61話
席に腰掛け暫く待っていると開幕のブザーと共に客席のライトが消されステージの幕が上がった。目映いステージの上でスポットライトを一身に集め頭を輝かせている五十歳くらいの男性から挨拶が始まった。この劇を上演している劇団の団長だ。演目は数ヶ月に一度変更しているそうで『魔術と薔薇の魔女ドロテア』も今月で閉幕になるらしい。この物語は団長が若い頃に寂れた村で聞いた話しが元になっているそうだ。その後も苦労したところ、注目して欲しいとこの説明が続きそれが終わると漸く上映となった。一度照明が全て落ち再度点くと団長の姿はなく代わりに黒いフリルの着いたドレスを着た女性が立っていた。
『彼女の名はドロテア。彼女は植物を愛でる女性で中でも薔薇が一番好きで自宅には常に満開の薔薇が咲いていました。
しかしドロテアはとてもとても貧乏だったのです。
このままだと大好きな薔薇を手放さないといけなくなる。そこでドロテアはお金を稼ぐ方法を考えました。
彼女が閃いたのは魔法を使ってお金を稼ぐことでした。彼女には魔法の才があったのです。
しかし、魔法を使える者は多くもないが少なくもない。それでは大量の薔薇を世話をする資金を得られない。再びドロテアは頭を抱えました。
皆が出来なくて皆が欲しがるものを精一杯考えました。思い付いたのが゛魔法を売る゛ということでした。沢山の書物を読み勉強をしました。
ドロテアの努力は実を結び魔法を精神力以外で使う方法と魔法を紙に落とし込むことで万人が魔法を使えるようにすることが出来ました。
ドロテアは魔法を使う術¨魔術¨として売ると決めると色々な魔術の書かれた紙¨魔術式¨を大量生産すると王様に販売許可を貰いに城へ向かいました。
ドロテアの発明した魔術に王様も側近も衛兵達も大層驚きました。ドロテアは販売許可を貰えると確信しましたが信じられないことが起こったのです。強欲な王様は手柄を横取りするためにドロテアを捕らえるよう命令したのです。デタラメな罪状を述べる王様に対しドロテアは無実を訴えました。しかし聞き入れて貰える訳もなく処刑命令が下りました。死にたくないドロテアは衛兵の槍を奪うと王様目掛けて投げました。槍は王様を貫通し、その隙にドロテアは逃げました。王様を殺してしまったドロテアは大罪人とし追われ家まで逃げたときには二百万人もの衛兵に囲まれてしまいました。もう逃げられないと悟ったドロテアは衛兵にありったけの怨みをぶつけました。銀閃が走りドロテアから血飛沫が舞い地面が血で染まりました。ドロテアの血を吸った薔薇はより一層赤さをましました。………これにて魔術とドロテアの上映を終了します。ご清聴ありがとうございました。』
舞台の幕が降り客席に明かりがついていく。隣に座るカグヤに叫んだ。
「なんだ!この結末は!!」
「わっ!ビ、ビックリした~。何!?急にどうしたの!?」
「ごめん。釈然としない結末に叫ばずにはいられなかった。」
「あぁー。確かに結末は微妙だったね?台詞なしでナレーションと演技だけで表現するのとか魔術での演出は良かったのにねぇ」
「そうなんだよ。だからこそあの結末は納得いかないんだよ!!」
「まぁまぁいいじゃない。そろそろ宿に戻ろうか?」
「あぁ。ごめん、トイレ行くからエントランスで待ってて。」
カグヤを先にエントランスへ向かわせタクトが足を向けたのはトイレではなく控え室だった。関係者以外立ち入り禁止の看板をすり抜け扉をノックする。
「キミ、誰だい?」
「始めまして、タクトって言います。」
扉を開け出てきたのは魔術と薔薇の魔女ドロテアの団長を務めていた男性だった。




