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59話

「今日から復帰して明日から休むってどういう事だよ!」

ナオキのつんざくような怒声に両手で耳を塞いだ。

「いやぁ~。カグヤと出掛ける約束をしていて……」

「出掛けるのはいい。出掛けるのはいいが明日からはないだろう……。」

「休暇はダメですか。なら……」

タクトに代わりカグヤが交渉に入った。

「………この手は…なに?」

ナオキに向かって差し出されたカグヤの右手は手のひらを上に向けて請求の意思を示していた。

「お金ですよ!お・か・ね!」

「いや、だから何で金?」

「やだなぁ。忘れちゃったんですか?蛾の…ニードルモス?の時の依頼料ですよ!」

「へっ?」

唖然とするナオキに対しカグヤは一気にまくし立てた。

「タクトとマコさんを助けて下さいっていうのがナオキさんから私に対しての依頼ですよね?その分の依頼料です。」

「確かに頼んだけどニードルモスを倒したのはロウガで…………」

「依頼は二人の救出でモンスターの討伐じゃないですよ?」

「あぁ!もう!いくらだ?いくら欲しいの?」

「この依頼は大変だったなぁ。敵の情報がなくて危険な街の中を走り回って暴れてる人間に襲われて挙げ句新種のモンスターに襲われて大怪我までしたんだから。通常の三倍…いや五倍は貰わないと割りに合わないなぁ。」

「分かった分かった。休暇を認めればいいんだろ!」

休暇を勝ち取ったカグヤがタクトに小さくピースサインをした。苦笑いでサインを受け取るとナオキに向き直った。

「じゃ、明日からトリューネ街に行ってくるから…」

「…………どこだよ、

それ…」

「馬車で片道五~六日のとこにある街だよ。」

「遠いよ!却下だよ、そないなとこ!」

「いやぁ、でもこの街娯楽施設が充実していて……」

「ダメだダメだダメだ!考え直せ!」

夜までに行き先を決めておけとナオキに言い残され各々本日分の依頼に着手した。荒れた街の片付けも大詰めを迎えており、ナオキが渋い顔をするのにもそこがあった。今、街の片付けの手伝いを依頼として承けているが実入りとしてはあまりよくないし復興中の人からお金を貰うのも気が引ける。一日でも早く日常を取り戻してもらい今までのように……いや、今回の件で知名度が上がったので今まで以上に依頼をして欲しかった。





その夜――

タクトとカグヤは足取り重くナオキの部屋に向かった。行き先をどうするか相談したが結局決まらなかった。

「ごめん、まだ行き先決まってない!」

「ああ!いいっていいって!!トリューネ街に行くんだろ?行ってこいよ。」

朝はもう反対していたのにすんなりOKしてくれた。おまけに宿代や馬車の料金に使えと援助までしてくれた。その豹変振りに困惑の表情を浮かべた。

「どうしたナオキ。頭のネジを落としたのか!?」

「お前失礼だな。友人の恋路を応援するのは当然だろ?」

「嘘つけ!お前そんなキャラじゃないだろ!!何が目的だ?」

「バレたか。流石は名ギャンブラータクト。」

「…………賭博して来いってことか?言っておくが弱いぞ。」

「おう。大丈夫だ。絶対勝てるギャンブルだからな。」

「そんなの在るわけないだろ?」

「あるんだな~これが!毎月の最終日にコロシアムで闘技大会が開かれるそうだ。」

「その優勝者を当てるのか?誰が勝つか分からないだろ。絶対は無理だ。」

「いいや、誰が勝つかは分かっているじゃないか?」

……………?

タクトはナオキの考えてることが分からず首を傾げた。

「大会で勝つ人はさっきからお前の隣に立っているだろ?」

タクトが横を向くとカグヤと目があった。

「わ、私!?」

「そっ、カグヤちゃんが出場して優勝する。タクトはカグヤちゃんに賭ける。どうだ!?」

「つまり私が大会に出場して優勝するのがトリューネ街に行く条件って訳ね?」

「ああ。そしてたんまりと…たんまりと稼いできてくれ!」

「タクトもそれでいい?」

「勿論いいよ。」

「そうそう。競馬でいうパドックみたいなものがあってそこではモンスターと戦うそうだから弱者を演じてオッズをあげるのを忘れないように!」

モンスターとの戦いで弱者を演じてオッズをあげる。身内で穴馬を作って賭ける。ナオキの策略というかズル賢さに呆れながらタクト達はナオキの部屋を後にすると自室へと戻り明日の準備に取りかかった。

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