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6話

まだ聖女は出てきません。申し訳ありません。

「ねえ、レイ。なんで神殿に行きたいの?」

「神殿に行って少し文句を言わなければならないので」

そう言うレイはリーシェの歩幅に合わせていた今までとは違い、ズンズン前に進んでいく。

「まって、待ってって!早い!今日は神殿は人が多いと思うし、そんなに早く行っても神殿の場所わからないでしょ?」

「いえ、直ぐ近くにありますよね。わかります。」

「お願い、待って…きゃっ!」

スピードの速いレイについて行けなくなったリーシェは遂に足を躓かせて転んでしまった。

「いったぁ…」

それに気がついたレイは急いでリーシェの元に駆け寄り、怪我が大したことがないのを見ると、リーシェを横抱きにして歩き始めた。


「まって!?お、下ろして!歩ける!回復魔術使うから!」

慌ててリーシェが抗議するが、レイが歩みを止める気配はない。

「いえ。このまま抱かれていてください。回復魔術なら後でかけてあげますから。」

「あ、え、でも…」

「着きましたね。リーシェ、もう一度言います。君はこのまま抱かれていてください。後で本当に回復魔術かけますから。でないともし何かあったときに困ります。」

「え、どういう…」

リーシェがいいおわらないうちに、レイは神殿にズカズカと入り込んでいく。


「すみません。」

「はい、今日はどのようなご用件ですか?」

受付の女性神官が笑顔で対応するも、レイはその言葉に反応を示さない。

「この神殿で一番偉い…そうですね、神の代理人を出してください。」

神の代理人とは、神の意志をこの世界に落とし、それを導く存在だ。しかしその存在は秘匿とされていて、王族しか知り得ず、ましてや一般人が知っているはずはないのだ。

「なっ、貴方はなんですか!?なぜその存在を知っているの!まさか…王族の刺客…!?」

素早い動作で神官は杖を構えるが、神殿の一番奥に設置された部屋がバンっ!と乱暴に開かれ、中から水色の長髪の少女と、そのお付きと見られる神官服を着た男女6人が走ってやってきた。


「やめなさい、シグリ!そのお方は…本来なら地上におられない崇高なお方…。そうですね、神よ。」

少女はそういうと、レイの目の前に跪いた。

「おやめください、アナ様!裾が汚れてしまいます!この男が神?申し訳ありませんが私は信じることができません!」

先程シグリと呼ばれた女神官がレイを指差す。

「シグリ!私にはわかるの、このお方からはいつも私が感じている心地の良いエネルギーを感じます。」

「し、しかし…!」

神の代理人―アナがシグリに伝えるも、シグリは信じることができないようだ。

するとアナがレイを見上げたまま神官全員を納得させるべく質問をする。

「では、主よ、貴方はどこから来られましたか?」

「あぁ、確か…この子、リーシェの村の近くの森の奥の神殿でしたね。…思い出したら文句を言いたくなってきました。なぜあんなところに神殿があるのですか。怪しまれたじゃないですか!」

先程からレイはこのことが言いたくて神殿に急いでいたのだ。

しかし怒っているような口調のレイとは対照的に、神官たちは驚いた顔をしている。

その中の一人、シグリが口を開く。

「も、森の中の神殿は一つしかありません…。祖先が神がいつか降り立つときのために創設した、森の神殿しか…。ああぁぁ、主よ、私はとんでもない事をしました!どんな罰でも受けます!」

「っ!主よ、殺めるのだけはご容赦ください!この子は熱心な信者で、いつも主の御言葉に一番耳を傾けていて…!」

2人が揃って土下座をしている。流石に鬼ではないので許してやるが、そもそもレイは罰を与えると言っただけでなにも殺すとは言っていない。

「…僕は信徒を殺しはしませんよ。ただ、聖女を排除するのに協力してもらいます。そちらとしても悪くはないでしょう。」

「え…い、いいんですか…?」

途端、アナが目を丸くして尋ねる。

「ええ。僕…いえ、私が降り立ったのは聖女を排除し、神の信仰を復活させるためなのです。そのためには君たちの協力が不可欠ですから。」

聖女信仰か神を信仰するか、その問題で戦争が起こっているのなら、根本を潰してしまう方が早い。もし抵抗するのなら聖女の死体を目の前に突き出してしまえばいいのだから。

その言葉にアナとシグリは涙を浮かべて喜び、神殿内にいた神官たちは己の信じてきた神を目の前にし、感極まって泣いているものや拝んでいるものもいた。


「ありがとうございます、主よ…!」

「僕はレイです。レイと呼んでください。」

「はい、レイ様…!」

アナがウルウルと今にも涙を落としそうなほどに目を潤ませて感傷に浸っていると、神殿の入り口から怒鳴り声が聞こえてきた。

「おい、お前リーシェを離せ!この詐欺師め!!」

ガレイだ。レイとリーシェがホーリーシュタッドを出たときに裏口からこっそりとあとをつけてきたのだ。

「君は、ガレイでしたね。リーシェに危険が及ぶことは無いと推測されますのでもう下ろしてもいいでしょう。その前に回復魔法を掛けなければ。」

そう言い、レイが手をかざすと、淡い光が立ち、リーシェの膝の怪我は跡形もなくすっかり消え去った。

「あぁ、さすがはレイ様!詠唱破棄でしかも生活光魔術を転換して回復魔法にしてしまうとは…!」

神の代理人は神眼には大きく劣るが、魔眼よりも正確に魔術を捉えることができる。よって、今レイが発動した魔術を意図したかしていないのか、ガレイにもはっきり聞こえるように大声で説明した。

「はぁ…?嘘だろ…お前…」

ガレイが消え入りそうな声で呟く。

「リーシェ、お、俺は…」

「君はなんだか信用できませんね。少し口封じさせてもらいます。えぇと…[神に関する一切の情報を禁ずる]…。これでいいでしょうかね。」

「お、お前俺に何を…!?」

「君が僕が神であることを口外しなければ君に害はありませんよ。」

ガレイの中の危険信号が赤く点灯した。今のは魔術では無いー呪いだ。

呪いと魔術は一般的に分離されており、呪いには恩恵がなくあるのは犠牲のみ。呪いを与えるには自分の何かを犠牲に差し出し、その対価として呪いを与えるのだ。それは魔術では解呪出来ず、呪いを放った本人に無理矢理解呪させるか、殺すしか方法はないのだ。

「帰りなさい。」

「ッ…クッソォォォォォォォ!」

「…さて…。」

ガレイは走って去っていったので問題は一つ片付いたが、まだリーシェという問題が残っている。自分が神だと告げることはめんどくさいのでやめておこうと思ったはずなのに、結果的に知られてしまった。

「リーシェ…。君は、どうしますか。」

レイには、きっとリーシェが付いてきてくれると言うことはわかっている。この少女が学院に受かった要因の一つに神が入っているのだから。だから、これは試練だ。神だと知っても、神が自分の友人に呪いをかけたと知っても、自分の信仰を貫くことができるのか。

「わ、私は…、レイのことを神様だって、信じる。レイが聖女様をその…殺す、のが目的なら、喜んで手伝う。これは、恩返しじゃない。単に、私がそうしたいって言う信仰心の現れだから。死ねって言われたら死ぬよ。」


―あぁ、この少女はなんて綺麗なのだろうか…。

もしも自分が神になる前に出会えていたら…。


そう考えてしまうほどに彼女の信仰心は強く、そしてなによりもその心は綺麗だった。

「それでこそ僕の見込んだ道具です。これで君は逃げられませんよ。僕らは、《共犯》です。もしも君がこの聖女殺害計画の影響で死んだら、その先は保証しましょう。君の好きな死後を選ぶ権利を差し上げます。」

まぁ、死なせはしないんですが。

とは言わない。蘇生魔術を使えば何度でも生き返ることができる。しかし、それは最終手段でいいだろう。

「なんだか、今の愛の誓いみたいだね…。えへへ、照れちゃうな…」

レイに感情はほとんど無いが、使える道具は大切にする。壊してしまっても、すぐに直す。使えなくなったら使えるように改良する。

そういう意味では

「えぇ、いつまでも大切にしますよ。」

意図に気づかず、リーシェは顔を真っ赤にさせるのであった。


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