孫の世紀
「マッチ……マッチはいりませんか……」
大晦日の寒空の下、1人の少女が今日も道行く人に声をかけます。
けれど、この二十一世紀、そうそうマッチが売れるはずもなく。
「……そうだ」
少女は空腹に耐えきれず、とうとうマッチを食べていました。
「……意外とうまい」
その禁断の味を覚えてしまった少女は、売り物であるはずのマッチを次々と口の中に運んでいきます。
「んまいんまい、んまいんまい、んまいんまい……」
マッチを全て食べ終わる頃には、女の子はいつのまにか火を吹けるようになっていました。
「がおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!」
女の子は辺り一面の家々を焼き払い、暖を取りました。
「あったかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」
ヒトの温もりに感動をあらわにしていると、どこかから赤い靴を履いたそれはそれは綺麗な少女が踊りながら彼女に近づいてきました。
「何をしてるの?」
「街を燃やして暖をとっていたの。あなたもどう?」
「素敵! ぜひご一緒させていただくわ!」
彼女はとても楽しそうに火を吹く少女の横に並んで小躍りを続けます。どうやら赤い靴の少女は自分が好きで踊り続けていることに気がついているようでした。火吹きの少女も、まるで街が燃えていく様をお祝いしてもらえているようで、嬉しい気持ちになってきます。
「いつからそうして踊っているの?」
「私、クリスマスのパーティがどうしてもつまらなくなって、家を抜け出してきたの。それからずっとこうして踊り続けていたところ。あなたみたいな気の合いそうな娘と出逢えて、運命感じちゃった」
そんなことを言われて、火吹きの少女は恥ずかしくなってしまいます。熱くなっていく顔を少しでも誤魔化すために、ぶぉーっとまた火を吹きます。
「わぉ! カッコイイ! もっと♪ もっと♪」
赤い靴の少女の音頭に合わせて、より一層多くのものを燃やしてしまいます。
灰も残らないぐらい街の何もかもを燃やし尽くすと、まるで世界に2人しかいないみたいでした。
夜空には満天の星空。こんなにも美しい星で息をしていたことを、彼女たちはどうして今まで忘れていたのでしょうか。
「そういえば、あなたは何を食べて生きてるの?」
「何も食べないわ。私はただ踊り続けていられればそれだけで十分だもの」
「そうなんだ。私はね、マッチを食べるの。でも、こんなに燃やしちゃ、木の1本も残ってないや」
「それなら心配ないよ。ほら」
そう言って彼女はまた風を操るように手を振って踊り始めます。
すると、彼女がステップを踏んだところから、みるみるうちに植物の芽が生え、草木が生い茂ります。それはまるで、彼女の舞に地球が喜んでいるようでした。
「凄い! これなら食料にも困らないし、世界中の街を燃やし尽くしにいけるね!」
「そうだ! これからは私が踊る場所を焼き野原にしてよ! そうしたら、私も誰の目も気にせずに踊っていられるし、一石二鳥でしよ?」
初めて人に求められる温もりに、火吹きの少女は心がポカポカしてくるのを感じました。それはもう自分の体温のことが気になくなる程でした。
「わかった。私、これからはあなたのために火を吹くね」
「嬉しい。それなら私も、これからはあなたのためにも踊り続けるわ」
ワタシはそんな2人の少女を羨ましく思いながら、街明かりのなくなった鮮明な星空に1つの流れ星として消えることにしました。
火吹きの少女はそんなワタシに気づくはずもなく、隣で踊る赤い靴の少女の手をとり、いつまでも一緒に同じステップで地球を鳴らしたのでした。
「私たち、2人きりでなら、ずっと生きていられるね」
【終わり】