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第二章 一緒にがんばろうね②

 ショッピングモール若津はこの辺りで最も大きな商業施設だ。買い物はもちろん、映画館やゲームセンターなど娯楽も事欠かない。


 僕もたまに母さんと来ている。大体が夕方くらいに思い付きで連れ出され、映画を見て外食するという流れだ。僕にとってのこの施設は、母さんの気まぐれの一部なのだった。


 しかし、来る相手も時間も違えば、ここは別世界だった。いつもより人が多いし、家族連れから老夫婦、そして僕らのような高校生まで、幅広い年齢の人が集まっていた。


「スカート欲しいなぁ。イメチェンでロングとかありかな?」

「似合わないわよ」

「ひどいー」

「でも雰囲気変わっていいかも」

「おー。ほらっ、男子からこんな意見が出てるよ」


 サギすごいな、なんであんな会話に参加できるんだろう。どうやら場違いは自分だけらしい。


 ただ、我田先輩もあいだでうなづいているものの、会話してるとは言いがたい状況だ。僕がいるせいでこんなに大人しいのだと思うと、申し訳ない気持ちになる。


 僕らが最初に入ったのは、モール内にある大型衣料品店だ。学生にもやさしい価格で、僕でも入ったことのあるお店だから、ここには抵抗なく入ることができる。


「春奏はなに買うんだっけ?」

「え? えっと、セーターと、帽子も見たいかな」


 そんな会話をしながら、我田先輩と真木先輩の二人は、レディスコーナーへとノンストップで入っていった。

 サギがそれに躊躇なくついていくけれど、僕はどうしようかと困ってしまう。


「ねえクッくん。私の選んでよ」


 悩んでいると、美和ちゃんに声をかけられた。彼女は入ってすぐのところに積んである、ロンTを選ぼうとしているようだ。


「僕、ファッションセンスとか無いから」

「クッくんから見て、どんなのが私に似合いそうかってだけでいいんだよ」


 なるほど。僕はうーんとうなる。


「やっぱり明るい色、かな。イメージだけど」

「ふむふむ。具体的には?」

「えっと、太陽的な……オレンジとか黄色とか」

「クッくんから見て私は太陽のイメージなんだー。照れるなぁ」


 う、ちょっと恥ずかしい。でも、美和ちゃんがうれしそうだからいいか。


 美和ちゃんが真剣に選び始めるのを見てから、僕は三人のほうへと目をやった。三人はセーターを見ているらしく、サギが二人に説明しているように見える。


 軽快にしゃべるサギ。相槌を打つ真木先輩。我田先輩も、そこでは普通に会話に参加しているようだ。サギとはもう距離を縮めているのかもしれない。


 買う服が決まった美和ちゃんは、それを近くにあったカゴに入れてから、三人のいるほうに歩きだした。僕もそれについていく。


「なんの話してるの?」

「サギくんに色講座してもらってた」


 真木先輩が答える。サギはそんなことをしていたのか。


「なに? サギくん、ファッションに詳しい系?」

「勉強してる系っすよん」


 サギは胸を張る。僕はそれを見てなんとなく納得していた。見るからにそんな感じがする。


「なんか自信満々に言うから聞き入ってた。ねっ」

「へっ? うん……」


 先輩二人にファッションについてのアドバイスができるなんて、大したものだと思う。サギにとっては、ここが主戦場とでも言えそうだった。


「へぇー。でも、クッくんもいいよ!」

「ええっ!?」


 この流れでは大人しくしておきたかったというのに、美和ちゃんはわざわざ僕を前に押し出してしまう。注目されるのも苦手だというのに。


「クッくんは反応が良いからさー。照れ顔見てると、自分がイイ女かと思える」

「なるほど、たしかにそうかも」


 真木先輩にまで笑われる。二人には僕のことがだいぶ年下に見えているらしい。


 ふと、我田先輩を見ると、呆けた顔をしてこちらを見ていた。しかし、僕が見ると、すぐに商品のほうへと顔を向けてしまう。やっぱり目を合わせてもらえないようだ。


「じゃあサギくん、スカートについて意見ちょうだい」

「いいっすよん」


 そう言って、美和ちゃんはサギを連れて行った。


「私も今度はクッくんに選んでもらおうかな。ブラ見に行こっか?」


 真木先輩がまた恥ずかしげもなくそんなことを言った。


「じょ、冗談ですよね……?」

「ふふ、冗談冗談。私にはどんなのが似合いそうだと思う?」

「えっと……」


 チラッと置いてけぼりにしている我田先輩のほうを見る。すると、驚いたような顔をしてから、また背中を向けてしまった。


「あ、私、帽子見てくるねっ」

「え? ああ、うん」


 そう言って、我田先輩は行ってしまった。やっぱり避けられている。さすがにここまで露骨だと、僕もノーダメージとはいかなかった。


 やっぱり来るべきではなかった。僕は彼女にとって見るのも辛い存在なのだ。


「ごめんね」


 真木先輩の声に、いつのまにか下がっていた視線を元に戻した。


「春奏、感じ悪いよね」


 真木先輩は申し訳なさそうな顔をしていた。僕は首を横に振る。


「いえ、むしろこっちが悪かったっていうか……」

「どうして? クッくんは何もしてないじゃない」

「我田先輩が嫌な思いするなんて想像できたのに、のこのこ来ちゃったので」


 僕が言うと、真木先輩は大人っぽい笑みを見せる。


「美和に誘われたから来たんでしょ。クッくんもずいぶんとマイナス思考みたいね」

「はい……」


 クッくんも、か。誰と並べられたのかはなんとなくわかった。


「春奏のあれね。別に悪意は無いの。ただ臆病なだけというか」


 真木先輩は棚のジーンズに触れながらしゃべっている。それは商品を見るというより、ただ目のやり場を作っているだけのようだった。


「超人見知りで、あがり症。それに、クッくんに対しては、弟のこともあってまだ落ち着かないだけなのよ。

 だから、クッくんが嫌とか、そんなことはまったくないの。この前だって、あんなやさしそうな子に悪いことしたーって言って凹んでたのよ」


 そう言って、真木先輩はほほ笑んでくれる。


「そう、ですか……」

「うん。だから悪く思わないであげて。ちょっとしたら慣れてくると思うから」


 慣れる。それは美和ちゃんも望んでいた。でも、僕はそれも難しいと思っていた。


「……かわいそうだって思うんです」

「え?」

「いちいち思い出しちゃうのって」


 僕が言うと、真木先輩は納得したかのように、ああ、と声を漏らした。


「正直、私も最初はそう思ってた。だからあのとき春奏に、私たちが代わりに謝ってそれで終わりにしたらいいじゃない、って提案もした」


 真木先輩がばつの悪そうな笑みを浮かべる。でも、僕はそのほうが自然だと思った。


「……ちゃんと自分で謝りたいって、春奏が言ったのよ」

「えっ……」

「驚いたわ。一部の人以外とは関わりたがらない春奏が、自分でってことにこだわったの。それなら私たちが連れてくる、ってことになったのよ」


 あのランチは我田先輩の希望あってのものだったらしい。


 意外だ。てっきり、美和ちゃんが押し切ったのかと思っていた。


「そんな春奏を見て、美和がすごいテンション上がっちゃってね。心の傷を癒せるかも、人見知りも克服できるかも、って張り切って。あの子、春奏が大好きだから。

 それで、美和はどうしても二人を関わらせたくなったみたいね」


 真木先輩の話を聞いていると、三人の仲の良さが感じられてうれしくなってくる。美和ちゃんの我田先輩に対するやさしさで、僕ほ今ここにいるわけだ。


「でも、私にすら何も言わずに決めることないのにね。ホント強引なんだから」


「あはは……」


 真木先輩は呆れるように言う。かなり振り回されてそうだから、大変なのだろう。


「春奏のあの態度もねぇ……。あ、春奏もやさしくていい子なのよ、本当に。美和に負けないくらい友達想いだから」


 思い出したかのような我田先輩のフォローだった。僕としては、別に疑うつもりなんてなかったのだけれど。


「ああ見えて文武両道で頼りになるし。去年のテスト前とかお世話になりっぱなしだった」

「へぇ……」

「目立つ存在になるポテンシャルはあるのよね。でも、二年になってから、私たち以外のクラスメイトとしゃべってるところをほとんど見ないの。あの臆病者ったら」


 真木先輩の口がよく回る。二人のことを話すからだろうか、彼女も結構おしゃべりな人のようだ。愚痴とほめ言葉が混ざっていて楽しい。


「もっと色んな人としゃべったら、って言ったら、友達関係において狭く深くが信条です、なんて返すのよ。いや、あんたがそんなじゃ人見知りなんてなくならないっつの」

「我田先輩も冗談言うんですね」


 僕がそう返すと、真木先輩は呆れたような顔をした。


「……めちゃくちゃ言う。普段はボケーっとしてて控えめなんだけど、調子いいときはふざけてばっかり。

 特にLEENだと、姿が見れないからか、バカみたいにふざける。お笑いとか好きだし、ふざけたい欲はあるんでしょうね」


 意外だった。そんな我田先輩も見てみたいものだ。


「そういえば、美和ちゃんも我田先輩のことおもしろいって言ってました」

「逆にさ、美和はグループLEENではあんまりしゃべんないんのよね。訊いたら、二人のやり取りがおもしろいから眺めてた、とか返しやがるの。あんたら足して二で割ってくれって」


 快調にしゃべる真木先輩は、ふと思い出したように「あ、そうだ」と呟いた。


「クッくん、私と春奏も名前で呼んでよ。なんか先輩ってつけられるの重いし。

 あと敬語も嫌かも。気を遣っちゃうタイプみたいだし、余計距離を感じる。美和だけってのも変だしね」

「え? ああ……はい」


 突然の提案だった。まあたしかに、美和ちゃんだけというのは違和感があった。こうして距離を縮めようとしてくれているのだから、しっかり応えたい。


「ちゃん付けで、なんて美和みたいなことは言わないけど。さん、くらいでいいんじゃない?」

「牡丹、さん」

「そうそう」


 牡丹さん。美和ちゃんというハードルを越えたからか、多少は言いやすく感じた。


「我田先輩も……?」

「まあいきなりそうしろとは言わないけどね。とりあえず、その先輩ってのは取ってあげて」


 じゃあとりあえず、我田さん、というわけだ。心に刻んでおこう。


 牡丹さんとまともにしゃべったのは初めてだけれど、ずいぶん打ち解けた気がする。


 牡丹さんも美和ちゃんと同様、人当たりの良いやさしい人だ。だからこそ、人見知りの我田さんとも仲が良いのだと、僕は勝手に納得したのだった。

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