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雛の歌姫  作者: やよい
旅立ち編
31/118

雛の歌姫 29



舞台も結界を張るのも初めて尽くしで疲れたアリーシャが眠っている間、カイウスはオーレスを急かして急いでいた。

オーレスとしても、早く神殿に着けばアリーシャの歌を聞けるとあって不満はなく、すんなり滑空しながらついてくる。


「それにしても、人間は早く年を取るねぇ」


アリーシャの髪をいまだに撫でながら、そんなことをオーレスが言い出した。


「それが(ことわり)では?」


カイウスの返事はにべもない。


「お前だって、前に会った時はこーんな小さかったのに、いつの間にかひねくれた大人になってるし。ほんと可愛くないなー」


「…オーレス様はお変わりなく」


当たり障りのない言葉を返したカイウスだったが、オーレスはそれにムッとして人差し指を突き出した。


「ほら、そーいうとこ!」


しゃらっ、とオーレスの手首に巻かれた細い金の鎖が涼やかな音を立てた。


「ちょっと前はさ、感情むき出しで言い返してきたのに」


「人は成長する生き物ですから」


カイウスは馬を駆りながら短く答えた。相当なスピードが出ている為、集中が必要で長々と喋るわけにはいかない。

会話も顔を見てするほどの余裕も気持ちも持ちあわせていないので、前を向いたまま淡々と続けている。


「オーレス様のお陰です」


「あーあ!面白くなーい!」


オーレスはぶつぶつと文句を言っている。

カイウスは取り合うつもりもなかったので、そのまま黙って放置して黙々と馬を走らせた。


「あの頃はさぁ、」


ピクリとカイウスの口元がひきつる。


「私の周りは賑やかでとても楽しかった」


しみじみと呟く娯楽の神を無視して、カイウスは後どれくらいで隣街に着くだろうかと考えていた。出来ることならアリーシャが眠っている間に距離を稼ぎたい。起きていれば、やはり彼女に負担がかかるわけで。


「絵の上手かったあの子とか、舞の天才だったあの子とか、いつもいつも私のことを誉め讃えてくれた娘たちが私のことを争う様も可愛いかったなぁ」


「それは貴方が各地で人さらいをした結果、彼女たちを自宮へ軟禁したことに対する感想ですか」


つい言葉に棘が含まれるのは許してもらいたい。無視するつもりが、つい感情的になってしまい言葉を返していた。まったく私達の苦労を何だと思っているのか20年経った今でも腹立たしい。


「神隠しとして処理し捜し出し親元へ返したり神殿で保護したりと、オーレス様があちこちで騒ぎを起こす度に私達騎士が出向き頭を下げて回っていれば騒々しくもなりますね!」


20数年前、カイウスとサイノスがたった13才で見習いから騎士となり若者なりに意気揚々と初めての任務を賜ったのは、忘れもしないこのオーレスの尻拭いという新人にとっては嫌がらせとも受けとれる散々なものだった。

期待の新人と囃され、本人たちも誇らしげに胸を張って歩けたのは数日だけだった。

いきなり難度の高い折衝を任された挙げ句、その鼻っ柱はオーレスのせいで折られた。自由すぎる神の引き起こす騒動に巻き込まれ心も折れた。

時の上司は、臨機応変に柔軟に物事に対処せよと曖昧な訓戒でカイウスたちを煙に巻き逃げた。オーレスの突飛な行動を知っていたから逃げたのだ。新人ながらにそれに気付き腹を立てながらオーレスに交渉し、さらわれた(あるいは自分からついて行った)娘たちにも根気よく諭し、時には刃傷沙汰になり色仕掛けにかかりながらも何とか相手を説得できたのは奇跡だった。よくぞあの最低な任務を新人が遂行できたと今でも思う。


「姉上にも怒られたなぁ」


無視なのか。

そこで何故うっとりするのか。

カイウスには全く理解できない神の感情に、もはや憮然とするしかない。


「アリーシャは連れて行かないで下さいね」


「残念だけど、そうするよ。姉上に二度目を披露するほど馬鹿じゃないからね」


残念ってなんだ。以前の教訓が生かされたことは有難いが、以前のことがなければやっていたのか。

カイウスの心中を知ってか知らずか、オーレスが意味ありげに含み笑う。


「お前は余程この娘が大事なのだね?」


「…私の手塩にかけた生徒なので」


「ふぅん?それだけとは思えないけど」


ちらりと眠るアリーシャに目をやって、その背を優しく撫でる。


「ま、人の好いた惚れたを傍観するのも時には面白いよね。特にお前のは面白くなりそうだ」


余計な世話を焼こうとする神を全力で断りたい。

カイウスは切に願った。



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