1科学の世界―再会
文章が途中で途切れていました。すみません……
ああ、平和だなぁ。
コンクリートの街並みの一部にぽっかり穴が開いたかのようにその場所は存在していた。
昼休みの学生や社会人に人気なその自然あふれる広場のベンチに寝転んでいる男。
彼の名は天広英司。彼の真上のおてんとうさまに今日の平和を感謝している彼は『学生』である。
繰り返すがここは昼休みの学生や社会人に人気の広場である。
そんな場所でベンチに横になれるということは……
広場に設置された時計は午前10時を指している。
周囲にいるのは小さな子供と遊ぶ母親と思われる女性と、犬の散歩をする老人。
今日が彼の学校の創立記念日だとか、彼が平日だと思い込んでいて実は休日だとか
そんなことはなく、今日は一日中、明後日の文化祭の出店の準備をするというので
体調不良ということで休んでいるのである。
別に彼がクラスの人間と馴染めていないとか、あまり学校が楽しくないということはない。
むしろ彼は学校の全生徒の注目を独り占めするような存在である。
美しい顔立ちに、優れた頭脳と運動神経、何をやらしてもこなす器用さ。
彼は町を歩けば誰かに声を掛けられるような男だった。
この世界に生まれてから十数年、これまで辛いこともなく幸せに、平和に生きてきた彼が
今日はどうにも気が乗らない。
いわゆる気分がわるいというわけではないが、学校に行く気分ではないのだから体調不良だろう。
そう心の中で言い訳しながら、この場所でサボっているのだ。
たとえサボっていることを誰かに知られたところで、誰も彼を責めることはない。
この世界のすべての人間が、彼を愛し、敬うことを彼は知っている。
「……平和である……な」
そう平和である。
彼がこの世界に『生まれる前』の世界は争いにより、傷つく者がまちにあふれていた。
「だが……なんというか、普通、ではないよな……やっぱり」
前の世界でも、彼を敬う者はいた。
だがそれは彼がその世界を救ったという事実があったからである。
ここでは普通の人間として平凡に暮らそうとしていた彼にはそんな特別扱いされるような
過去はない。
「……」
平和な空間、温かい日差しが彼にある記憶を蘇らせる。
それは世界の存亡をかけ戦った相手の最後の言葉。
「ワタシも……フツウの……として……生きたか……た」
その者は強大な力をもって生まれたことにより、一族から、周囲の大人達から
世界を統べる者として育てられた。
そして、世界の敵となった。
「普通の、生活か」
そろそろ昼時だなと、ベンチの上で数時間過ごした彼は起き上がり、近くの
ファーストフードの店にでも入ろうかと思い歩いていると、広場の噴水に
何か妙なものが浮いていることに気付く。
「なんだ?……ボロ布……?」
気になった彼がそれをつまみ上げようとすると、その布が服であることに気付いた。
服といっても、やはり布と言ってもいいような、この電波で人とつながっているような時代に
似つかわしくない、そんなものだった。
だが彼がそれが衣装であるのに気が付いたのは、彼のよく知っているものだったから。
だがそれはこの世界の文化ではない。
彼が『いた』世界のものだった。
「これは……」
その布の下に隠れていたのは、噴水によってずぶ濡れになった少女であった。
彼女はどうやら気をうしなっているらしく、動かない。
「……話を聞く必要があるな……しかたない、まだ人がいない今のうちに部屋に運ぶか……」
「う……」
その少女が目を覚ましたのは日が暮れ始めたころだった。
彼女のずぶ濡れの服はすでに乾かされていて、彼女はこの世界のカジュアルな服を身に着けて
布団の中に入っていた。
「気が付いたか……」
彼女の隣で、壁にもたれながらぬるいコーヒーを飲んでいる男が声をかけた。
「悪いが男モノしかないぞ……そうだ、お前も飲むか?」
そう言って彼は台所の方へ行く。
少女は布団からでると、彼の部屋の窓から外を覗く。
三階にある彼の部屋から見える町並は、彼女が今まで見たことのないものだった。
「おまえも、この世界に来た別の世界の人間だな?」
男が持ってきた飲み物を受け取り、それをおそるおそる口にする。
「おいしい」
「それは良かった」
少女がそれを半分ほど飲むと、どうやら落ち着いたようでゆっくりと男に話しかける。
「ごちそうさま勇者……この世界は生きやすい世界か?」
「は?」
勇者、その単語をこの世界に来てから、ゲームや物語の中でしか聞かなかった彼は
少女の口から出たことに驚きを隠せない。
「何を驚いているのか、私とお前の仲……まぁ宿命の仲であったが……私がわからないか?」
少女の放つ言葉一つ一つ、この世界に適応してしまった彼の頭が受け付けなかった。
だがそんな彼の頭を覚ます言葉を少女がつぶやく。
「魔王のことなど……忘れてしまったかな?」
「な、魔王!?」
取り乱した彼に静まれと命じるかのように手を前に出す少女。
彼女はこの世界に来た経緯を話し始める。