表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士と勇者の一騎打ち  作者: 零珠
四、獅子身中の虫。
60/61

暗闇の再会。

 



「逃げるったってなぁ……!」



 長い長い廊下を一心不乱に走る。限りあるはずのこの道はどれほど走っても終わりが見えない。目に付いた適当な扉を開けてみるが殺風景な部屋ばかりだ。


 ここはコーデリアの精神世界。どの程度かは別として、恐らくアイツが空間を支配できる。この馬鹿みたいに長い廊下もその一つじゃないだろうか? そうして出口を隠している、と踏んでいる。


 コーデリアは初め、出口は無いとハッキリ言っていた。だが本当はどこかにあるんじゃないか? アイツは俺の過去にひどく執着している。嘘の一つや二つは当然ついているはずだ。

 そして、口を噤むなら出口の在り処だろう。だから多分、どこかに帰り道があると思うんだが……。



 ふと青い扉を見つけた。咄嗟にその扉を開いて中に飛び込む。

 そこは奥に長い部屋だった。真っ直ぐに大きく長いテーブルが置かれ、白いクロスがシワ一つ無く敷かれている。テーブルの上には燭台がいくつか。周囲には豪華な椅子が十か十二脚ほど、綺麗に並べられていた。



「ダイニングか…?」



 こんな広い部屋はそうとしか考えられない。

 ここから繋がる道は一つ。長い部屋の先、真正面にある扉。

 テーブルを乗り越えて扉に手をかける。その先はまた廊下だ。一体どこへ向かえばいいのか、全く分からないが進めば何か見つかる気がした。


 とにかく開けた場所へ。あるいはこの建物の出入口でも見つかればいい。もちろんこの世界から逃れる術は、また別の場所にあるだろうけど。



「ハァッ、クソ……どこだここ……」



 完全に迷った。

 ダイニングを抜けたら近くの部屋はキッチンで、もっと先に階段があったと思ったんだが……。



「長ぇ廊下ばっかだ」



 頭がおかしくなる。

 適当な扉を開けて回り逃げ道を探す。こうやって廊下ばかり走っていても仕方ない。いっそ外に出るか? アーサーがやったみたいに壁をよじ登るのは無茶があるだろうけどな。


 目に付いた扉に手をかけ勢いよく開いた。違う、正確には開こうとした。



「何だ? 開かない……!」



 扉は少しも動かなかった。鍵が掛けられているのとはまた違うような感じだ。見た目は他のものと変わらない。だがこれは……ハリボテか?


 何か気になる。ここにあるのは何だ? コーデリアにとって大切なものか? それとも目にしたくないものか?

 開け方が分からない。体当たりをしても、思い切り蹴ってみても無駄。うんともすんとも言わない。刀で切りつけるのも……駄目だ、傷はつくが開かない。



「いっそ燃やしてみるか?」



 魔法は問題なく使える。ただ、ここで思い切り燃やしても大丈夫だろうか。この世界はコーデリアのメンタルに左右されると言っていたが……。

 いや、何が起きてもその時はその時だ。俺は扉に手を当てた。



「“ヴァルム”」



 手の平から溢れ出した炎は扉を覆う。パチパチと音を立てながら穏やかに燃える様子は、不思議と安心感を覚えるようだった。

 扉は溶けるように消えた。それも、まるで左右へ扉が開くように。これが正解だったんだろうか? 火魔法で燃やすことが? 燃やしたら扉はなくなってしまうのに。変だな。


 だがもっと変だったのは部屋の中。似たような内装ばかりだった今までと違い、この部屋は異質だった。



「……何も見えないな」



 ──少しの光もない闇。部屋の中にあるのはそれだった。

 明かりは当然消えていて、窓やカーテンの隙間から太陽が顔を覗かせることもない。扉を開いたことで廊下から光が差し込んだものの、それだけで様子を探れるほど明るくはなっていなかった。


 中に踏み込むべきだろうか。この、呑み込まれそうなほどの暗闇に?

 それならまずは火を放つ方がよほどいい。明かりを確保しなければ。そう思って手の平を構えて……。



「……いや、やめた。嫌な予感がする」



 火を放ってはいけない。それは良くない。俺の行動がこの世界にどれほど影響を与えるのか分からずとも、やってはいけないと直感した。そういうのは意外と的中するものだ。そもそもこの部屋が気になっているのだって直感みたいなものだしな。


 だが……どうするか。火以外に明かりを確保する方法なんてないぞ。やはり手段は一つしかあるまい。


 俺は足を一歩踏み出した。先の見えない漆黒へと。床があるのかすら怪しかったものの、土で汚れた靴はしっかり俺の体を支えている。

 さて、ここには何があるんだろうか。見えないくせに周囲を見回しながら少しずつ進む。目が慣れれば色々見えてくるだろうと思ったが……ちょっと無理そうだな。振り返れば扉から入ってくる光が見える。歩みを進めてもさほど遠ざかっているようには見えない。


 ふと、足に何かが当たった。固いような柔らかいような……妙な感覚。手探りで辺りの物を確認して、手の平の上に火を灯した。足元を照らすと見えたのは……。



「誰だ? この男……」



 腹を刺された見知らぬ男。コーデリアの記憶に残る人物か、それとも俺のように精神世界に連れ込まれたのか。どちらにしても息はないようだった。つい先ほどまで生きていたみたいに綺麗な見た目をしている。


 彼の腹に刺さったままの剣は何やら神聖なものに見えた。常人には到底扱いきれなさそうな仰々しい剣。不思議だな。物は使い手を選べないはずなのに、この剣は人間を品定めしているかのようだ。


 この男は何者なんだろう。黒髪で、閉じられた瞳の色は分からない。服装は上流階級が着ているであろう特別仕立ての良さそうものだ。だが、何か違和感がある。左右が反対なんじゃないか?

 いや、こんなこと考えたって仕方ない。出口の手がかりを探さなくては。逃げ道がないと言っても諦める訳にはいかないからな。


 ──ガタン。どこからかそんな小さな音が聞こえた。



「……もう追いつかれたか?」



 それにしてはコーデリアは何も仕掛けてこない。よく耳をすませば、またカタンと音が。部屋の奥からだ。この暗闇に奥とか前後とかはなさそうだが、とにかく男の亡骸よりも向こうから聞こえた。


 手の平の火をわずかに強くする。ある程度の強さがあれば、いざってときそのまま放てるだろ。

 亡骸を跨いで奥に向かうとクローゼットが見えてきた。幅はそれほど広くない縦長の両開きクローゼット。ここから聞こえるのか?



「……誰か、居るのか」



 俺の問いかけには誰も答えない。罠か、それとも。

 一つ深呼吸をしてクローゼットの取っ手を掴む。そして思い切り扉を開いた。



「見たくない、見たくない、みたくない……!」

「エル!?」

「……ぎ、ギルバート、さま?」



 小さくうずくまり、カタカタ震えながら耳を塞いで独り言を言うエル。何か呟きながら怯えている様子だ。勢いよく開かれた扉に当然驚いたようだが、俺の姿に気がついてわずかに視線をあげる。



「どうしてギルバート様がここに……」

「それはお互い様だ」



 この世界に引きずり込まれたのは俺だけじゃなかったのか。正直、一人じゃなかったことに安堵した。あらゆるピンチを経験してきたから困難には慣れているが、不安なものは不安だし怖いものは怖い。一人でも味方が居れば心強いだろう。

 クローゼットの中で何をしていた? なんて聞くのは馬鹿らしすぎるか。どう見ても隠れていたに決まっている。


 エルに視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。ずっと立っているのも無駄に疲れる。



「私、気付いたらこの部屋の中に居たんです。真っ暗だし扉は開かないしどうしたらいいか分からなくて……暗がりに目が慣れてきたと思ったらその死体を見つけて、クローゼットの中に……ギルバート様はどこで何を?」

「俺は庭の見えるベランダに立っていた。そこで《博愛の魔女》と話していたんだが、出口を探すために逃げ出してきた」



 おかげでエルを見つけられた。俺の刀と彼女の魔法、バランスはそれなりにいいだろう。万が一戦闘が起きても何とか対処できそうだ。

 本当はアーサーが居れば怖いもんはないんだが、アイツはカーラさん達の家に居る。希望を抱くのは無駄だ。そばに居たシリウスだって、恐らくこの精神世界には居ない。もしかしたら俺が気絶した後に引きずり込まれたかもしれないが。



「は、《博愛の魔女》?」



 エルは困惑していた。当然のことだ。もう何百年も前に死んでいる《博愛の魔女》と話していたなんて意味が分からないだろう。しかし納得してもらうしかない。



「……祠の中に納められていた分体は、《博愛の魔女》の魂だったらしい。それを解放してしまって……」

「魂? あぁ、それで……」



 彼女は何か納得したように頷いた。ずいぶん理解が早いな。俺はかなり混乱したんだが……。

 俺の視線に気付いたエルは慌てた様子で首を振り「ここはどこなんでしょうかね」と声を張り上げた。何か気になるが、今はいい。



「ここは魔女の精神世界らしい。思い出の中、とか言っていたか」

「思い出の中……」

「あぁ。どうにかして戻りたいんだが……」



 どうしたらいいだろう。いい案が思いつかない。こんなとき、アーサーなら何か思いついただろうか?



「たぶん、ですけど……この部屋にいる限りは、ひとまず安全だと思います」

「どうして?」

「この部屋は、魔女にとって忘れたい記憶を詰め込んだ場所……なんじゃないかなって。臭いものに蓋をするように、嫌なものを閉じ込めてるような気がして……」



 エルは俺の背後を指さした。振り向くと見えるのは、腹を刺された男の死体。



「特に彼は、記憶から消し去りたいのにどうしても無理なもの。だからこんな真っ暗な部屋に押し込んで、目を背けたがっている」



 何でそんなことが分かるんだ? 首を捻ると、エルは俺の考えていることが分かったみたいに小さく笑った。



「自分でも不思議なんですけど……分かるから、分かるんです。とにかく! この部屋は私達にとっての安全圏ですから、いざってときの逃げ場にはなるかもしれません! 袋小路ですけどね……」



 全てが危険地帯だっていうよりはマシか。作戦を練るくらいできるだろう。こんな真っ暗な部屋でも何とかなる。

 何はともあれ合流できたのだから先のことを考えなければ。

 コーデリアはエルの体を乗っ取っているというし、精神世界をどうにか抜け出したところでエルが無事である保証はない。あー……クソッ、どうしろって言うんだ?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ