82話
カズトシの腕を振り払うと
カズトシの顔が一気に不機嫌になっていく。
「ど、ど、どうして拒むのさ……。ぼ、ぼ、僕たちと一緒に世界を良くしていこうよ…?」
「世界を良く………?」
カグヤは首を傾げた。
「ああ、そうだ!」
答えたのはカズトシでもなくメーニャでもなくミノタウロスのアウレーだった。
「お前だって『忌み子』なら理解できる筈だ!!蔑まれる痛みを!!疎まれる苦しみを!!存在を否定される絶望を!!」
「…それ…っは……」
アウレーの言葉が忘れていた記憶を甦らせ俯かせる。『忌み子』として生きてきて沢山の人と出会って不幸にしてしまった。それは申し訳なく思っている……。けど、けど!好きで不幸にした訳じゃない!!なりたくて『忌み子』になった訳じゃない!!なのに……なのに、周りの人間からは………。
「人間だけじゃない……。知能があり群れる動物の全てがそうだ。そしてそれは『忌み子』以外の……カズトシのように普通の人間であっても標的にされるんだ。」
「………貴方達の言いたい事、やりたい事は分かったよ。けど……、」
カグヤはゆっくりと歩を進めた。オークの死体の中から自分の双剣を手に取ると刀身に映る自分に向けて言った。
「けど、こんな……争いを引き起こすような人達とは一緒にいられない!!」
「それは違うわ!!私達だって好きで起こした訳じゃない!!今の人間には腐った奴が多すぎる。そんな奴等の数を減らし全員で同じ痛みを共有することで私達が導くに値する生命になれるのっ!!」
「なんて……」
「ミガッテナ…ヤツラ…ダ……。ニンゲンハ、ミナミガッテダ…」
キングオークが傷口を押さえながら立ち上がる。痛みを堪えているためか鼻息が普段以上に荒い。
「オマエ……ラノセイデ、ワガドウホウハ……」
石の斧を拾いキングオークはミノタウロス達に明確な殺意を向けた。
「自分が騙されたからなのに……逆恨みも甚だしいわね、あの豚。カグヤ、その豚を殺しなさい。」
メーニャがタクトに鋒で突くとタクトの頬に血が流れた。
キングオークに一対の双剣を向けた。オーク族は今、三つの街と戦争している。それを止めるには大将を……キングオークを討ち取ればいい。だから、キングオークを討伐するのに躊躇いはない。だけど、このままタクトを人質に取られていたら事態が好転しないのも明らか。だが予想外のことが起きた。キングオークが攻撃を仕掛けたのはカグヤではなくミノタウロスだった。石の斧と棍棒が大きい音をたて交わる。更に予想外の出来事が起きた。死神が降り立った。黒いマントを靡かせ鎖の付いた大きな鎌をゆっくりと回転させ不気味な面の下から呟いた。
「ふふっ……綺麗な薔薇が四……いえ五輪咲いているわ。」




