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騎士と勇者の一騎打ち  作者: 零珠
二、噂の狼。
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《花の街》フローラ。

 


 ◇



 冒険者ギルドに入って、約一週間。首都から離れるように町を転々としながら、魔王、ひいては魔王軍についての情報を聞いて回った。魔王軍の存在など誰もが知らないどころか、そもそも信じていなかった。所詮は、御伽噺でしかないと。

 世界一大きな図書館にでも行ければ手がかりも掴めるだろうが、それもまた難しいというのが現状だった。



 ギルドの依頼の方は、最初は《白日》らしく薬草集めやスライム退治なんかをしていたが、それじゃあ歯応えがなさすぎた。《黄昏》、《夕闇》を経て、既にランクは《月夜》となっている。それでもまだ半分だが、それにしては強いモンスターの依頼が多く、報酬もそこそこ良い。おかげで俺はようやく騎士の制服と決別できたし、安いながらも宿を取れている。


 服を買ったと言っても、安いものを適当に着ただけだ。全身のほとんどは黒、申し訳程度に青いバンダナを首に巻いただけの、味気ない格好。逃亡生活にはちょうどいいが。

 対してアーサーは白い服を着て、サラサラの金髪。顔の良さも加わり、目立つことこの上ない。大丈夫か、この旅。



「あ、ギルバートさん。見てください、貴方の手配書ですよ」

「お前のもあるぞ」



 現在向かっている辺境の街フローラへの道中、看板に貼られた人相書きを見つけて笑顔を浮かべるアーサー。馬鹿にしてるだろう、お前。意外と子供っぽいな。


 自分の手配書をビリビリに破いて歩き出した。こういう手配書を見ると自分が追われる身だと実感するが、今のところ何の障害もなく活動できている。この状態が続けば楽なんだが。



「フローラまではどれくらいかかる?」

「あと……三日ほどでしょうか」



 アーサーは地図を広げずに答えた。俺の故郷の村はこの正反対にあって、フローラという街は近付いたことすらない。だが彼はこの辺りを訪れたことがあるというから、かなり頼りにしていた。


 それ以外でも、アーサーはとても頼もしい男だった。色んな土地に行ったことがあるようだし、物知りだし、俺の方が年上なのにと恥ずかしくなるほど。少しの間は旅もしていたというし、経験豊富すぎて何者なんだか意味が分からない。確かに以前から彼は優秀な人間だったがこの一週間で更によく理解できた。



「まぁ、三日ならいいぐらいか」



 俺達がフローラへ向かっているのはギルドで受けた依頼が理由にあった。


 いつもギルドには、モンスターを倒してくれとかあの薬草が欲しいとか、そういう依頼ばかりだったが、ある日異質な依頼を見つけた。それは『白銀の狼を見つけてほしい』というもの。依頼人の名前は書かれておらず、詳細もギルド受付係に聞くように、とだけ。


 気になって話を聞こうと受付に行けば、ギルド員は詳細が書かれた紙を差し出し説明してくれた。



 ──始まりは、小さな村の人々が一人残らず消えたこと。それは一つに留まらず、現在確認される限りでは国境を越え三つになり、小さくはない集落の住人まで消えたそうだ。



 最初はオルディネ王国の村。旅人が一人でその村を訪れたときに発見した。

 日が暮れて時間は経っていたが村の明かりはついたまま。深夜とも言える時間なのに、そこら中の家から料理をしているような香りまでしたという。不審に思った旅人は、無礼を承知で家々を確認して回ったが誰も居なかった。人だけが忽然と消えていたのだ。


 旅人はこの状況を報告するため、来た道を戻った。道中、野宿をする三人組の騎士と出会っていたからだ。事件があれば騎士が取り締まるとオルディネ王国では決まっている。そうして騎士達も村の様子を確認して、捜索が行われている。


 二つ目もオルディネ王国。最初の村からほど近い、同じくらいの規模の村。これはその村出身の女性が帰省したときに発見した。

 その女性は仕事の都合上、帰るのが夜になってしまった。夜とは言え日が暮れてほんの一時間ほどのことだったそうだが、帰った時には誰も村に居なかった。駐在しているはずの騎士すら居なかったため、彼女は歩いて三十分かかる隣町まで人を呼びに行った。


 三つ目は、隣国のミナーヴァ帝国。オルディネ王国のフローラから、山を越え渓谷を越えた先にある、その軍事大国の小さくはない町だった。これはとある騎士が発見した。

 発見者は、その町に住む同僚と文通をしていたそうだが、ある日ぱったりと返事が来なくなった。しかしまぁ、任務に就く騎士であれば突然連絡が途絶えるのも不思議ではない。とはいえ不安は不安。連絡が途絶えてから数日後、念の為にと休暇を機に町を訪れたら、人が消えていた。



 事件とも呼べるこの出来事は、場所も被害数もまちまちだがどれも突然人が居なくなり、未だに手掛かりはない。単純にモンスターにでも喰われたのだろうと思えれば話は早いのだが、現場に血が残されていたわけでもなかった。人間を丸呑みするほどのモンスターが出ていれば建物などにも被害はあるはずだし。


 そこで浮かぶのが白銀の狼。関与する人々が口を揃えて言う手掛かりがそれなのだ。遠吠えが聞こえた、走る姿を見た、果てには襲われかけた、なんて証言も。そんなこんなで冒険者ギルドに依頼がやってきたそうなのだ。


 こんなもの国の方で解決しなければならない問題だが、いかんせん国を跨いでいる。それぞれで調査はしている上でギルドにも情報が回されたのは、国家間のしがらみに囚われない冒険者ギルドは都合がいいからだろう。

 原因が白銀の狼だと確定していない以上はオルディネとミナーヴァが協力することはなさそうだしな……。



 とにもかくにもそんなわけで失踪事件に関連がありそうな白銀の狼探しをすることとなり、それらしき姿を見た人物がフローラに居ると言うから向かっているところだったのだ。どちらにせよこの国を出たいし、フローラを越えた先のミナーヴァ帝国に行けるいい機会だ。もはやあの軍事大国に足を踏み入れるのも戸惑いはない。



「白銀の狼って、都市伝説ですよね」

「そうなのか?」

「えぇ。『満月の夜、透き通るように美しい白銀の狼が遠吠えをしたとき、その集落の住人は忽然と姿を消す』。そういう話が古くからあります」

「へぇ……」



 初めて聞いた。



「最終的にその話はどうなるんだ?」

「都市伝説なので諸説ありますが……私がよく聞かされた話では住人は戻ってきますね。真相は、友達の居ない狼が、寂しさのあまり人間をたぶらかして誘拐した、という内容です。けれど狼は同じ時を過ごすほど人間と自分は相容れない存在であると分かり、解放する。人間のほとんどは怒り、狼を虐げるのですが、一人だけが本当に友達になってくれる。そんなありふれたハッピーエンドですよ」



 下らないと言えば下らない。子供の頃ならともかく、それなりの歳になった今では都合のいい話は面白さに欠ける。悪いことだなんて思わないが、やはり冷めた目で見てしまうのは違いない。



「現実もそう都合が良ければいいがな」



 ◇



「あ、見えてきましたよ、街が」



 二日と少しほど歩いて、流石に馬もなく徒歩で移動するのはキツいよな、と思っていた頃だった。アーサーが指を差した先をよく見ると、色鮮やかな何かが確認できた。



「あれは、花畑……か?」

「えぇ。《花の街》フローラは、その名の通り植物がよく育てられているんです。街の周りは季節ごとの花が咲いていて、来訪者を歓迎してくれるんですよ」



 たくさんの花に囲まれた通路へ足を踏み入れると、辺り一面に花の香りが漂って、穏やかな気持ちになる。柄にもなく花に癒された。


 遠くから見ていたときは、花畑に入ってしまえば街にすぐ着くのだろうと思っていたのだが、街までは案外距離がある。誰もが通る道なのは分かるが、こんな花畑の真ん中を歩くなんて、どこかの姫君じゃあるまいし……勘弁してくれ。



 ◇



「──狼は、町から離れるように渓谷へと走って行きました。噂に聞く狼だと思って追いかけたのですが、見失ってしまって……」



 フローラに着いて、目撃者が居るという酒場に行ったら、客はたった一人しか居なかった。客が少ないのはまだ昼前だというのもあるかもしれないが、何よりの理由はこの酒場が冒険者ギルドを併設していないということだろう。


 そのたった一人の客、俺達が訪ねようとおもっていた目撃者から事の次第を聞き出した。



 ちょうど、ミナーヴァ帝国での失踪事件が発見される前のこと。日が暮れてほんの少し経ち、ミナーヴァ帝国からオルディネ王国へ渡るために橋へ向かって歩いていた時、白銀の狼を見たという。


 舗装された道を歩く彼に対し、狼は鬱蒼とした林の中を走っていて、国境の渓谷へ差し掛かったところでどこかへ消えたそうだ。



「なるほど……参考になりました。ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ大した情報はなくってすみません……」



 酒場を出て、適当な店で昼食を摂った。土地柄のせいか、野菜が多くて物足りない気もしたが……肉ばかり食っているのも良くはないよな。


 俺はアーサーと共に、国境へ向かう。



「とりあえず渓谷に行ってみるか。今も狼が居るとは思えないが」

「物は試しですね」





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