94話
地下に降りるために空けられたこの穴は人一人がやっと通れる程の幅しかなくウィルとそのパートナーのマコは教会で待機となった。真っ暗な地下道を魔術で作り出した小さな灯りを頼りに進んでいく。柱で補強されてはいるが大地が露出しヒンヤリとした空気を作り出している。一定のリズムで水滴がしたたり落ちる音が反響し絶え間なく聞こえていた。モンスターから逃げるために作られたのか或いは賊から身を隠すために作られたのか蟻の巣のような構造をしている。通路を進んでは部屋に着きまた三叉路に戻っては別の道を進を繰返す。各部屋は一応くまなく調べているがどの部屋も大体同じだった。長期保存が可能な保存食、数枚の寝具それと武器だった。
かなり奥まで来たと思う。散策した部屋も十は越え、次の部屋もそろそろ見えてくるころだったが、カグヤが足を止め人指しを口に当て¨静かに¨ジェスチャーをする。
「この先に誰かいるみたいだよ」
耳元で囁くカグヤの甘い香りが鼻腔をくすぐる。カグヤの香りを堪能していると反響してきた小さな物音が聞こえた。暗闇の先には灯りが点っている。先に進むとその灯りは大きくなり古びた扉を浮かび上がらせ隙間から溢れた光を影が忙しそうに何度も遮っていた。
タクト達が受けた依頼は幽霊退治。その正体はホログラムでそのために必要なPCや機械は止めてある。依頼としては完了としても良いのだろうが此処まで来るとこの先にいる人物に興味が湧いた。ホログラムを作るだけの機械を持っているのならタクトと同じ世界の住人である可能性が高い。そんな人物がどうしてこんな場所にいるのか知りたかった。タクトは手のような甲で二回扉を叩いて返事を待った。
タクトのノックの驚いたのだろう。中から物が倒れ散らばる音が聞こえたが扉が開かれる気配はない……。タクトはもう一度ノックをすると扉がキイィと軋みながら開いた。




