1話
読み難かったり、誤字脱字ありましたらご報告ください。
目を開けるとそこは深い森の中であった。
…
……
………
「えっ…」
神は思った。自分は本当に神殿に降り立ったのだろうか、と。
辺りを見渡してみるが、確かにここの空気はカスティーナ王国の森の中で、自分の後ろには神の像がある。
確かにそこは神殿ではあった。
「…私の信仰もついにここまできましたか…。なぜだかいっそ清々しいですね。」
そう呟く神の顔は無表情で、感情が読めなかった。
少し歩くとそこには小さな村があった。
「…あぁ?兄ちゃん、あんた…この森から出てきた…よなぁ?」
「ええ。何か問題でも?」
村に近づくと、推定30代後半の無精髭を生やした大柄な男が話かけてきた。
「問題も何も、この森は最低でもプラチナバンドを持った冒険者や騎士でなきゃ入ることも許されないんだぞ!?」
「おや…でしたら引っ越すことをお勧めします。…僕が通った時、何回も大きなトカゲにストーキングされましたからね。」
プラチナバンドの冒険者とは、国が決めた冒険者の階級で、下からカッパー、ジンク、アイロン、シルバー、ゴールド、プラチナ、オリハルコン、アダマンになっており、自らのステータスを見ることができるバンドを渡され、そのバンドの金属でその人の冒険者ランクを判断する。
さて、さっき森を抜けてきた時、大きなトカゲ(ドラゴン)の巣に近づいてしまい、怒りを買ってしまったのだ。神という創造主から見たらドラゴンなどただの“大きなトカゲ“なのだが。しかし人間から見たらドラゴンは恐ろしい生き物なのだろう。
このことに神が気がつけばよかったのだが、神はなにせ寝ることが多いので、人間の基準がまったくわかっていなかったのである。
「お、お前…嘘だろ…。冒険者…じゃなさそうだし、騎士が来るなら通達があるはずだ…。俺たちは何代も前からここに住んでいるし、加護のおかげで昔に比べて魔物なんかに襲撃される回数が減ったんだ。」
「加護…?…誰のです…」
「お父さんッ!アイシャおばさんの畑ももうダメだって…あ…ごめんなさい!お客さん…?」
神が表情筋の無いように思えるその顔を少し歪ませて加護について問い詰めようとしていたまさにその時、少女が2人の間に駆け込んできた。
見ればその少女は透き通るような桃色の髪を腰辺りまで下ろし、その少女にとてもよく似合っている赤色のワンピースを着た、顔に幼さは残るものの美しい容貌だった。
その少女は神を見て少し驚いたものの、すぐに彼女の父親に先ほどまでとは打って変わって暗い声で話し始めた。
「アイシャおばさんの畑も、さっき全部の花が枯れちゃったのを確認したって…。話を遮ってごめんなさい。でも、早く伝えたくて…。」
しゅん…と効果音がつきそうなほど落ち込み、恐らく一般の男性が見たら庇護欲をそそられそうな上目遣いで彼女の父と神を見上げてくる。そんな少女を見て彼女の父親は、抱きしめたい気持ちを抑え、落胆の声を上げた。
「やはりもうダメか…。もうこれで何日雨が降っていないんだ…。このままでは俺たちはもう生きていけないじゃないか…。」
この土地では、1月ほど前から急激に雨量が減り、日照りによる作物の不作に悩まされていた。
(おかしいですね…。僕はどの土地にも行き渡るように栄養脈を設置したはずです。仮に初めから場所の計算を間違えていたのならここには住んでいないはずですし…)
考え込んでしまった神を、少女は心配そうに見上げる。
「すいません…気分を害してしまいましたか…?」
「あぁ、いえ。僕はさほど気にしていません。」
「よかった…。あぁ!すいません、名を名乗っていませんでした!私は、リーシェ・サパールです。リーシェって呼んでください!」
「俺はガイアンだ。」
そこまで言われて気がついた。自分には名前がない。神というのは序列で名を呼ぶので、個人の名を所持していないのだ。しかし、この世界で過ごすのならば、自分も名前を所持していた方が便利だろう。
「どうされました…?」
「…いえ。そうですね…、僕のことは、レイ、と呼んでください。」
序列0位の、レイ。自分でも安直な名前だな…と内心薄ら笑いながらも、神―レイは告げ、表情筋を慣れない仕草で持ち上げた。
「―ぁっ…。よ、よろしくお願いします、レイさん」
「おい…出会って数分でうちの娘を落とすな、このクソやろう!」
2人が(というかリーシェが)桃色の雰囲気を醸し出しているのが娘を溺愛する父としてはどうしても許せないものである。
しかし、リーシェが固まってしまったのも通常の反応で、レイは世間一般的にイケメンと呼ばれる整った顔であり、さらに背は高くすらっとしており、光の当たる角度によって色が水色になったり薄黄緑になったり色々な色に移り変わるその髪と目も、その全てが神々しく(着ている民族衣装のようなものを除けば)、思わず見惚れてしまうほどだった。
「何の話ですか。言いがかりです。君たち子供は無闇に他人を疑いすぎですよ。」
「子供…?お前、10代だろう…?」
「僕のこの体は16歳に合わせて作られてますが、僕から見たらこの世界の生命は全て子供です。」
果たしてこの神はアホなのか。ほいほい自分が神ですなんてことを言ってもいいのか。否、よくないに決まっている。しまったな。そう思った頃にはもう2人は???状態だった。
「今のは、あまり気にしないでください。とにかく僕は16歳です。良いですね。」
「お、おう…」
有無を言わさないレイにガイアンは少したじろぎながら返事をする。
―失敗した。
天界では居眠りをしすぎて人間に合わせることを忘れていた。これからは少し人間に合わせて行動、発言をする必要がありそうだ。
「それで、この村には何が起こっているので?」
本来この話をリーシェとガイアンはしていたのだ。ここで話を戻さなければさっさと原因を潰して天界に帰ることができない。
「あぁ…お前さんに話しても意味はないと思うが…。この村では1月ほど前からずっと雨が降っていないんだ。俺たちは畑を耕して生活しているから、作物が育たなかったらそれはすなわち死を意味する。だんだんみんなの畑がダメになって、今日ついに最後の畑も死んじまった…。」
「この辺には栄養脈があるのでは?」
あるはずなのだ。自分が作ったのだから。
「ある…とは思う…。いや、あったんだ、確かに。だから俺たちはここまで生きてこられた。でも、なぜだか急に雨も降らなくなって、栄養脈も死んだんだよ…。」
「少しでもマシになるように私が魔術で雨を少し降らせてはいたけど、それでも魔力はすぐ尽きちゃうし、狭い範囲にしか降らせられないから…。」
魔術!この少女は若いのに魔術が使えるのか。流石だ。人類の発展もなかなかなものだ。神に対抗する手段は持ち合わせていないみたいだが。あるいは、こちらの世界から意図的に異世界の者を呼び込んだのか。
とりあえずはこの村の問題を解決することが先だろう。
「なるほど。ガイアン、この村が復興するにはどのくらいの雨が必要ですか?」
ガイアンは不思議そうな顔をして、レイを一瞥した後、少し考えて唸るような声を絞り出した。
「まぁ、2日もぶっ通しで降れば栄養脈も復活するだろう…。それに前は3日に一回は必ず雨が降っていたし…って、なんで聞くんだよ。」
ガイアンの考えは概ね復興にはつながる。しかし、雨だけでは栄養脈は回復しない。もっとこの村を覆うほどの物を除去しなければならない。例えばー
「加護、ですか…」
「加護?それがどうかしたのか?」
―あぁ、なぜ今になって気がつくのか。
この村を覆っている何者かの加護ならば、栄養脈より養分を抜くことができるではないか。ここは栄養価が高い。その何者かにとっても栄養が抜き出せるし、魔物からの侵攻を抑えるための加護だと言えば崇められるし、好都合だ。
神をバカにしているのか?神以外を頼らなければならない何かがあるなら、それを潰さなければ。
「加護が栄養脈の栄養を抜き取っている可能性があります。この加護は何のものですか?」
「それは、聖女様の加護よ。半年ほど前に聖女様が異世界からいらして、この村のように周りが危険な森で囲まれている場所に加護の結界を張って、魔物を遠ざけてくださっているの。」
聖女なんてそんな制度置いた記憶はないぞ…
レイはこの世界に起きている異常を推測し、気が遠くなりそうになるのだった。
誤字報告ありがとうございます!
意外とこれ自分で気がつかないもんなんですねぇ…。
引き続きよろしくお願いします!
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