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53話

首を絞めていたマコが崩れ落ちる。止まっていた酸素の流れが再開し体中を巡りだす。咳き込みながら気を失ったマコを見る。マコの爪には血が付着しており、カグヤの首にも指で圧迫された痕と爪でつけられた傷が残っていた。



ふらつく体で半開きになった扉へ向かう。両腕を怪我した状態で気を失った二人を抱えて暴れている人間がいる街中をさ迷うのは危険だと判断した。背中で扉を閉め扉を背もたれにして座ると体を預けた。痛みが消えることはないが体を預けた分だけ楽になった気がした。大きく吸い込んだ息を吐くと連絡用の魔術式をポケットから取り出そうと手を伸ばす。腕を動かす度に、指を動かす度に激痛が襲い目尻に涙が溢れる。


凭れていた扉が激しく叩かれ押し開こうとしてくる。背中で扉を押し返すが扉から伝わる震動が傷口を刺激し、思うように力が入らない。格闘していたが扉が静かになったかと思うと窓が割られ男が侵入しようとする。窓へ向かおうとするが

男の動きが急に止まり動かなくなった‥‥‥かと思うと侵入を止めどこかへと歩いて行ってしまう‥‥。急な豹変振りを茫然と見ているとタクトとマコが歩いているのが見えた。

「二人共、目が覚めたんだ!!良かったった。」

タクトもマコもカグヤの言葉に反応することも歩みを止める事もなくカグヤを押し退け外へ出ていく。外には針に刺された無数の人間が同じ方角、北へと向かい虚ろな顔で歩いていた。

「タクト待って、止まって!!」

タクトの前に立ち、進路を妨害するがその度に避けて進んでいく。

カグヤの髪が風で靡く。北から異様な風が吹いてくる。ゆっくりゆっくりと蛾が下降し着地し、左右と下に広げ静止した。歯や舌は無くただ単に広げられた口は先の見えない洞窟のように続いている。一人また一人とその口の中へと入っていく。食虫植物に誘われた虫のように‥‥‥‥。警備隊が駆けつけ、口へ歩いていく人を押さえつけるが警備隊の倍以上の数がおり口に入っていく人間が絶えることはなかった。


「行っちゃダメ、行かないで!」

タクトを進ませないように横から押したり正面から押したりするが躱し進んでいく。片手でも動けば止められるのだが痛みが麻痺し腕が痺れに変わり動かなくなったってきている。


「ごめん、タクト。」

止まらないタクトに体当たりを敢行する。近くにいた人を巻き込みながら地面を転がっていく‥‥‥‥。

蛾の額がザワつき針が飛ぶ。タクト達に刺さっている針より長い針が警備隊の体を貫いていく‥‥‥‥。その針はカグヤにも降り注いだ。カグヤの右脚の脹ら脛と地面とが縫い付けられる。痛いけどそんな事は関係ない。タクトが立ち上がり蛾の口を目指し歩き出している。タクトがいなくなるのに比べれば脚の一本や二本どうでも良かった。歯を食い縛り右脚を動かすとブチブチと嫌な音が聞こえて針が地面から抜けた。針が貫通したままの脚を引き摺りタクトの服を咥え左脚で踏ん張る。

タクトの前進が止まりその場で足踏みするだけになった。

「あぁっ」

後方から歩いてきた人間が脚から出ている針に躓く。電流が脚から駆け巡り口から呻く声が出た。

「いやぁ、いやぁ行かないでタクトっ!」

タクトが遠くなっていく。脚を引き摺り一歩一歩前に進むが追い付けない。

「お願いだから止まってよ!お願いだから行かないでよ!!ダメ、行っちゃダメ!ダメェェエエェ!!」



カグヤの叫びが響くと蛾の体を横に吹き飛び建物を破壊していく。蛾のいたところに到着したのは一頭の黒狼ロウガだった。背中の毛が逆立ち唸り声をあげ睨んでいる。舞い上がった砂埃を霧散させながら蛾が空を飛び臀部から今までとは比べ物にならないほど太く長い針をロウガに狙いを定めて射出した。それを口で受け止め噛み砕き、蛾との距離を縮め二度目の体当たりをし地面に落とした。

「カグヤちゃん、無事か?」

「私よりも、タクトを御願い!!」

ナオキは蛾にむかっているタクト達を一瞥するとカグヤの前に腰をおろし、鞄から応急処置用の魔術式を取り出しカグヤに発動を促した。

「まったく、世話の焼ける‥‥‥」

ナオキがタクトを背後から羽交い締めにするのをみるとカグヤは目の前に置かれた魔術式へと目を落とした。魔術を起動するには起動文字を指でなぞり精神力を注ぎ入れる必要があるが腕が動かない。回復を諦め視線をロウガへと移した。決着は間もなく着くだろう。羽は引き裂かれ体からは緑色の体液を流し飛んでいるのがやっとの状態である。問題はタクトの方だ。蛾を討伐した時どうなるか分からない。蛾が死んでも蛾の口を目指し歩き出すのか、それとも正気に戻るのかが分からなかった。カグヤの不安を他所にナオキの叫びが夜空に響いた。


「やっちまえぇぇぇー!!ロウガァァァ!」

ナオキの声にロウガのピクリと反応した。ロウガの強靭な顎が命を噛み砕くと同時に祈るようにタクトを見た。祈りは届かなかった‥‥‥。蛾の死体を目指し動くことを止めない。口の中に入って消化される‥‥‥なんてことは蛾が死んだからあり得ない。だがタクトは正気に戻らなかった‥‥‥。今もこうして前進し続けている。タクトを救えなかった‥‥‥‥。カグヤの意識がシャットアウトされた。


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