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黒剣の魔王  作者: ニムル
第1章 センシタリア王国編
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第1話/異世界転移

まともなタイプの作品を初めて書いた気がする...。

「ただいまー」


 中学校の友人達と駅前で遊んで午後七時に小鳥遊(たかなし)家に帰宅。すると両親と祖父母は公民館でカラオケ大会してるとかで不在だった。


 ……まさに世に言うダメ親というやつだな。


 おいおい。昼間っからお遊びですか。仕事休みなのは知ってたけどさ、もうちょっとなんかあるじゃん。ママ友とか近所の人たちと大人気歌手の歌を歌ってるくらいなら夕飯の支度ぐらいしてけよ。せめて材料を残せよ。


 そんな、世間一般で言う『素晴らしい親』に恵まれなかった自他共に認める残念ボーイはこの俺、小鳥遊(たかなし) (ゆう)だ。


 顔はなんと、パチンコ大好き無職の父親(くしくも美系)に似ているらしい。髪の色は昼寝を外の芝生で太陽の光を浴びすぎたからか、ここ数年やや茶色がかっている。


 帰宅してやはり妹も何もしていないと察しがつき、仕方ないのですぐに夕飯の支度を始める。


 そんななか、2階から匂いを嗅ぎつけておりくる足音がいつもよりもひとつ多いことに気づいた。


「ん?」


「おかえりぃ! 今晩のご飯はなーあに?」


 パジャマでそう聞いてくるのは姉の(あや)だ。


 我が姉ではあるが顔は父と俺に似ておらず母親似の美形で、透き通るような腰のあたりまで伸ばした黒髪に茶色の瞳、そんな風体に赤の四角いフレームの眼鏡をかけている。


「お兄ちゃん、今日、恭花(きょうか)も食べてくから四人分作ってー!」


 ふざけたことを抜かす妹の(ゆい)を俺はキッと睨みつける。


 こいつも姉ちゃんに似て黒髪茶眼の、外見だけは美少女だ。決して明言したくはないが。髪型こそショートカットなので違うが、容姿はほぼほぼ姉に近いものがある。ちなみに普段はカチューシャを付けている。


 それにしても……双子ながら嫉妬するぜ、こいつ、モッテモテだからな。


 俺みたいなアニヲタ野郎はそもそも異性はともかく、同性すらよって来ないぞい。モテパワー腹の中にいる時に全て持ってかれたのかな、今から返してくれない?


「はぁ、恭花(きょうか)の分もってどういうことだよ……」


「お兄さん、お願いしますっ!」


 運動部よろしく、冬場にランニングジーンズのスタイルで俺に晩飯の要求をしてくる(ゆい)の友達の恭花(きょうか)が両手を合わせて頭を下げる。


 決して礼儀のなっている頭の下げ方かと言われれば疑問しか浮かばないのだが、状況が状況、お人好しな俺としては結局作ってしまうオチだろう。


 恭花(きょうか)はイギリス人と日本人のハーフらしく、髪の色は金に近い茶髪で蒼眼。髪を後ろに一本まとめて縛っている姿がとても凛々しい。


「またお前か……しかもついに飯までうちで食ってくのかよ。いい加減親と仲良くしろよ」


「絶対に無理です!」


「あーそ」


 親と仲の悪い非行少女を放置して、仕方なく四人分の食事の用意を始める。


(ゆい)ちゃーん!! お兄さんが冷たいよぉ!!」


「いいのいいの。お兄ちゃん、あのままだったらいつものノリで晩御飯作ってくれるから」


「結、ゆうくんだって一応あんたと同じく受験生なんだぞ?少しは手伝ってやったらどうなんだい?」


「「お兄ちゃん(お兄さん)、そういや受験生か」」


「テメーらもだろうが。頭悪いからって現実逃避するなよ。いくらこの間の成績がひどかったからって」


 俺は学年順位が220人中7位。こいつらは220人中151位と152位を争う中である。(ビリと差があるように見えるが、実際はビリと十点変わるかそこそこくらい)


 俺としては、よくそんな点数をとって余裕こいていられるな、と思う。兄としては恥ずかしいところだ。


 余談だが、姉は一応高校3年でもう既に入試は終わったらしい。俺は入試がいつだったかすら知らないが、AO入試で受かったと聞いたので恐らくは9月10月頃だったのだと思われる。


 そんな姉に対する俺の目線は、ずっとうちにいるイメージしかない。因みに俺はアニメしか見ないため、(ゆい)よりはマシだが世間の情報には疎い方だ。うちの妹さんは天気予報と、BSでやっている宗教の聖地巡りみたいな番組しか見ない。


 それにしても、本当に大学に合格してるんだろうか? この姉は。と、不安になるほどにぐうたらしている。


「今日は高校行ったのかー?姉ちゃん」


「ほぇ? あぁ、行ったよ? 行った。行くだけね? 行ってすぐ早退したー」


「えぇ!? お姉ちゃんいいなぁ♪」


「……、真面目に卒業式とかの練習しろよ……」


「私やることないもーん。家でぐーたらしてる方が性にあってるもーん」


 誇らしくいうことじゃないだろ! と、ツッコミを入れながら、冷蔵庫にあったタコを使って、たこ焼きを作る。


 最初から手伝う気のない我が姉妹たちとその友人は、もう匂いだけで何を作っているのかわかったらしく、気だるげにトークを始めた。


「あー、クトゥルフさんかー。久々にラヴクラフト全集を一から見返したくなってきたよ、ご飯前に読もうかな」


「くとぅ焼きかぁ。お姉ちゃんそんなことしてると食いっぱぐれてお腹すいちゃうよ?」


「いや? 食べながら読むよ。電子書籍で自動スクロールして」


(ゆい)ちゃん、くとぅるふって? タコさんの種類なの? タコさんじゃないの? なになに? おしえてっ!?」


「いーのいーの、あんな化け物の話なんて聞いたら、恭ちゃん精神的に病んじゃうから。あと、お姉ちゃん行儀悪いよ。テレビはいいにしても流石にそれはダメ」


「そうそう、あんな邪神様の話なんて聞かない方がいいぞ、そこの姉には特に話してほしいなんてふるなよ。魂持ってかれるぞ。あと食い方が想像するだけで汚いから、電子書籍読みながらはやめてくれ」


と、SAN値の下がりそうな邪神のトークが始まりかけていたので間に入って恭花(きょうか)を止めに入る。ついでに行儀の悪さも注意。


 ……邪神様の話は飯がまずくなるからやめてほしい。ほんとに。


「えーとね、タコさんに似ねる頭に、イカさんみたいなな触手をたーくさん生やした顔しててねー、おっきなかぎ爪のある手と足、ぬらぬらして鱗に覆われた山みたいな、大きなゴムみたいな身体で背中にはコウモリみたいな細い翼を持ってる気持ち悪い怪物だよー! はっははー、かっわいーよねぇ!」


「……うわぁ、お姉ちゃん、私とお兄ちゃんが言わない流れに持ってったのに……」


「気持ち悪いか可愛いかのどっちかにしてくれ……」


「何ですかそれ! とってもキュートですね! お家で飼いたいんですけどどこのホームセンターに売ってますか?」


「「「え!?」」」


 その後、俺達は恭花(きょうか)に全力で説明し直したのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ご馳走様ー。うっ。気持ち悪っ」


「ごっさんしたー」


「あーあ、お兄ちゃんとお姉ちゃんがキラキラするからまずくなっちゃったー」


「うぷ、おうぇぇぇぇ……」


 あの後延々と姉が恭花(きょうか)にクトゥルフの触手の断面図とか、触り心地がどうだとかという気色悪い話を聞かせていた。


 言っていた当の本人である姉も気持ち悪くなって吐いているのだから、ほんとにしょうもないったらありゃしない。


「おぇ、ちょ、ちょっとトイレ……」


「はーい、いってらー。便器に顔埋めといでー」


(ゆい)ちゃん、言い方……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ふぅ」


 すべて吐き出して、やっと廊下に出ることが出来た。吐き出し終えて、気持ち悪いということ以外が考えられるようになると全身の倦怠感が徐々に明確になってくる。


 本当にタコ=クトゥルフの発想はやめてほしい。あんな話を延々と聞かされていたら、本当に狂人になってしまいそうだ。


 終始目を輝かせて話を聞いていた恭花(きょうか)と、無感情にたこ焼きを貪っていた(ゆい)の精神力は尋常ではないことがわかった。ただ脳天気なだけにも思えるが。


 ラヴクラフト先生は、あんなものを生み出して最初どう思ったんだろうか......俺だったら耐えられない。そんなものは脳の機能で勝手に忘れさせてもらえるだろう。悪い記憶、又は不必要な記憶として。


 もしかしたら、ラブクラフト先生はSAN値が最初から0以下だったのではなかろうか。なんて恐ろしい話だ……書いていた作者が最初からSAN値マイナススタートとは……ワロエナイね、クサハエル降臨クエストは起きなさそうだ。


 それにしても、実際にラヴクラフト先生がSAN値0であれを書いていたのかと思うと本気でゾッとする。自分はそうはなりたくないなと思う。というか、ラヴクラフト先生もそう出なかったことを願う。


ーゴォォォォォォォォォォー


「なんだ!?」


 しょうもないことを考えていると、突然揺れだした足元になされるがまま、トイレの前の廊下の床に盛大に顔面をシュート。痛いということもその一瞬では考えられず、意識が飛びそうになった。どんだけ貧弱なんだよ、俺の体。もっと何とかならんかったの?


 突然の揺れで肺がうまく機能せず、恐怖とも相まって、出るはずだった悲鳴が喉の奥にとどまっていて、声にならない。


「……カハッ……」


 顔面を強く打ったせいか、鼻血が出初めて息が詰まる。そしてここで俺の意識は一度暗転した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


自分の感覚としてはほんの一瞬だったのだが、玄関の端にある小窓が明るいことから、今はもう朝、または昼間であるということが伺える。


「どれぐらい倒れてたんだ?」


 揺れが収まっていることに安堵感を覚えつつも、心に植え付けられた自然災害に対する恐怖心は消え入ることは無かった。


 あたりを見回すと、恐ろしい程に大きい揺れだったはずなのに家具が壊れていたり、位置が動いていたりというようなことが全くない。


「どういうことだ?」


と、疑問を持った。


 外の状況はどうなっているのだろう、と。


 あれだけの地震で家具一つ倒れておらず、窓も割れていないだなんてことは全くありえない。


 うちが新築で耐震性が優れているからということなら、まだ理解できる範囲だ。納得はできないが。


 だからその真相を確かめるためには、ご近所さんの家の現状を見てみるのが一番だろう。


 そう思い立って、外に出るために立ち上がって玄関へと向かう。あれだけの痛みを感じていたのに、不思議と身体の痛みはおさまり、鼻血ももう止まっていた。


 玄関で靴を履く。靴を履いた時に、足元でバリッ、と音が聞こえたが、そこには謎の黒い砂山があるだけだった。


 外の状況を確認したくて、そんななぜあるのか分からない砂にはかまっていられないので急いで外に出る。


 そして目に飛び込んできたその光景に、俺は唖然としてしまったのだ。


「……おい、なんだよ、これ」


 ご近所さんの被害状況を確認するはずだったのだが、俺の目の前に映っていた光景は、この世のものとは思えないほど綺麗な宝石たちでできた、巨大な空洞上の空間だった。

読んでくださりありがとうございました!

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