79話
カグヤがオークの軍団に追い付いた時には既にトリューネ街の兵と戦闘に入った後だった。オーク族を正面からトリューネ街の兵が向かえ打ち、カグヤが脇から斬り込みオークの軍団の数を減らしていく。カグヤの倍の大きさ…三メートルはある巨体がカグヤの剣によって斬り刻まれオークの死体によって地面が隠される。それでもオークの壁が薄くなる気配はない。
「オマエ、ホントウニニンゲンカ?」
呂律が上手くない鼻声のような声と共に石で出来た斧が降ってきた。斧を弾き声の主を睨む。普通のオークの一・五倍ほどのキングオークが見下ろしている。
「わた――!」
眼前に迫るキングオークの拳に驚きその場を勢いよく飛び退き距離を取る。いきなり殴りかかって来たから驚いたのではない。殴る速度がオーク以上であったのとなにより拳に赤い薔薇の刻印があったことに驚いたのだ。ミノタウロスが『忌み子』だという情報は得ていた。けどキングオークまでもがそうだとは知らなかった。そもそもミノタウロスはどうしていない?このキングオークのパートナーはどこにいる?
分からないことがあるがそこまで考えている余裕はない。迫る拳をよけキングオークの腕に傷を残しながら懐に入ると剣を振り上げた。キングオークの短く太い足から血が流れ出る。その場から後ろにジャンプした直後にキングオークの手が地面を叩き地面を震わせた。キングオークはもう片方の手に持っていた石の斧で首を狙ってジャンプしたカグヤを振り払う。刃の部分で斬るのではなく面で距離を取るために振り払われた斧を剣で防ぐが止めきれず静観していたオークを数匹巻き込みながら地面を転がった。幸いにもオークの蓄えられた脂肪がクッションになり痛みは差ほど感じない。巻き込まれたオークがカグヤの体を押さえつけその手から剣をもぎ取っていく。
「き、きゃあぁぁあ!!」
急速に地面が離れていく。キングオークが胴体を掴み自身と同じ目線までカグヤを持ち上げた。キングオークの手を殴ったり引き剥がそうとするがビクともしない。
「オマエモ『忌み子』カ。パートナーハドウシタ?」
「さあ?それをアナタに言う必要ある?それにアナタこそパートナーが見当たらないようだけど?」
「サアナ、ドウシタトオモウ?」
「見当もつかないわね。それよりそろそろ退きなさいよ!息が臭くてたまらなの……よっ!!」
カグヤの鋭い蹴りがキングオークの胸元を捉える。分厚い脂肪の層が蹴りの衝撃を吸収し大したダメージにはなっていないようだ。
「エッエッエ、オマエハドンナアジガスルンダロウナ?」
「まさか……食べたの?パートナーを!?」
カグヤの体をキングオークの大きな舌が這いずった。ベタベタとした唾液が悪臭を放ち鼻腔を刺激する。カグヤをさらに高く持ち上げ上を向いて口を開くとその右足に食らいついた。歯がないので噛みきられることはないがざらざらした肉がすり潰そうと咀嚼してくる。数度咀嚼が行われた咀嚼が止まると舌がカグヤの脚に絡み舐め回す。最初は何ともなかった咀嚼が回数を重ねるごとにヒリヒリとし痛みに変わっていく。徐々に脚の肉が削られていくのが伝わってくる。
「どうしてパートナーを食べたの!?ずっと……ずっと一緒にいたのにどうして……?」
「オマエダッテパートナーガ、メザワリダッタンダロウ?ダカラ、ヒトリデコウドウシテイル。」
「アナタと一緒にしないで!私達は今だけ。彼はちゃんと街で待っていてくれてる!!」
キングオークの鼻を思いっきり踏みつけると潰れた鼻がさらに平らになり二つの穴から血が滴る。
「街……デカ。エッエッエ~エッエッエー!」
「何が……何がおかしいの!?」
鼻を押さえながらキングオークが面白そうに笑った。
「ソノニンゲンハ、シンダ。街ガドウナッテルカシラズ、ノンキナヤツダ」
トリューネ街のある方を見ると確かに黒い煙が立ち上ぼり異常事態あったことを告げている。不安が胸を締め付ける。安全だと思い街にタクトを残してきたのに……。激しい衝撃がカグヤを襲ったのは直後だった。噎せかえりながら地面の感触を確かめ叩きつけられたと悟った。再び体がキングオークを中心に弧を描きながら地面に叩きつけられる。何度も何度も叩きつけられ痛みがその後を追いかけ襲ってきた。耐え難い程の苦痛。骨が数本折れているかも知れない……空を眺めながら痛みからそう思っていると石の斧がカグヤの上に差し出された。キングオークはカグヤの両足を掴みカグヤに目標を合わせた石の斧を高々と振り上げた……。




