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破界の元勇者  作者: 鴉刃九郎
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2科学の世界―再開

「……なるほど……お前はあの魔王の記憶の生まれ変わり、というわけか」

一通り魔王から説明を受けた勇者は自室の床で胡坐をかいている。


魔王は勇者との対決の後、確かに死亡した。

だが、魔王の強すぎる力は行き場を失くし、世界の外側へと流出していった。


勇者と魔王のいた世界は今いる世界とは異なる法則で存在している。

まず、この世界は『本物の世界』ではない。

『本物の世界』はこの世で二つしか存在していない。

では今いる世界は何だというのか?


『本物世界』の二つというのは無の世界と有の世界である。

無の世界は文字通り何も無い世界である。

何も無いのにそれは世界であるのか?という疑問があるが、

無の世界はのちに説明する本物ではない世界に関係する。


有の世界は逆に存在が確定している世界である。

勇者も魔王もその世界で生まれたのだが、この世界では元々

特殊な法則などなく、生まれたモノは生まれた時点でその性質から

滅んでいくまでの経緯まですべて決められている。

まるで運命に支配されているかのような世界。


だが、この有の世界の人間はあるモノを神として崇めていた。


それは『無』である。


何もかもが決められていた人々が求めたのは、何もかも決まっていない『無』を

追求し始めた。


やがて無を信仰する者の中に不思議な力を身に着ける者がいた。

それは何も存在していない『無』と存在が定まった『有』の『間』の性質をもった。

存在していて存在しないそんな矛盾を含む力。


人々はそれを操る力を『間法』と呼んでいた。

何もかも存在があやふやな『間』を操るには、明確な法則が必要だった。

間法はその人間の性格や生き方などから法則を作り、制御する力であった。


間法は有の世界の人間が無へと近づくことにより強度を増す。

やがて一定以上無へと近づくとこの世界では存在するにはあやふやな存在となり、

それでいて無の世界に行くこともない行き場を失くした不確定で大きな存在が生まれる。


それは一つの世界となる。

間法を操る者は、その世界となった間を支配し、自分の思い通りにすることができる。

ようは望んだ世界創造する神になれるのだ。


魔王は生まれつき、無に近い存在で、かつ大量の力を持つ異様な存在であった。

狂信者と呼ばれるほどの熱心な無の信仰者だった魔王の親族は、幼いころから

無へとさらに近づけ、強力な間法を行使する存在となり、やがて力で世界を支配するように

育てていった。


勇者に倒された魔王の力は、それ一つ一つが強大な間であり、それは力を行使する者の

いない力だった。

そして支配者の……神のいない世界が生まれたのだった。


「私は今、ただ魔王の記憶をもった少女だ……だがこことは違う世界には……

 いや世界そのものが私のかつて持っていた力がまだ存在している……ん?」


少女が話している途中、突如二人がいた空間がまるでなにも存在していないような

暗闇へと変わっていた。


「失礼するよ、そこからの説明は私がさせてもらおう」

「……お前……」


元勇者と元魔王の前に現れたのは、まるで中身が空洞のような人間であった。

それは無を信仰する人間のなかで最も無へと近づいた男。

かつて魔王討伐を勇者に依頼した者だ。


「彼女は今はまだ無害だ、だが彼女の恐ろしく強大な力はまだ存在がしている

 このまま力と本体が離れ離れである確証はない」

やがて魔王が完全復活しないと言い切れるわけではない。


そこでだ。


「勇者よ……選びなさい、魔王の、少女の本体を滅ぼすか……あるいは

 世界を滅ぼし、魔王の力を消し去るのか」


魔王の力がなくなれば、少女はただの魔王の記憶のある少女だ。

だが魔王の力が戻れば、少女は強大な力に汚染され魔王へと姿を変えてしまう。


「…………」

元勇者は説明の役割を奪われた元魔王の少女を眺める。

彼女は部屋からこの何もない空間に持ち込んでいたコーヒーの入ったカップを見つめている。


「……普通に、生きたい……」

かつて魔王が死に際に残した言葉を思いだす。


「わかった……俺は決めた、俺はこいつを普通の人間として生かしてやりたい

 元とは言え勇者だ、魔王を……魔王の力を今度こそ滅ぼしてやる」


「……勇者よ、あなたならそう答えてくれると思っていたよ」

男の作り物のような顔が微笑んでいる。

「……それで?その魔王の力でできた世界とやらにはどう行けばいいんだ?」

元勇者の問いに答えるように男は指を鳴らす。

すると彼らはもとの三階の一部屋に戻っていた。


「……ここ、さっきまでと違う」

「……?どういう意味……」

少女の呟いた言葉の意味を問おうとした元勇者だったが

彼に突き付けられたのは答えではなく、空になったカップ。


おかわりを要求された彼は、台所に行く。

インスタントのコーヒーなので粉を入れてお湯を注ぐだけだ。


「……ん?いつのまに抜けたんだ」

ポットの前に立った彼は、ポットからのびる線がなくなっていることに気が付いた。

それどころか、コンセントの穴すら消えていた。


「どういうことだ?」

ポットを持ち上げようとした彼がそれを持ち上げるがそこには何もない。

そして彼は気が付いた、そのポットが温かいことに。


「……なんだ、これは!?」

戸惑っている彼に寄ってきた少女は、「いつも通りにしてみて」と指示する。

ポットのボタンを押すと、何やら奇妙な記号が浮かび上がり、電気が通っていないに

温かいお湯がカップに注がれた。


「ここはもうすでに君たちがさっきまでいた世界ではない……私がこの世界にやってきた

 その瞬間にはもう世界は消えていたのだ」

「どういうことだ?」

元勇者の質問の答えは、単純だった。


「世界から世界を移動するにはその世界を破壊すればいいのだ

 世界の支配者を滅ぼせばいい、やがてその世界から次の世界の核となる間をもった

 者が世界の新たな支配者になる」


「もし、その世界に間を持つ人間がいなければ?」


「それならば、その世界は消えてなくなる、その世界の住人も含んで」


世界を破壊するには世界の支配者を滅ぼさなければならない。

だが、魔王の力でできた世界は支配者が存在しないのではないか?とさらに問うと

男はゆっくりと答えていく。


「力は持ち主がいなければ存在できない、仮の宿主とでも呼ぼうか

 その者はおそらく支配者と近い存在、人の身でありながら世界を支配しているはずだよ

 勇者よ、君がその世界を破壊するだけなら配慮はいらないが、もしその世界の住人を

 想うのなら、コレを」


男が渡したのは、白紙のカードのようなモノだった。

それは間を、存在していて存在していない存在を具現化したモノだった。


「それは世界に間をもつ者がいない場合にその世界に最も近い間のようなものになる

 世界を滅ぼしても魔王の力の代わりになる、神のいない世界というのには変わりないがね」


ようするに、仮の宿主を倒しても、世界を構築している魔王の力だけ消して、

世界を存続させれるというのだ。


「それは持っているだけで、その世界にもっとも適した間……力となる

 君は勇者としての力を封じ込められているが、それを持っている限りその世界特有の

 力を身につけれることができる」


例えば科学の発展した世界でなら、一定以上の知識が入ってきたり、

魔法の世界なら、ある程度の技術を習得した状態になる。


「間でできた世界なら、私がさきほどのように間の支配を消すように上書きするだけで済むのだが……

 どうやら魔王の力とやらは『私たち』とは違う法則で世界を構成しているようだ」


私たちが自分の世界以外に直接干渉できるのは世界の上書きだけだ、と言う。

元勇者には無へと近づき、世界を創造するような強大な力の持ち主たちのことなどよく知らなかったが。

「まぁ……お前も大変なんだな」



彼はその白紙のカードを七枚受けとる。

どうやら魔王の力により生み出された世界とやらは、全部で七つあるそうだ。


「さぁ、行くか」


勇者の魔王を倒す旅は、魔王を救うために再開した。

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