らないと言う気持ちが洗脳のように脳にこびりついてしまい、いつしか楽しかった気持ちを思い出せなくなっていたのだ。それでも心のどこかで生活魔術を研究したい気持ちはあった。

そんなある日、リーシェを知った。周りから落ちこぼれと言われても生活魔術を研究し続けるリーシェが、とても眩しく、羨ましかった。

日に日に羨ましいという気持ちは大きくなり、遂には嫉妬という気持ちが芽生え、自分の優越感を底上げするためにリーシェのことを人よりも落ちこぼれと呼び、蔑んだ。でも、どんなに侮辱したってリーシェはやめなかった。嫌がらせをされても、理不尽な模擬戦で集団リンチされても、彼女は強かった。リーシェとカリナでは事情が違うが、それでも生活魔術を諦めたカリナと諦めなかったリーシェではこんなにも心に差があるのか…。

自分も、もう一度生活魔術を…。そう思った頃にはすでに手遅れだった。カリナは攻撃魔術の研究で成果をあげすぎていたのだ。


「もう…遅いのよ…」

「…僕がいいと言っているんですからいいのです。」

「あなたに何がわかー」

言いかけた言葉はすぐに宙に消えた。

カリナには、レイが町中に建てられていた神の像そっくりに見えたのだ。

「…カリナ。私を信じているのなら、私が許した事はするでしょう。」

「か、み…様…」

「なんのことですか。僕はただの編入生のレイです。」

「カリナ先生!!お怪我はありませんか!?」

リーシェが走ってくる。

全くこの子はどこまで優しいのだろうか。今まで落ちこぼれと呼んで蔑んだのに。

「…リーシェ。あなた、私の事が憎くないの?…その、私があんなに落ちこぼれと呼ばなければ今よりはマシな学生生活を送っているはずだっただろうに…」

リーシェは一瞬きょとん、として、微笑んで答える。

「まぁ…少し、というかかなり苦手でした。でも…先生は完全に生活魔術を嫌っていなかったし。それに、先生は覚えていないでしょうけど、一度他の生徒が私の杖を取ろうとしてきた時、たまたま先生が通りかかって意図していないとは思いましたけど、それをやめさせてくれたんです。そんな先生を憎むはずがありません。」

「…もう。あなたには負けたわ。私、こんな心の綺麗な子に嫉妬していただなんて、馬鹿みたい…。私、実は生活魔術が大好きなの。だから、これからはなんと言われようとも生活魔術を研究するわ。リーシェ、手伝ってくれる?」

「もちろんです!!!」

ここに、学院で極端にいた2人が和解し、そして新たな絆が生まれた。

「それから、レイさん。私は貴方の編入を心から歓迎します。ようこそ、カスティーナ王立魔術師育成学院へ。共に学び、成長しましょう!」

「ええ、ありがとうございます。」

感動的な場面のはずだった。状況を理解できていないこの男がいることによってそれはぶち壊しにされるのだ。

「あー、カリナ…?お前、攻撃魔術至上主義じゃなかったのか…?」

「…ビリス。こちらに来てください。君は周りを見る力がなさすぎます。」

「あ、なんだ?…ギャァァァァァァァァ!」

ビリスが呼ばれてレイに近寄ると、レイの杖から電気が発生し、ビリスの体に巻きついていった。

「2人とも、これは生活魔術[ライト]の応用です。少し演算式を書き換えて攻撃要素を加えました。」

レイが簡単な解説をすると、2人は真剣な顔になり、顔を寄せ合って演算式についての会議を始めた。

「もしかして、ここの数字を変えて出力の調整をしたら…」

「いいえ、先生。そうしたら今の威力にはなりません。せいぜい眩しい明かりになるくらいです。ここの式そのものを[サンダーボルト]の途中式に組み替えたらどうでしょう…」

「…!それならば…」

まだまだ議論は続きそうだ。


たまには道中に人間の絆を生み出してやる散歩も悪いものではないかもしれない。

そう思うレイだった。


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