76話
「ど…して………どうしてここにナオキがいるのよ!!」
宿の大浴場から戻ってきたカグヤが部屋の扉を開くなり叫んだ。
「どうしてって僕が呼んだから………」
「タクトに呼ばれたから!」
「そんなの分かってるわよっ!!何で呼んだかを聞いてるのよ!!」
凄い剣幕でカグヤが問い質してくる。
「ごめんなさい……」
取り敢えず謝ってみたが怒りは鎮まりそうにない……。カグヤには黙ってナオキに連絡したがそんなに怒ることだろうか?
「タクト、何を考えてるの!ミノタウロスを止めに行くんでしょ?」
「そ、そう。止めに行くからナオキが到着するのを待ってたんだ……よ?」
「あのねぇ……相手は私達と同じ『忌み子』なんだよ!!普通のモンスターとは違うの!危険なの!死んじゃうかもしれないの!そんなとこに親友を連れていくの!?」
「ロウガもいるし……それに親友だからこそ呼んだんだよ。」
「何それ?わかんない……わかんないっ!!」
「親友だから一番信頼出来るし信用出来るんだよ。」
「………タクトの変態!!」
「この流れでその言葉は変じゃないか!?」
「あ~あー!お二人さん、そろそろ話をしたいんだが?」
ナオキが会話に割って入ると渋々とカグヤは黙りタクトの隣に座った。
「改めて聞くがタクト達はこれからラナミル街とオーク族との戦場に行ってそこにいるミノタウロスと俺達と同じ異世界の人間を止めにいくんだよな?」
コクりとタクトとカグヤは同時に顎を縦に振った。
「よしっ!なら俺とロウガも一緒に行く!!」
ナオキは自分の膝を叩き気合いを入れると勢いよく立ち上がった。
「相手は『忌み子』。危険なの分かってる?」
「ならどうしてタクトを連れて行くんだ?」
「タクトのことは私が絶対に命に換えても守るから。けどナオキ。貴方の事まで守りきる自信はないよ。ナオキが死んだらタクト達が悲しむから……だから……」
「カグヤちゃん。俺にはロウガがいるから守ってくれなくていい。それにタクトが俺を呼んだのはカグヤちゃんに命を賭けるような真似をして欲しくないからだぜ?」
「カグヤ……カグヤの命は僕にとって何よりも重いんだ……。それだけは忘れないで?」
タクトが優しく諭すように伝えた言葉にカグヤは何も言い返す事が出来なかった。それどころか段々と目頭が熱くなってくる。『忌み子』として生きてきて沢山の不幸を振り撒いて他人からは疎まれてきた。そんな自分の命は風船のように軽く誰かの為に使って然るべきだと思っていた。けど、タクトのくれた言葉は……。タクトにとって私の命は……。
「おいおい、タクト。それはカグヤちゃんを助ける為に俺を犠牲にしようってか?ヒデェ~ヤツ……だ…な……」
子供の頃からの付き合いだ。ナオキの考えくらい分かる。その茶化す口調は涙を拭っているカグヤを笑わし空気を和ませたいのだろう……。
「いやいや、そんなことは考えてないぞ。」
さぁ、ナオキ。うまいこと返してくれ!
「本当か?」
「あぁ。昔から誰かを犠牲にした生活は難儀って言うだろ?だからナオキだってこう言って怒る筈さ…¨俺が犠牲になった生活なんて難儀セイッ!¨って………」
これでどうだ!?
「………………」
「えっと……犠牲と難¨儀セイッ¨をかけてるだけじゃなく¨難儀って言う¨を¨難儀Say¨とダブルでかけてる訳で……えっと……」
「………………」
ナオキが………ナオキが部屋から去って行く……。その背中が¨後は自分でなんとかしろ¨と語っている。
「………カグヤ…」
何て言葉をかければ良いか分からない。そっと背中を擦るだけにした……。
「………グスッ……タ…グト………」
「ん?なに?」
「………0点……」
なんだろう?何かが頬を伝って流れていく………。




