89話
鏡を見なくても今自分がどんな顔をしているか分かる。誰がどこからどう見てもムスッとしている顔に見えるだろう。こんな顔をしていたらいけないのは分かっているがどうしても顔が元に戻らない……。
「アレが地震なんだね、学校で習ったけど実際に体験すると怖いねえ!」
「僕もオネェ先生に教えて貰ったよ。」
「オネェ先生か……懐かしいね。私達のクラスでも大人気だったよ!そういえばタッ君、オネェ先生に大目玉食らった事あるんだよね?」
「実験は男心をくすぐるから……つい………ね……?」
さっきからこんな流れで話が続いている。マコと肩を並べて思い出話をしているタクトに妬みの視線を向けるが気づいてもらえない……。
「ね?カグヤはどう思う?」
「え!?ああ……どうでもいいよ。」
「カグヤ……何か怒ってる?」
「別に………」
やってしまった……。ついイラッと無愛想に答えてしまった。本当は自分も混ざりたかったのに……タクトの昔の事をもっと知りたかったのに………。気まずい雰囲気を残したまま目的の場所にたどり着いた。
歴史を感じさせる教会。数えきれない墓石。枯れた花束がガサガサと音をたてて風に飛ばされていく。カグヤが枯れた花束を拾い上げると粉々に崩れさってしまった。
「いかにも……な雰囲気だよね……。」
今回noccsへの依頼として回ってきた仕事は幽霊退治。数日前からこの教会に沢山の幽霊が出るから何とかしてくれ!!というものだった。最初の頃は幻を作り出す魔術を使った誰かのイタズラだと思われていたが即刻その可能性は否定されてしまった。もし、魔術で作られた幻なら魔術の使用者以外の人間が一定距離まで近づけば解除され消えてしまう。けれどこの教会で目撃された幽霊は近づいても消えることはなく、だからと言って触れようと手を伸ばせばその体をすり抜けてしまう。当に幽霊と呼ぶべき存在。
「ねぇ?幽霊退治ってどうやるの?」
「それは……未練を晴らしてあげるとか?」
「具体策はないってことね………。呆れた~~。」
「仕方ないだろ!幽霊なんて元々、存在自体が怪しいんだから!!」
「で、本当にどうするつもり?」
「とりあえず幽霊とやらを見てから考える!」
タクトの行き当たりばったりに呆れながら教会の扉を開けた。中には十字架、聖母の像、ステンドグラスに木製の長椅子があるだけ。椅子に座り幽霊が姿を現すその時を待った……。




