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騎士と勇者の一騎打ち  作者: 零珠
四、獅子身中の虫。
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他人の空似?

 



 それから二日後、俺達はなおも歩いていた。歩かないことにはたどり着きもしない。先日は色々あったから昨日のうちに村には着かず、また夜を越して歩みを進めていた。

 だが旅というのはそう忙しなくするものではない。焦るくらいなら旅なんてするべきじゃないのだ。だから多少急ぎはすれど、焦ってはいけない。のんびりと、緩やかに。流れに任せて。



「ギル、あれなに?」



 俺に抱っこされてそれは優雅に景色を眺めるリッキィ。茂みを見つめて何かを発見し、指をさした。



「鹿だ。大きい角があるだろ? 角があるのは雄なんだ」

「へぇ~! あれは?」

「あれは蛇。あの蛇は毒がないが、噛まれると痛いから近付いちゃ駄目だ」



 蛇を持つ時は頭を持つこと。怖がって尻尾の方を持てば、自由に動けるからかえって噛まれてしまう。噛まれりゃ抜くのは一苦労。なら思い切って頭を掴んだ方が何倍も安全だ。リッキィが蛇を捕まえることは……そうそう無いだろうけどな。



「ここは青空教室かよ?」



 大きく欠伸をしたイグニスが、リッキィの指さした蛇を見ながら呟いた。

 まともに学校も行ってない俺が教師になれたらこの国は終わるぞ。学校は行ってなくとも騎士として修行する中には座学もあるし、教育自体はそれなりに受けているが、それはまた一般的なものとは少し違うだろうしな。


 王立アカデミーなんて大層な所では『武器が全て使い物にならなくなったとき、石でぶん殴ってでも戦って生き延びろ』なんて教えてもらうのか? それはないだろう?



「ギルバート先生! シリウスちゃんはどうしてこんなに大きいんですか?」



 はい!と軽く手を挙げたエルが、冗談めかして笑う。


 先生ってな……イグニスの言葉に乗る必要なんてないんだぞ。

 そもそもシリウスが何故こんなに大きいかなんて……そういえば知らないな。



「確かに何でそんなに大きいんだ? フェンリルだからか?」

「うーん、育ち盛り……だな」

「そうか……」



 つまりこれからまた大きくなっていくわけか?

 シリウスはふんす、と軽く鼻を鳴らしてそれを返事とした。現時点で既に馬より大きいくらいなのに、これ以上成長されたら手に余る。今ですら常に子犬の姿で居てもらわなくては目立って仕方ない。


 シリウスが大きな姿でも自由に歩けるようにしてやりたいが、やはりこの大きさだと街中はどうにも……。俺達がイグニスのように名の知れた冒険者になれば、人目を気にせず歩けるだろうか?



「リッキィさんとギルバートさんは……親子か……兄妹にも見えますね」



 アーサーは顎に指を当てて微笑ましそうに言った。だから、俺には恋人すら居ないんだぞ、ガキだけ居てたまるか。兄妹も……妹と言うには歳が離れすぎている。



「ギルは、わたしのパパに似てるよ」

「似てる奴なんかいくらでも居るだろ?」

「う~~ん……でも目のこわい形と、きれいな金色は、パパといっしょ! だからわたし、ギルの目、好き」



 リッキィは俺の顔をぺちぺちと叩く。嫌いと言われるよりはいいが、それほど喜ばしいものではない。俺の顔立ちは父とも母ともそれほど似ていないのだ。



「おっ、村が見えてきたぞ」

「やっとか。シリウス、小さくなってくれ」

「分かった」



 前方には素朴な木の柵に囲まれた集落が見えた。家はやや雑然と建っており、畑仕事をする人や洗濯物を干す人が遠目でも確認できた。村はあっても、さすがに泊まれそうな宿はなさそうだ。

 リッキィは俺の腕を逃れ、子犬になったシリウスを撫でて楽しそうに隣を歩く。転ぶなよ。


 村の入り口辺りまで来ると、村人の何名かはこちらに気付いたようだが話しかけてはこない。作業をしていた一人のガタイのいい男性が顔をあげこちらをみた。そして周囲の様子を見ておもむろにこちらに歩み寄る。



「あんたら、何者だ?」

「俺達は冒険者をしています。長い旅路なので、この村で少し休ませてほしいんです」



 農具を肩にかけながら首を傾ける。タオルで額の汗を拭き俺の返事を咀嚼しているようだ。ふぅん、と小さく息をついた男性は、訝しげに一人一人を頭の先から足元まで見ていった。

 確かに……武器を持った連中がこんな小さな村に居るのは怪しいだろう。俺なら盗賊か何かかと思う。


 彼の視線は、仰々しい鎧をまとった紅髪の大男で止まる。一瞬安心したように表情が緩和するが、やや不安げな目つきに戻った。



「まぁ誰も追い出しはしないだろうが、別に休める所もねぇぞ。ましてやドラグーン様に寄ってもらうには綺麗な村では……」

「気にしないでくれ、俺は国家直属じゃない。本当にただの冒険者だ」



 イグニスはひらひらと適当に手を振って答えた。


 ドラグーンは、オルディネ王国で言うパラディンだろう。何よりも強く、何よりも畏怖に値する。

 だがパラディンと王国騎士が違うように、ドラグーンの中でも色々あるようだ。国家直属とそうでないものと。詳しい事情は分からないが、特にイグニスはかなりイレギュラーな存在だろう。



「──えっ、なに? 噂には聞いてたけど、本当に無所属の竜騎士がいるの?」

「カーラ、家の中に戻りなさい」



 男性がずいぶん可愛らしい声を出したかと思えば、後ろから若い女性が顔を出す。どこか雰囲気が似ているような気がする。親子だろうか。年齢はエルやアーサーと同じくらいに見えるが、やたら陽気そうなところはもう少し下にも感じる。

 もちろんこれは偏見だ。周囲の年下が大人しい人間ばかりだから、天真爛漫さが幼く見えてしまうのだろう。明るい性格なのはとてもいいことだ。



「いいでしょ、パパ。こんな村によその人が来ることなんてないんだもん。……わぁ! 可愛い女の子! お名前は?」

「リッキィ」

「リッキィちゃん! ふふ、可愛い〜」



 カーラと呼ばれた女性はにこにこしながらリッキィの頭を撫でた。



「えっと、娘さん? 妹さんかな?」

「いや、……知り合いの子だ。送り届ける途中なんだ」

「へぇ、そうなんだ。優しいのね」



 頷いたカーラさんは俺達の様相の全てが気になるようで、矢継ぎ早に質問を投げ続ける。この大きな剣は? この腰につけてる細いのは? ドラグーン様の銃はこれ?

 貴女は? その視線はエルに向かう。



「貴女はなぜフードをしているの?」



 カーラさんはエルの顔を覗き込むように身を捩った。



「えっ」



 エルは驚いた様子で後ろに飛び退いてぐっとフードを深く被る。それでもなおカーラが近付いて『なぜ』『どうして』と問い続けるから混乱してしまっているように見えた。あちこちに視線を投げて慌てながら、必死にカーラさんから顔を逸らしている。



「あ、の……」

「すごく可愛いのに隠すなんて、なんかもったいないなぁ」

「なっ……!?」

「どうしてギルバートさんが驚いてるんですか」

「い、いや、別に……」



 何だ、その……確かにエルは整った顔立ちをしているが、彼女はエルの容姿を見て何とも思わないのか? 全くの偏見を持たないと? 髪色と瞳は、知っているものが見ればどうしても《博愛の魔女》を思い出してしまうだろうに。差別するかどうかは別問題だが、自然と結びつけることは少なからずあるのではないか?



「私は、ちょっと人の目が気になってしまうので……」

「あ……そっか。じゃあ、みなさんこちらにどうぞ。狭い家ですが、お茶を用意しますね!」



 カーラさんの突拍子もない発言に、父親は声にならない声をあげて目を見開いた。すごく嫌そうだ。というか誰だっていきなりやって来た余所者を家にあげたくはないだろう。当たり前だ。

 しかし彼の娘はそうではないようで、エルの手を引いてさっさと行ってしまう。



「……行って、しまいました、ね」

「あぁ。押しが強いな」

「どうしたモンだか。……えぇと、……?」



 残された俺達は困惑しながら父親を見る。彼は三人の視線に気付いた彼は何か考えている様子だったが、やがて、何度も頭を振って諦めたように呟いた。



「俺はケイン。カーラは一人娘で、少し自由な子なんだ。……こうなったらあの子は聞かないだろうしな、とりあえず来てくれ」



 畑の向こうにある家を指さしたケインさん。困ったように溜め息をつく彼に少し同情した。




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