71話
最初はフォレストスコーピオンだけだけだったがリザードマンにハイゴブリンも混ざりだした。三種類ともパドック用にこの闘技場の地下で飼育、繁殖させている。野生で育った同種のモンスターに比べれば体は小さく戦いなれしていないが、パドック用に飼育されていただけあって数は相当なものでカグヤがいるこの会場以外の五つの会場でも同様にモンスターで溢れていた。
囲まれないよう常に走りながらモンスターと戦っていたカグヤとメーニャだったがメーニャは既に限界を迎えていた。走りながらの戦闘は体力の消耗が激しい上、フォレストスコーピオン一体でも一杯一杯なのに今は一体だけではないく、他のモンスターもいる。隣で戦っているカグヤからのサポートもあり何とか凌げてはいるがそう長くは持たないだろう。
「何で私のこと助けるのよ!?」
「うるっさい!死にたくなかったらモンスターの動きに集中してなさい!!」
左右の剣がリザードマンとフォレストスコーピオンを斬り捨て新たな道を切り開いく。少しずつだが確実にモンスターを殺していっていった。けれど数が減らない……。扉が壊れたモンスター搬入用の通路から次々に出てくる。このままではじり貧になるのは明らか。
「ちょっと、モンスター用の通路には隔壁はないの!?」
「ない。けど、パドックの時にモンスターが逆走しないよう設けられた柵があるはず!」
「それだ!」
通路を覗くと中にはモンスターとメーニャの言っていた柵があった。一番手前にいたリザードマンを怯ませその尻尾を掴むと投げ飛ばし後続のモンスターごと奥へ押し込みスライド式の柵を閉めた。等間隔に金属の棒を組合わせた柵たが作業員の安全を確保するために作られている。直ぐに破壊されることはないだろう……。会場に残されたモンスターは五十ほど。
「残りを掃討するわ!死にたくなかったらついて来なさい!!」
返事はない。乱れた呼吸を整えるのが精一杯で声を出せる余裕がないほど追い詰められていた。けど、メーニャの目には諦めた意志が感じられない。先程と同じように囲まれないよう走りながら倒していくがメーニャの動きが鈍った分、すぐ囲まれそうになり離脱せざる終えない。ハイゴブリン二体を倒し退路を確保する。
………ドサッ。
後ろから倒れる音が聞こえた振り返るとメーニャがロングソードを支えに座りこんでいる。その後ろからはリザードマンが迫ってきている。カグヤはリザードマン目掛け剣を投擲しその後に続き走った。投げられた剣はリザードマンの体に刺さり直後にカグヤの勢い任せにリザードマンを引き裂きながらその体から抜かれた……。
「全員突撃ーーー!!!」
隔壁が開くと号令が響き警備隊が入ってきた。警備隊が入ると再び隔壁は閉じられ、盾を持った数人の警備人がカグヤ達とモンスターの間に割って入り壁役に徹する。
「怪我はありませんか?」
この隊の隊長であろう男性に頷いて返した。メーニャには回復魔術式が渡され回復しはじめている。
「よぉーーし、全員後退!ただし、陣形は崩すなよ!?」
隊長の指示に従いゆっくりと隔壁に後退していく。円形に組まれた陣形はモンスターの攻撃を防ぎ、盾の隙間から槍で突き怯ませながら隔壁を目指した。
「隊長!!中央を見てください!!」
一人の隊員の叫びに全員が会場の中央をみる。フォレストスコーピオンからパラサイトワームが出ている……。それも普通のパラサイトワームではない。頭に一つだけ目がついている。その目で警備隊を見たのが合図だった。モンスターの死骸から、生きているモンスターからもパラサイトワームが体外に出てくる。一匹……また一匹と……。それらは目がついている個体を中心に集い球体へと形を変えていく。他の会場からも集まり最終的な球体の大きさは天井にも届くほどではないものになっていた。
「くるぞ!構えろ!!」
隊長の声が聞こえると盾を持った人が隙間がなくなるほど密着し衝撃に備える。球体から鞭のように伸びたパラサイトワームが叩きつけられた。パラサイトワームが盾の強度に負け残骸が巻き散った……。
「次、くるぞぉーー!」
二度目、三度目と叩きつけらるが盾は傷すらつかず鉄壁を誇っていた。球体はその形を変え一匹の巨大なパラサイトワームに変貌し、数百……もしかしたら千をも越える圧倒的な数と質量で盾へとぶつかってくる……。盾を貫通するということは無いが、支えきれず押されていく。
「はああぁぁぁ~……りゃあ!」
カグヤが盾の集団を跳び越え巨大なパラサイトワームを切断する。一つの塊になっていたかパラサイトワームがバラバラになり崩れ落ちる。バラバラになったパラサイトワームを蹂躙していくカグヤ。
「よ、よし。我々も続くぞ!!」
隊長に続き隊員達もパラサイトワームに攻撃をする。ある者は槍で、またある者は盾を使い潰していくが人手が足りない……。パラサイトワームがモンスターの死骸の中にもどっていく。パラサイトワームが寄生した死骸から順番にゆっくりと動き始めていく……。
「隊列、急げーー!!」
隊長の大きな声が会場内で反響し木霊になり消えていった……。




