2話
ストックをあまり作っていないので投稿頻度が減ってしまうかもしれないです…
見てくださってる方申し訳ないです。
「今からこの加護の結界を消します。」
「「はぁぁぁ!?」」
爆弾発言だった。そんなこと無理に決まっている。出来たとしても、聖女の加護ほど強い結界を張らなければ魔物が襲撃してくる。
「安心してください。これは君たちの安全を守るためじゃなく私のためにするんですから、手を抜くはずがありません。」
そう言うと、レイは聖女の加護の結界の境界を歩き始める。
「あ、あんた一体何者なんだ…」
「僕は…ただの旅人、と言うことにしておいてください。」
ゆっくり結界の周りを一周し、レイがパチンっと指を鳴らすと、赤い光の粒子が空に弾けて消えていった。
「今のは…?」
「聖女の加護の結界です。僕が消しました。さて…」
そう言い、レイが手をかざすと、レイの手の上になにやら本のようなものが浮かび上がった。
それを見て、今まで黙っていたリーシェが目を見開いて声を上げた。
「まって!?そ、それって、魔導書じゃない…?なんで、レイさんが…」
魔導書とは、魔術が発達したこの世界で、原始の魔術が事細かに書いてある伝説の本のことであり、世界には5つあると言う。しかし、今見つかっているのは1つで、厳重に保管されているため、本当に実在するのかも分からない存在となっている。
「これは魔導書ではないのですが…。まぁ、広い意味では魔導書に該当するのでそういうことにしておきましょう。」
「なんで…?魔導書は、学院…カスティーナ王立魔術師育成学院に厳重に保管してあるはずじゃ…!?」
「そもそもその認識は間違いです。これは君たちの思っている魔導書ではありません。これは、私の能力をこの場で引き出すためのものに過ぎません。魔導書は君たちのレベルの魔術の最高峰でしょう?私の能力は大きすぎるのでこの本を通してからでないと、天変地異が起こってからでは遅いですからね。」
なんだこの人、言っている意味がわからない…。
親子2人はそう思い、心の中でスルーすると言うことを決めたのだった。
「では、結界を張り直して…。雨を降らせましょう。」
「ハッ…いやいやいや、無理よ!学院長に知らせを送っても神の御加護がない限りはもうこの土地は諦めるしかないって言われたんだもの!」
イラッ…
レイの感情はほとんどないように作られているが、人間の愚かさはその無い感情さえも動かすほどらしい。果たしてここは本当に自分が作った世界なのか…。人類とはこんなにもすぐに諦めるものだったか…。…いっそこの世界壊してしまうか?壊して作り直した方が楽なのではなかろうか。
そんなことを考えてしまうほどに人類の魔術はー
「低レベルだなぁ…」
「―えっ?」
「低レベルだなぁって言ったんだけど。人間ってどうしてそこまで愚かになれるの?僕の知ってる人間は諦めることをしなかったんだけどなぁ…。君たちってもしかして人間じゃなかった?魔族?それらは知能が低いからね。学院長って、そんなに魔術に長けているの?じゃあ、魔導書なんてなくてももっと発展できるんじゃ無い?そもそも聖女なんて奴に頼ってる時点でこの世界終わってるよね。あー、もっとマシな世界にするんだった。居眠りなんかしたからー」
パァンッ!
「学院長のこと…魔術のこと…バカにしないでくださいッ…!」
レイは神であるが故にわかっていなかった。魔力を持っていない人が多い村で王宮から推薦が来るほどの魔力量を持ったこの少女にとっての、村に発展をもたらしてくれるかもしれないと期待さえできるこの力の崇高さが。
「あなたからしたら、私たちの魔術なんてレベルが低いかもしれません!さっきだって、歩くだけで聖女様の結界消しちゃったし!でも!それでも魔術は崇高な力なんです!水が出せるだけでも、火を起こすだけでも、私からしたら夢のようなことなんです!この力を極めたら、もしかしたらこの村をもっと豊かにできるかもしれないって、そう思って頑張ってきたのに…何も知らないで低レベルだとか言わないで!」
「…それは失礼なことを言いました。まだ発達途中なのですね。なるほど。ならば仕方がありません。僕の役目は成長を見届けることです。今の発言は全て撤回します。」
「あ、えっ…えっ…?」
話が通じません。話が噛み合いません。
でも、発言は撤回してくれるって言ってるし…それに、いきなり初対面の人に叩かれたら、どんな気持ちになるだろうか…
「あ、あの…ほっぺ、叩いちゃってすいません…」
先ほどと打って変わって、怯えた子犬のように縮こまるリーシェ。もしかして、激怒させてしまったら、魔術で消されるかもしれない…(物理的に)。どれくらいの魔術の使い手かは分からないが、聖女の結界を消し、新しい結界を張り直したくらいなのだから、リーシェやこの村を消すことくらい朝飯前かもしれない…。そう思ったら急いで謝らなければいけない、そんな気になったのだ。
しかし、そんなリーシェの様子など気にもせず、レイは淡々と魔術の威力設定などを考える。
「えぇと…あまり多すぎると洪水になってしまいますし…。できました。降らせますよ。」
「「えっ!お、お願いします!」」
では…
そう言うと、いきなり雨雲がどこからともなくやってきて、瞬く間にバケツをひっくり返したような雨が降り出してきた。
「まぁいいくらいの雨でしょうか。これだと2日降ったくらいでは洪水にはなりませんね。」
「嘘…あなた、賢者様なの…?」
また知らない単語だ。人間は魔術ができる人をそのように呼ぶのか?人間というのはなんだかよく分からない生物のように思えてきた…。
「賢者…ではない、です…。はぁ…濡れてしまいますし、君たちは帰った方が良いでしょう。」
「あっ、うん」
「レイ、うちに来ないか?お前もずぶ濡れだ。うちであったまっていったらいい。」
確かにレイもずぶ濡れだ。というか3人揃ってシャワーを一気に浴びたかのように水を吸っている。
「僕は…」
魔術でどうとでもなる、そう言おうとして、もしかしたらこの世界の異変や聖女について話を聞けるかもしれない。そう思い、2人の家にお邪魔することを決めたのだった。
「では、お邪魔します。」
「おう、ついてこい」
「ここが俺たちの家だ。」
先ほどの場所から数分歩くと、少し他の家より大きな木造の家に着いた。
「濡れてもすぐ乾く木を家の素材に使ってるから、気にせずに入ってこい」
「では、お邪魔します」
レイが一歩家に足を踏み入れると
「チェストォォォォォォォ!!!!!」
どう考えても脳天を狙っている細身だが筋肉が引き締まっている長身、金の短髪の青年がレイに剣を振りかざして突進してきた。
「熱烈な歓迎感謝します。」
が、レイはそれをものともせず、片手で剣を止め、剣を握った青年ごと持ち上げ、それを直前に強化した家の床に向かって勢いよく叩きつける。頭を打ち付けた青年は、
「へぶほぉ…」
と情けない声を残して意識を飛ばしたのだった。
「あぁー…すいません、兄が…」
どうやら今レイに突進してきてレイがそれを返り討ちにした青年は、リーシェの兄らしい。これが俗にいうシスコン、か?そういえば女神たちがシスコンほど鬱陶しいものはないと力説していたような…。
「リーシェ、君の兄はシスコン、と呼ばれるものですか?」
ガイアンからタオルを受け取り、髪の毛をガシガシと擦りながら、レイが興味本位で尋ねると、ボンッ!とリーシェの顔が真っ赤になり、自分の兄を恨めしそうに一瞥した後、消え入るような声で肯定した。
「は、はぃ…。この村のみんなが揃って言うんです、ライアス…兄の名前なんですけど、は、リーシェの事がよっぽど大事なんだねぇ、もうこれはシスコンだね!って…。私、その言葉の意味を知って恥ずかしくて恥ずかしくて…。」
「僕はいいと思いますがね…。僕には家族と呼ばれる集団単位が存在しませんから。」
「…えっ、レイさん、家族いないんですか…?」
「ええ。…それから、僕のことはレイでいいです。今の僕は1人の人間ですし…。」
「わ、わかりました…。レイは、16歳なのよね…。私も、16歳なの。お互い同い年だし、もう少しくだけた話し方をしない…?」
リーシェが16歳だったとは少し驚きだった。この世界では17が成人年齢なので、この子があと1年で成人すると考えると少々不安になってしまう…。自分は保護者ではないので深く考えはしないが、果たしてこの世界の子供が全てこのような感じだと、いよいよ自分の世界に自信が持てなくなってしまう。それはまた考えるとしよう。
「そうですね…リーシェはそうしてください。僕は、あまり気を抜いてしまうと昔のことを思い出して色々やらかしてしまいそうなのでやめておきます。」
「昔…?」
リーシェが可愛らしく首を傾げるが、やはり神に魅了(至って無意識)は効果がない。神がいちいち魅了されていては世界がいくつあっても足りないのだが。
「昔、色々あったんです。僕の一番思い出したくはない記憶ですね。あの頃はまだ僕もヤンチャでした…」
そう言って昔の、レイが神になる前の記憶を呼び起こそうとして、軽く頭を振り、もう一度蓋をする。本当に神になる前は今のマイペースな面影はなく、自分の力を振りかざしていたのだ。もう二度としまいが。
「そうなの…大変だった?のね…」
リーシェは本格的に意味深なことを気にしないことに決めた。
そこに、ガイアンがまだ濡れた状態でやってきた。
「レイ、風呂の準備ができた。シャワーはレバーをひねるだけでいいから、問題ないと思う。服は…どうする?」
「そうですね…一緒に洗濯してもらってもいいですか?魔術で乾かしてもいいのですが、普通の家を知りたいので。」
「了解した。うちのカミさんが洗うとふわふわになってすごいから、期待しとけ!着替えはライアスのを用意しておくが、サイズのことはすまないな、合わなかったら。」
「問題ありません。ありがとうございます」
床に倒れたままのライアスをチラッと見たあと、レイは地上に来て初めての風呂に心を踊らせながら歩みを進めるのだった。
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