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3話

風呂から上がると、そこには綺麗な女性がライアスに剣を向けながら、笑顔で「ねぇ。わかるわよね?それとも、私の教育が間違っていたのかしら?そんなわけないわよねぇ?」などと言っている光景が広がっていた。

「これは一体…」

レイの呟きで、ようやくレイの存在に気がついたのか、今まで笑顔だった女性が驚いた顔になる。が、また笑顔に戻り、何事もなかったかのように剣を後ろに回し、自己紹介を始めた。

「はじめまして、レイくん。私はリーシェの母のイサベルです。よろしくね!」

「よろしくお願いします。」

人間界では美人の笑顔ほど怖いものはない。昔のことを思い出して、イサベルの言うことは守るようにしようと心に決めたレイだった。

「レイくん、この雨を降らせてくれたのよね!すごいわぁ〜。私も若い頃はそれはもうすごい魔術の使い手と情熱的な恋愛をしたものよぉ〜」

「なっ!?い、イサベル…昔の話…だよなぁ?な?」

ガイアンが焦ったようにイサベルの腰に手を回すが、イサベルはその笑顔を崩さない。

「えぇ、もちろん。でも、彼が結婚したって話は聞かないから、あなたに愛想尽かしたら出ていっちゃうかもしれないわよ?」

うふ、とお茶目に微笑むイサベルは、女神のような容貌だが、ガイアンを尻に敷くほどの性格をしており、それを聞いたガイアンは、さらに顔を真っ青にして、必死に彼女に媚を売るのだった。

「ところで、レイはなんであの森にいたの?」

ここでリーシェがそもそもの疑問に気がつく。あの森は危険だと言うことは子供でも知っているし、レイの腕には冒険者バンドが見受けられない。森の向こうに集落があると言う話も聞いた事がない。

「神殿があったからです。まさかあんな森にあるとは思いませんでした。」

「神殿?まさか、神殿転移をしたの…?」

「神殿転移?」

「えぇ。魔力を多く保有している者は、神殿の転移装置を使って他の神殿に転移する事ができるの。でも、神殿転移を使うにはそこそこの権威者であるか、お布施を払う必要があるのだけれど…」

見たところ、レイが貨幣を持っている様子はない。であれば、神殿の権威者なのだろうか。

「神殿転移…。はい。そうですね。しかし僕は権威者ではありません。知り合いに頼んだだけです。」

面倒なので嘘をついておく。後で確認されても影で自分が神だと言っておけば問題はないだろう。

「そ、そうなの…。じゃあ、レイは何をしにこの村に来たの?」

「特に理由はないです。転移先がここだった。それだけです。」

自分は王都に降りたつもりだったのだが、それは黙っておく。

「へーえ。この後はどうするの?」

「そうですね、王都に行きます。聖女について調べたいですし。」

「王都に行くなら、明日私が学院に戻るときに一緒に行こうよ!なんならいっそ学院に編入しちゃう?聖女様も学院に通われてるし、その方が調べやすいんじゃないかな?」

聖女は学院に通うほど若いのか。確かに、結界を張るだけの魔力があるのならば学院に通って力をつけるのも当たり前といえばそうなのだろう。しかし、シスコンライアスはこれを認めなかった。

「ま、待て!誰かは知らんが、俺のスイートエンジェルリーシェを連れていくなど認めん!」

「お兄ちゃん、どこをどう聞いたらそんなふうになるの。聞いてた?私が!レイを!連れて行くの!そんなこと言うならお兄ちゃんのこと(もっと)嫌いになっちゃうよ!」

「ぐっ…」

流石に最愛の妹に嫌われたくないのでそこで引き下がることにするが、それでも目はしっかりとレイを睨んだままだった。

「君のお兄さんはなんだか…愉快な人ですね…。」

レイは努めてオブラートに包んで話す。リーシェは嫌いになると言っていたが、リーシェ自身は本気で言っているような感じではなかったからだ。

「ホントはいい人なんだけど…。」

どうやら家族というのも安らぎがあるだけではないらしい。



翌日、レイとリーシェは学院がある王都へ向かうことになった。

(もちろん服はふわふわになっていた)

「レイ、本当にありがとう。お前のおかげでこの村は助かった。だが娘はやらん。娘に手を出してみろ…息の根を止めにい「はいっこれ!お弁当よ!スカディーに乗って行くならすぐだと思うけど、よかったら持っていってね!」

スカディーとはこの世界の交通手段で、空飛ぶ馬のようなものである。ペガサスのような翼ではなく、ドラゴンの翼に似ていて、大きさも普通の馬の5倍ほどはある。

「ありがとうございます。いただきます。」

「ええ。レイくん、お父さんはああ言ってるけど、私はリーシェとどこまでもいっていいと思ってるからね!」

「なっ!?母さん!?」

この夫婦は全く自分の娘を振り回して…そうレイが思っていると、意外なところから声が聞こえた。

「お、お母さん…その、私にはまだ早いから…」

当人のリーシェである。リーシェを見てみると、顔が真っ赤になっていた。

まずい、これは誤解されてしまう。

「お三方、申し訳ありませんが僕にその予定はありません。リーシェはいい子ですが、対象ではありません。」

「なんですって!?レイくん!この子はとってもいい子なのよ!?もしかして…もう婚約者がいるのかしら…!?」

くわっ!とイサベルがレイの両肩を掴み、前後に激しく揺さぶる。

「い、いえ…僕は…恋愛には興味がないと言いますか…なんと言いますか…」

(なんで神である私がこのような目にあっているのですか…)

地上に来て初めて余裕をなくした様子のレイにびっくりしながらも、出発できないのでリーシェは慌てて母からレイを引き剥がす。

「お、お母さん!レイ、早く行こう!」

「ええ…皆さまどうぞお元気で」

2人は急いでリーシェの両親から遠ざかり、スカディー乗り場へと急ぐのだった。


「ごめんね、レイ。私のお母さんが…」

「少し僕もイサベルは恐ろしいと思いました…。」

思い出したら少し寒気がしてきた。あのままいたら少し人間不信になりそうだった。

「ところで、その…恋愛には興味がないっていうのは…本当?」

「あぁ…本当ですよ。僕にはそのような感情はありませんから。」

「そっか…」

リーシェが少し残念そうにしていたのは見なかったことにしておこう。過去に人間と神が恋をして、その子供も生まれた事例はあるが、所詮人間との恋だ。神は人間の寿命の短さに悩まされ、恋人の寿命を延ばそうとしたものの恋人は延びた寿命に生命機関が追いつかず、最後には内臓が破裂してしまったのだ。それをその神は深く悲しみ、その後自らの手で自分の存在を消してしまった。その話を他の神から聞いたレイは、神になる前の行動からも絶対に恋愛はしないようにしようと心に決め、感情のエネルギーを魔術や、神力に回したのだ。

「…君はまだ若いのですから、これからもっといい出会いがありますよ。」

「何その感情のない声…嬉しくないしぃ〜」

今までもそうだっただろうが…。

心の中でツッコミをする。

「そういえば、リーシェは国に推薦されたんですよね。」

ふと、気になったことを尋ねてみる。こんな田舎の少女を国がめざとく見つけることなど可能なのだろうか。

「えぇ。私たちは生まれたときにどんなに遠い村に住んでいても神殿で戸籍登録をするの。その時に推定魔力を算出して、その情報をもとに住んでるところを訪れるのね。それでそれから正規の魔力測定器を使って魔力を測るの!」

「へぇ…。リーシェはどのくらいの魔力だったのですか?」

「私は3万を少し越したくらいだったかな〜!日頃から訓練してるから今は増えてるかも!あぁ、そうそう、一般的に魔力がある人は1000って言われてるよ。」

ドヤァ…と、リーシェが得意そうな顔でレイを見上げてくるので、適当に頭を撫でておく。

リーシェの顔がもう一度真っ赤になったのは言うまでもないことだが。

「あ、着いたよ!スカディー乗り場!」

ギュエェ!と馬からは想像できないような鳴き声が聞こえてくる。

「…リーシェ、あれは可愛いと思いますか」

絶対に言ってはいけない…言うな…

「うんっ!家に置物とぬいぐるみがあるよ!」




どうやら私は作る世界を間違えたみたいです。

                   かみを



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