62話
団長がタクトを品定めするように見る。
「タクト……だったね?合格だ。」
「合格?合格って何がですか?」
「おや?入団希望者じゃないのかね?」
「いえ、入団希望ではないです。」
「団長。そんな若い子がウチなんかに来てくれる訳ないでしょ!」
と言ったのは王様役を演じた男性だ。
「入団希望ではないのなら何の用だね?」
「先程の¨魔術と薔薇の魔女ドロテア¨のストーリーが気になって…」
「団長~。だからあの結末は良くないって言ったじゃないですか!!」
ドロテア役の女性から声が上がると他の劇団員からも賛同の声が上がった。
「いや~だが……結末をハッピーエンドにするのは……」
団長が渋い顔をした。
「えっ…と…話しに割って入ってすみませんがストーリーは団長が昔に聞いた話しなんですよね?」
「あぁ、そうだ。この劇団を創る前に旅をしていたことがあってね、その時に立ち寄った村で聞いたんだ。」
「その村って何処の村ですか?」
「今はなくなった¨リュール村¨だよ」
「リュール村って何処にあったんですか?」
「ここだよ」
団長が自分の足下を指差した。
「リュール村は一度廃村になったんだが同じ場所に創られたのがこのトリューネ街なんだ」
「当時の人は?」
「さあ?もう生きてはいないんじゃないかな?あの頃でかなり高齢の人しかいなかったからな。随分この話しを気にしてるみたいだね?」
「ええ。調べている事に似ている内容だったので。」
「そうなのか。まぁ答えれる範囲でなら答えるよ?」
「ありがとうございます。
さっきの話しですけど結末は変更していないんですか?」
「いいや、終盤は少し話しを変えているよ?劇では¨捕らえられたドロテアが逃げて自宅で殺されて終わる¨という内容だったが¨捕らえられたドロテアが逃亡し自宅に帰ると家は荒らされ研究資料は盗まれており我が子のように大切に育てていた薔薇もメチャクチャになっていた。怒ったドロテアは復讐とし王妃様を殺すが衛兵二百万人に討ち取られる¨という話しだ。」
「確かに終盤は大幅な変更が入ってますね。」
「公演時間が決まってるからね。無理に時間内に押し込めば観客を置いてきぼりにしてしまう。」
「でも、結末はもう少しハッキリさせるべきでしたよ!」
また団員が主張を述べる。この人は見覚えがない。黒子か裏方の人だろうか?
「だがなぁ結末を変えるというのは物語の本質を変えるのと同じだからなぁ」
う~ん…と腕を組んで唸っている団長にお礼を言うとタクトはその場から離れた。団長はこの話しを人伝に聞いただけみたいだしこれ以上話しをしていても得られるものは無さそうだったしカグヤを待たせたままにしている。ここにはデートとして来ているのだ。機嫌を損ねることはしたくない。人混みを掻き分けてエントランスへ向かった。
「どうだった?」
ベンチに座り観光案内のパンフレットに目を落としながらカグヤが呟いた。
「それ、トイレから帰ってきた人に言う言葉?」
「うそ。トイレに行ったんじゃなくてさっきの劇団のとこに行ってたんでしょ?」
バレてらっしゃる………。
「魔術と薔薇の魔女ドロテアと私達『忌み子』で共通している箇所があったから………。」
「おっしゃる通りです。詳しくは宿で話すよ。」
劇場から外に出ると入る前より人の数が減り閉店している店も増えてきていた。




