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雛の歌姫  作者: やよい
神殿編
103/118

101



 結局その日は夜になっても呼び出されることはなかった。

 神前会議が長引いているらしい。


 お昼からはキャトルーが大巫女様の傍へと向かったので、アリーシャは普段通りファート棟で楽譜の勉強や細々とした仕事に従事して過ごした。

 キャトルーはアリーシャを大巫女様の傍へ一緒に連れて行こうとしたけれど、必死になって断った。

 神前会議なんて大それた場所に行くなんて緊張で気が休まらない。

 そう言って断るアリーシャをキャトルーは最後まで渋って心配するので、スタグハインド様が「しつこい!」と無理矢理引き離したくらいだ。

 「さっさと行け」と手で追い払う仕草をした長身の騎士に、キャトルーは「覚えてらっしゃい!」と捨て台詞を吐いて行った。

 全く二人の関係性にこちらが心配になるが、騎士は皮肉に笑うだけだった。

 そして夕食を約束通りエルバとアルガと護衛の騎士たちと取った。

 寡黙になったスタグハインド様とは反対に饒舌になったブルス様によって話は盛り上がり楽しかった。

 夕食が終わりかけて、先生とは今夜は会えないのかとそわそわしてしまっていたら、それまで黙っていたスタグハインド様が言った。


「呼んできてやるから待っておけ」


「…!」


 誰を、とは言わないのは優しさなのか。それとも分かりきったことだから省いただけなのか。

 アリーシャは恥ずかしくて思わず下を向いた。

 自分はそんなに分かりやすかっただろうか。

 キャーキャーとエルバとオルガに冷やかされ、ブルス様には生暖かく見られた。


 スタグハインド様はそのまま戻ってこなかったが、暫くすると先生とサイノス様が連れ立って来た。


「アリーシャ。呼んでくれて助かりました」


 食堂でアリーシャを見つけるなり先生はそう言って、当たり前のように隣の席に座った。

 サイノス様の視線も、ブルス様の視線も生暖かい。


「神前会議は明日に持ち越しでしょう。あんなに意見が纏まらないのではね」


「朝からずっとああだったのかよ?時間の無駄じゃねぇ?」


 文句を言いながらも厨房で夕食のトレーをもらってくる手際の良さ。

 エルバもアルガも普段はほとんど接点のない正騎士を前に興味津々だった。


「ブルスもご苦労でしたね。後はサイノスと私が引き受けますよ」


「ああ、お前も休め。スタグハインドなんか、さっさと戻ったぞ」


 スタグハインド様、戻ってこないと思ったらそういうことだったのか。

 アリーシャの護衛は、朝は講義から夜は部屋に戻るまでとされている。それを先生とサイノス様が夜の部分だけ交代して後を引き受けてくれるらしい。

 迷っていた風のブルス様はそれを聞いて立ち上がった。


「お言葉に甘えて失礼致します。アリーシャ、お疲れ様」


「(ありがとうございました)」


 エルバとアルガにも手を振って爽やかに食堂を出て行くブルス様に二人はニコニコと手を振り返した。


「あーぁ、ここにも甘酸っぱいのが蔓延している。俺も早く嫁のところへ帰りたい」


「帰っていいんだぞ」


「野獣を放って帰れるか!あた!」


 どうやらテーブルの下で先生に何かされたらしい。

 足踏まれたのかな?


「お前!爪先に踵落としはやめろ。折れたらどうするんだよ」


「折れるものか」


 そう言うが早いか、二人は同時にお互いのシャツの襟を掴んで睨み合っていた。


「…誰が野獣だって?言ってみろ」


「沸騰しやすいカイウスだろ」


「この心配性の筋肉ダルマが!」


「若い恋人が出来て朝勃っ…ぅぐっ!」


「大人しく食べろ。迷惑だ」


先生はサイノス様の口に夕食の鳥のソテーを全て突っ込み終えると静かに席についた。


「行儀が悪くて失礼」


にこっと優しく微笑まれるとついつい許してしまう。

サイノス様、大丈夫かな。


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