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雛の歌姫  作者: やよい
旅立ち編
34/118

雛の歌姫 32



(一先ず、先程の応接室に戻ってきて下さい。話はそれからに)


先生とサイノス様の精霊は特に何も言っていないらしい。

結局、ルーチェがいい空気が少ないと言った原因は分からず、そのまま念話は切り上げられた。


ルーチェを見ると、ニコニコしていてもう眠気はないらしい。


「ありがとうルーチェ。お礼は何がいい?」


アリーシャの問いかけに、ルーチェは甘いもの!と満面の微笑みで答えた。


「じゃあ、後で貰ってくるね」


アリーシャはもう一度ありがとうと伝えて、嬉しそうにするルーチェと湯屋を出た。


洗いあげて固く絞った服を手に応接室へ戻る途中、忙しそうに寝具を運ぶ神官たちと出会い、軽く会釈を交わす。

彼らは無表情で会釈をし、言葉をかけることなく通り過ぎた。


「?」


冷たい雰囲気にアリーシャもただ見送るだけにとどまった。


「…急に十数人のお客さんが来たら、そりゃあ迷惑だよね」


(そんなことないと思うけど?)


ルーチェはアリーシャの周りを飛び回りながら勝手に髪を乾かし、その髪で戯れている。機嫌は良さそうだ。


(だって神殿だし、お客さんはいつもいるよ)


「そうなんだ」


ルーチェに相づちを打ち話を聞いていると、あっという間に応接室に戻ってきていた。

扉の前にはまだ若い神官が二人いて、わざわざ扉を開いてくれる。

過分な扱いに思えて、アリーシャは肩身をすくませて部屋に入った。

既に夕食の準備が整えてあり、騎士たちはわいわいと賑やかに喋っていた。

そんな中で、つい先生を目で探してしまう。


「アリーシャ」


名前を呼ばれて振り向くとルイスがそっと囁いた。


「飯に眠り薬が入ってるからまだ食うなってさ」


「え!?」


「しーっ!あんまり大声出すな。外の見張りの神官に聞かれてる」


驚きに目を見張ったアリーシャを、ルイスは扉から離れた位置にまで連れて行った。


「先生がさ、言ってたんだ。この神殿は奇妙だって」


ルイスの青い瞳を見つめ、アリーシャは続きを静かに待った。


「今、騎士達がでかい声で喋ってるのもわざとなんだ。外に話を聞かれないために」


あっはっはっは!と爆笑している若い騎士達は本当に楽しそうで、それが演技だとは思えなかった。


「昨日泊まった神殿の方が街は大きかったのに、こんな小さな街の神殿に豪華な応接室なんてありえないって。神様連れて来たにしろここの神官たちが何か企んでいるんじゃないかって言ってた」


「それで、どうしたらいいの?」


「眠り薬はごく少量らしいけど、精霊に除去してもらって食べた振りして様子を見るらしい」


ルイスはこの状況に、憂いなど見せず逆にワクワクしているようだった。

先生はサイノス様と話し込んでいたが、アリーシャが見つめていることにすぐに気付き、おいでと手招いた。


先生もサイノス様も湯上がりの濡れ髪でやたらと大人っぽい色気が漏れているのはお気づきだろうか。貸し出された同じ寝衣類を着ているのに、凝視してしまうほどの引力がある。

アリーシャはドキドキしながらも素直に近寄って行った。

ルイスが、こいつ大丈夫かといった視線を投げて完全にアリーシャの心理を読んでいるのはこの際置いておこう。


「アリーシャちゃん、可愛いねぇ。同じ寝衣類なのに可愛い子が着ると途端にエロく見えるよね」


サイノス様が開口一番、まず褒めた。…のか?よくわからない。

先生の冷たい視線を物ともせずに、にこにことしているサイノス様はある意味すごい。ルイスも無表情になっている。


「髪の毛、乾ききってないんだろ。乾かしてやろうか」


「触るな。アリーシャが穢れる。その性的発言ごとお前の存在を消滅させろ」


サイノス様は手をぺしっと叩き落とされ、先生の冷たい視線に射ぬかれて嘘泣きを始めた。


「カイウスが冷たい。数十年来の友情はどこへ行ったんだ。昔はこうじゃなかった!」


「もう酔っているのか。寝言は寝て言え」



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