未定
ぬいぐるみとしてこの世に誕生したはずのわたしの今、もう口をつぐみ続けるのも飽きたので話をします
わたしがこの家にきたのは約三年前、持ち主の姉妹二人といえば散々ケンカで、なんでも取り合いになっていたので、「乱暴なクソガキ共が…あぁ!勝手に遊べ!」、とわたしはされるがまま、に馬乗りで潰される…お前らは武豊か?、地の果てまでつまらない、生活に変化が起きたのはそれからまもなく、この姉妹の可もなく不可もなくな父親が死んで、状況は一転、姉妹の姉は父親の連れ子だったらしく、実の母親もこの世を去ったらしく、保険金で服も化粧も真新しくなった義理の母親から残飯を与えられ、全身の至る所が赤く腫れ、日に日に無口になっていく姉、妹は母親とリビングで笑っているだけ、一部始終を見ていたわたしは、姉の涙に濡れ幾度と夜を明かした
そして姉はいなくなった
今も母親と妹はテレビを見て大口を開け、笑っている姿をわたしは恐怖に捉える、未だに涙で湿ったままのわたしの体、そのものがわたしにとって姉の形見となった、奴らはこれからも変わらずにぬくぬくと過ごすだろう、だから今夜中に生まれて初めてわたしは自ら動くだろう、大丈夫…台所のアレを少し捻ったりするだけだ…
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監禁されてもうすぐ八年、ありとあらゆる恐怖すら詭弁にしか感じなくなり、気付けば痛覚も単になくなり、分かった事と言えば『アイツ』のベストオブムービーはハンニバルらしい
それと『ペット』を無数に飼っている事、あぁ、それぐらい分かっているよもう、今もスタンガンでショックを与えようとスタンバってる『アイツ』は無口な野郎だ、なんなら肉切り作業の続きはやろうか?、と問いかけようが聞く耳を持たない、感じるのは少しの慈しみと笑い
俗に言うストックホルム症候群の自分は次々と新たな悲劇のプロローグを生む『アイツ』を許す事にした、身近に苦痛を共にした仲間に肉を提供するだけの事、血しぶきをあげながらその時がくるまで踊ろう
八年間過ごした小部屋の南側の小窓、そこに生えている雑草はどんなに偉大なものだろう、毅然と根を張り真っ直ぐと伸びているんだ、自分が、今出来る事を教えてくれるかのように、窓格子、越しにこっちを見ている『アイツ』にもこのことを教えてやるつもりなんだ