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今まで夕食抜きだったのは、シュティーアの嫌がらせなのか…。
これまで周りの巫女や神官と関わりの少なかったアリーシャにとって、シュティーアのしてきたことはそれが正しいのかそうでないのか判断がつかず、言われるがまま受け入れてきた。
ほんの少し、周囲との関わりが出来ただけでばれる地味な嫌がらせだ。
「本当に、見習いでも三食ちゃんと食べていいのよね?」
しつこく確認するアリーシャにエルバが笑った。
「当然でしょ?シュティーア様がそんなことなさってたとは驚きだけど何か理由があったのかしら?」
「時々、夕食にアリーシャがいないなと思っていたのよね」
食べ終わって口々にお喋りしながら大巫女様の部屋へと向かう。
シュティーアがそんなことをした理由なら、先生のことが好きだったからと言われた方がまだ納得する。
大巫女様の後継にそんなに執着があるようには見えなかった。
どちらと言えば、先生のことが好きでアリーシャが邪魔だったはずだ。でなければ、あんな目で睨まれたりしない。
「…それとは関係あるかわからないのだけど」
おっとりとアルガが言い出した。
「アリーシャはどうして髪を結わないの?」
「え?」
聞き返して、確かに他の巫女や女性神官はそれぞれ結い上げていることに気づいた。
「…それって結う決まりだったりするの?」
恐る恐る聞いたアリーシャに、アルガはこくりと頷いた。
慌ててエルバや周りの巫女たちを見ると皆、そうよ、と肯定の返事を返す。
まただ。
「…何も聞いていないのだけど」
シュティーアは一日の勉強の進度を確認するため、アリーシャにレポートを提出させたり一日の流れを必ず書かせていたが、神殿の決まりごとは最低限、いやそれよりも少ない情報しか与えなかったのだ。
わざと。
「シュティーア様がまさか…」
周りは困惑している。アリーシャ以外にとってはシュティーアは尊敬の対象になっているのだから、間違っているのはアリーシャの方だと認識されかねない。
夕食の件といい、髪を結う規則といい、小さなことだけれど確かにアリーシャの人間性に関わってくることだ。
「アリーシャの意思で結っていないのかと思って、ちょっと生意気ねっていうお姉さま方もいらしたわ…」
そうなるでしょうね。
アリーシャは冷めた気持ちで、ため息をついた。
「知らなかったのなら、今結えばいいわ。私がやってあげる」
エルバが嬉々としてアリーシャの髪に手を伸ばした。
「今度の歌姫見習いは特別だっていう噂だったから、特殊な決まりを設けたとか…」
ほら、周りはまだシュティーアを疑いかねている。
ヒルシュ 「護衛って楽だよなぁ」
ラセット 「…同意しかねます」
ヒルシュ 「ん?お前も固いなぁ」
ラセット 「万が一が起きた場合、神を相手に腕の一本や二本で済めば良いのですが…」
ヒルシュ 「…カイウスみたいなこと言うなぁ」
ラセット 「ありがとうございます」
ヒルシュ 「あ、そこありがとうなんだ」
ラセット 「何かが起きると惨事になりかねない、とカイウス様より訓示がありました」
ヒルシュ 「まぁ、そんなこともあるかもなー。でも見てみろよ、巫女たち可愛いよなぁ」
ラセット 「…(思考がブルスと似ている。これは正騎士には必要な素養なのかもしれない)」