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破界の元勇者  作者: 鴉刃九郎
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6魔機花の世界―『一大事第一次試験!』

薄暗い部屋、光源はカーテンの隙間から入る細い朝日の光のみ。

「もう、朝か」

馴染みのない世界での初めての朝だ。

どこの世界でも朝は必ずやってくるものだなとベットの中で

目を半開きにして思う彼だった。


「……よく眠れたか?」

耳元で呟かれる。

まだ半分夢に浸かっていた彼が現実に叩き返された。

先に起きていた少女が、寝起きの乱れた髪をかき上げながら

彼のそばで彼が起きるのを待っていた。

寝起きの渇いた口を潤すため少女は冷水でも飲んだのだろうか。

冷たい息が耳に触れたのが彼に暴力的な目覚ましを体験させた。


「やめろよ……癖になっちゃうだろうが!」


情けない声での訴えを無視し、少女はカーテンを大きく開ける。

眩しい世界がその先に広がっていて、その中に彼らが向かうべき場所も見える。

「行くわよ、あの高い建物……通称、庭園に」




昨日買った服はまだカバンの中で寝ている。

結局彼はもともと着ていた服を着ることにした。

少女の方は少々奇抜だが似合っていたので……そもそも男もの

よりはましだろうということで、昨日の服を着ている。

「着替え、あるよ」

「それお前が着たヤツだろうが、洗って返せよ」

「洗っていいのか~?」

「……うるせぇ」

流石にうんざりしていた彼は少女に合わせていた歩く速度を速め、先に行く。

その彼の背中を後ろから見つめる彼女はこうつぶやいた。

「……ああ、必ず返すよ」




目的地である『庭園』というのは、この世界で争う人類と人工知能の

争いの道具である魔機花という人型兵器の秘密基地なのだという。

どうも魔機花に乗るには適正が必要で、今日はその試験の日だというのだ。

魔機花適合者は人類を救う英雄として何人からも憧れの対象とされる存在なのだ。

魔王の力を宿した者を探すためにはこの世界の大きな力に関わる者……

すなわち人工知能側か人間側の大将と接触すればいい。

元勇者こと天広英司はこの試験を乗り越え、無事に魔機花乗りになり

対象者に近づくことができるのか?


……


「なんか……都合いいよなぁ?」

丁度、庭園と呼ばれるその建物の前についたときだった。

彼の言う都合のいいというのは、今日が試験の日ということだ。

「まるでこの世界のスケジュールを把握して俺たちをここに送り込んできたみたいだな

 まぁ、俺は道が指示されたのならそれに従うまでだ」

「まるで奴隷だな」

「……まぁ、な?」


元勇者、彼が少女を、魔王を討った時もそうだった。

力を与えられ、その力を鍛える場所も与えられ、敵と戦う舞台も用意され

そして敵を倒した後、その魔王を倒すほどの力は危険視されるだろうと

力を返した代わりに、新しい世界で何不自由ない生活を与えられた。

すべてあの者から貰ったもの。


空っぽだ。


「おーいどうした?」

「ああ、今行く」

入口の中で待つ少女のもとへ駆けていく。


建物の中では受付の女性……の形をした動く人形が待っていた。

「第一次試験会場はこちらです」

彼女が示すその先にはエレベーターの扉があった。

二人がそれに乗り込むと、階を指定する前に動き出す。

動き始めたエレベーターはこの高い建物を上るのではなく、下へ下へと動き始めた。


それはこのエレベーターの階に表示されていない、普通の人間が行くことができない

地下へと続くエレベーターであった。


「……ついたようね」

閉ざされた扉が開くと、目の前にはまた大きな扉へと続く一本の通路があった。

ここが地下何階なのかは分からないが地上の音も聞こえない、静かだった。


扉を開くまでは。


「オラァアアアアアッ!!」

「クラエェエエエエッ!!」

「ヒャアアアアアハッ!!!」


扉の先、そこはかなり広い部屋であったがそこには大勢の人間が集まっていた。

ただ行儀よくそこにいたわけではない。

中の人間は皆、はじけていた。


おそらく行われるであろうペーパーテストの問題用紙がビリビリに、並べられていた

イスと机は凶器と化していて、教室の壁は崩れたり真っ赤に染まっていた。

暴漢達の争いの中心点からなんとか這い出てきた、ここの監督役の男がボロボロの服を直しながらマイクで会場に声を響かせる。


「だ、第一次試験はへんこ、ヴボォ!変更して、素の戦闘能力を計測する……ぐへぇ!実践試験で……うおぉ!?」


キ―――ンッ!とスピーカーから耳をふさぎたくなる音が鳴る。

監督役の男が、他の受験者と間違えられて誰かに殴り飛ばされ、マイクが転がり落ちたからだ。


「おい、ペペリ!俺の後ろに下がってろ!」

「あ、ああ!」

かつての魔王もここではただのか弱い少女だ。


なら守らなきゃな!と元勇者、天広英司が彼女をかばうように前に出る。

ちょうど少女の姿を視界に捉えた屈強な男が脳内で思考する。

「へへへっこんな物騒なところはお嬢ちゃんみたいのが来る場所じゃあねぇ!!」

拳を握り、行動に出たその男は少女が彼の存在に気付くと同時に投げ飛ばされる。

男と少年の、対格差はあれどそんなことは関係ない。

「お前よりもっとでかくて強いやつを相手してたんだ!前世でな!」


二度目の人生を送っていた世界では運動はできる方、それに前世で鍛えた戦闘センス、

以前のように怪物を相手ならわからないが、このようなただの力自慢の暴漢程度なら十分だろう。


「うぉおおお!!くるならきやがれ!!」

どこかで誰かが少年を笑う声がした。

調子にノったガキが!痛い目みせてやると。


数分後、監督役の男が落したマイクを探し出して拾い上げ、試験終了を告げるころ。

やはり以前のように百人切りとはいかないかと、思いつつも、

少年は少女に肩を貸してもらいつつも立っていた。

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