66話
彼女の言葉に空いた口が閉じなかった。異世界から来たことを隠していた訳ではない。言っても信じて貰えないだろうし証明する手立てもなかった。しかし目の前にいる女性にはタクトが異世界の住人だと言い当ててみせたのだ。
「あら?その顔はなに?もしかして彼が異世界の人間だって知らなかったのかしら?」
口角を吊り上げカグヤを嗤っている。歪んだ嗤い。人に不快感を感じさせる嗤い。
「それぐらい知ってる!!」
「そう?じゃあ異世界の住人の持つ力については何も知らないのね?どれだけ一緒にいたのか知らないけど信用されてないのね。お嬢ちゃん。」
カグヤがキッっと睨んでくるが睨まれても困る。タクト自身が異世界の人間の持つ力を感じた事もないしナオキやマコ姉達も何も言っていなかった。
「フフッ。いいわ。私に勝てたら異世界の人間の持つ力について教えてあげる。その代わり私が勝ったら彼を貰うから!」
「ええ。いいわよ。」
「いいわよ。……じゃない!本人を置いといて勝手に決めないで。」
「なによ。タクト。私が負けるとでも?」
「思ってないけど本人の意思を聞いてほしいというかなんというか………。」
「へー、タクトって名前なんだ。どう?私のものにならない?」
カグヤから離れた金髪の女性はタクトに近づくと豊満な胸を見せつけ誘惑してくる。
「ちょっとちょっとっ!!私に勝ってからからでしょ!?」
「あら?いいじゃない。タクトも言っているでしょ?意思を尊重して欲しいって。」
「タクトの意思なんて関係ない!タクトが欲しいなら私に勝ってからにして!」
誘惑に負けそうなタクトに氷の矢のように鋭い視線が突き刺さる。
「あらぁあらぁ~。タクトも可哀想に。欲求が溜まっているのね?まっ、こんなペッタンコじゃしょうがないわね。」
たっぷんたっぷんと揺れる胸を不動の胸を持つカグヤに見せつける。
「………あっ、明日の試合って殺害おーけーダッケぇ………?」
「いやいや、殺害はNGだよ。」
「そう?殺害はNGなのね。チチオバサン、今日はその胸の重みを存分に感じてなさい。明日の試合後は胸が軽やかになってるだろうから」
周囲の空気がどんどん冷たく重くなっていく。やり取りを見物していた野次馬達も退き、先程までの人混みが嘘のように閑散とした空間が出来上がった……。




