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黒剣の魔王  作者: ニムル
第1章 センシタリア王国編
29/45

第24話/黒腕の置き土産

ある意味番外編かも

「さぁ、精神世界(なか)はそろそろ大詰めみたいだぜ? こっちもさっさと決着つけようや、化け鯨のお嬢さん」


「ふっ、私にはテュポンってー名があるって言ったろう?」


 この私が自分の名前を何度も何度も教えてやっているのに、一向に覚えようとしないとは。と、テュポンは憤怒していた。


「それも異世界史の獣神の名前だろう? 本当の名は捨てて全て組織のために生きるってか? まるで異界の物語じゃあないか」


「ああっそうだろっよ。元はてめぇらの言うっ異界人なんだからっ」


 そう言うと、テュポンはその両手の鉤爪を思い切り目の前の人物の頭部めがけて振り下ろす。


 振り下ろした腕は、まるで漆黒の鉱石のような腕によって動きを止められていた。


「随分とお粗末な攻撃じゃあないか。異界では戦闘の仕方は一般教養ではないのかい?」


 体制を立て直すために後方に跳ね、再び空中へと飛び出して黒腕を狙う。


「生憎っ、俺が住んでたァ国にはそんなもんっ無かったよ! 平和そのものさぁ!」


 上から黒腕に火花散る連撃を浴びせるが、その全てを彼は肘で防いでいく。


「……それにしては一切のゆらぎがないねぇ。戦闘の仕方は教えられないけれど、戦闘をすることは好きな民族だったわけだ。同理で、さっきからイキイキしてるよ」


 一向に攻撃が当たらない状況。圧倒的勝利を求める強者ならこの現状は許し難いことだろう。


 しかしテュポンはそうでは無かった。


 彼女は黒腕の言った通り、命削る先頭をすることで、自分の命をかけて戦うことで自分の生を実感していた。


「いいっね、いいっよ、いいっよ! こういうっ、滾る戦いってのを待ってたんだっ!」


「そりゃあどうも。じゃあ君の満足のいくように、おじさん全力で相手しちゃうぞお?」


 自分の連撃を受けながらも、ノーダメージで会話を続けられる猛者。そんな人間は今まで戦ってきた人間の中で数える程しかおらず、テュポンはその中の誰にも勝利した経験はない。


 彼女は大罪の中で決して強い訳では無い。


 能力に甘んじているわけでもなく、彼女に与えられる任務は基本掃討作戦だけだ。


 だがそれも大罪の中だけの話。【傲慢(アザトース)】は攻撃を無効化してくるから当たらない。だから負ける。


 【嫉妬(チャイコフスキー)】は私のレプリカを創り出してくるから勝負がつかなかった。


 この間戦った少年も、前世で受けてきた加護が自分と相性が悪くてボロ負けをした。




 ……だがしかし……




 この男に負ける道理はない。


 自分に対して有効な能力もなければ、圧倒的なパワーがあるわけでもない。


 唯一厄介なのはこの防御力だが、そんなものはこちらの能力解放でなんとでもなる。


 テュポンは【暴食】。食べれば食べるほど強くなる。それは消して攻撃ではなく、相手のことを概念的に食べることも可能。


 故にテュポンは考えていなかった。


 目の前の男の防御力が概念の力を超える、神の力であるということに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うーん、まぁ、君も粘った方だと思うよ?」


 数分後、テュポンは満身創痍の状態で地面に倒れていた。


「おじさんに宿った能力(カミサマ)は、命神アレミワ。つまり異界の神じゃあないのさ」


「……くっ、黒腕っの能力ってわけかっ。くそがっ」


「……まぁ、この腕を得るために彼女と契約したからね。もう2度と怪我にも病気にもならないし、死なないようになる。その代わりに2度と陽の光を浴びることは出来ない。それが俺とアレミワ様の制約だ」


「……完全にうちの裏切り者を消すための制約じゃねぇか、笑えねぇ」


「そりゃあそうさ。元君たちのボス【虚飾】はおじさんが倒させてもらうよ」


「勝手っにしろ。俺はっ仕事も済んだしっ帰らせてもらうぜっ」


 全身で悔しさを表しながら、テュポンは自分の懐から一つの玉を取り出した。


「転移石、アジト」


 テュポンがそう言うと石とテュポンの体が光り、薄くなり始めた。


「あばよっ、黒腕のおっさん。もうあんたとは二度と戦いたくねぇよっ、ったく、久々っにギリギリで自分が勝つっ、少年漫画みてぇな戦いができそうだったのによォっ!」


「そりゃあ済まなかった。しかし、おじさんもちょっと訳あってね、これ以上ここを荒らされるわけには行かなかったのさ」


「まあいいっ。もう二度と会わない事っを祈るぜっ」


「おじさんはまた会いたいけどね」


「はっ、笑わせてくれるっ」


 そう言うとテュポンの体はすっかりその場から消え失せてしまった。


「ひとまず防衛完了か」


『では休みなさいな、ガゼル。あなたが寝ている間に私が色々と手はずは整えておきます』


「また起きたらアレミワ様の恰好なんですね、分かります」


『……仕方ないでしょう。あなたが寝ている間は、あなたの体は私の体になるのですから』


「寝てる間は美少女で、起きるとおっさんって相当趣味悪いですね」


『黙らっしゃい、私だって仕方なくあなたと組んでいるのですよ!?』


「さて、ご命令のとおりここに来た大罪を追い払いましたよ。そろそろ約束通り、あなたの目的を教えてくれませんかねぇ?」


『目ざとい男ですね……私と記憶共有をしているのですからある程度はわかっているでしょう?』


「それもそうですが、本人から聞くのとはまた別でしょう?」


『……はぁ。ただの復讐ですよ。そして結果的にこの世界を守ることにもなります』


「……あなたのもといた世界は、【虚飾】に消されたのでしたね」


『ええ。だから私は一部の生き残った民を助けるためにこの世界を作ったのです』


「前の世界では男だったとかなんとか」


『信仰の形が女神崇拝になったことで、人々の私に対するイメージが今の私にも反映されているのです。仕方なきこと。この体の方が使い勝手もいいですから』


「……まぁいいんですけど、起きた時に俺がネグリジェを着ているような状態はやめてくだいよ?」


『善処します。さぁ、彼らを蘇らせて次の街へ向かいましょう』


「分かりました」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 二人で一人。命神と黒腕のコンビはその場に死んでいた兵士たちを蘇らせて去っていった。


 この出来事は会場内の監視カメラによってすべて録画されており、後に『黒腕の置き土産』と言われ、来る災害を未然に防いだとして黒腕の名は語り継がれていく。


 彼の名はガゼル・リンバーチェ。


 転生王の父にして、命神の憑依者。


 彼は後にさらに大きな功績を残すことになるのだが、それはまた別のお話。

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