51話
屋根の上から飛び降り街の南側を目指した。上空から見た街の北側は建物への被害が多かったがここまで来ると建物への被害は殆んどなくなっている。寧ろ人的被害が目立って来ている。路上に倒れている人間が次第に増えてきた。怪我をしている人間もしていない人間も意識を失っており、どれだけ呼び掛けても意識を呼び戻せなかった。原因は彼らの体に刺さっている針だろう。全員の体の一部に黒い針が刺さっていた。針はかえしがついているのか引っ張ると肉ごととれてしまいそうだった。
「だれかぁっ!助けてくれぇぇ!」
カグヤの耳に届いたのは助けを求める男性の悲鳴と複数の足音だった。カグヤの前に飛び出してきたタクトと同い年位の青年。額から血を流し折れた右腕を庇いながら走っている。彼の後からは後からは5人組の暴漢が追いかけて来ている。5人全員に黒い針が刺さっているのが見てとれた。目の焦点が合わず左右で違う方を見ている目。大きく開いた口からは唾液と青年に対する罵詈雑言が漏れている。カグヤは鞘に納めたままの剣で彼の腹部を強打していく。意識が無くなり動かなくなると追われていた青年へと微笑んだ。
「大丈夫ですか?」
近くの店から拝借した布と木箱を壊して添え木の代わりにして折れた右腕の応急措置をする。額の傷にも布を巻き止血をしたが彼は呆然としたまま返事がない。
「あ、ぁあの、助けて‥‥くれて、ありがとう‥‥ござい‥‥ます」
「あの、この街に何があったんですか?あの黒い針はなんなんですか?教えてください!!」
「‥‥‥‥モンスターが襲って来たんだ。蛾のような姿をしたモンスターが。我が物顔で街の上を飛んで人間に針を打ち込んでいた。針の刺さった人は狂ったように凶暴化して‥‥‥。」
「そのモンスターは討伐されたんですか?」
「街の北側で警備隊と交戦したらしいんだけど仕留めれずに逃がしたらしい‥‥‥。」
青年の話が本当なら針を刺された人は凶暴化するらしいが操られているという訳ではないようだ。意識を失っている人は誰かに意識を奪われたか、時間経過で意識を無くすのだろう。5人の暴漢の焦点の合ってない異常な目を見ると後者の方が可能性は高いだろう。恐らく凶暴化させる毒の侵食具合といったところか‥‥‥。
「私は南側へ向かいますが貴方はどうします?」
「ぃい、いっしょに連れていって下さい。」
ウィルからの情報では南側で警備の人間が暴れている人を取り押さえていた。加えて北側で交戦したのなら南側は比較的安全と考えな避難してきた人も大勢いるだろう。ならタクト達も避難してきているかも知れないし、もし居なくても人が多いなら情報を得られるだろうと判断した。
「ぁあの名前‥‥聞いてもいいですか?」
「あ、はい。カグヤっていいます」
「カグヤさんですか。素敵な名前ですね。俺はサムっていいます。」
サムにペースを合わせ南側へと向かった。途中には暴れまわっている人が大勢いたし、襲われている人がいれば助けて来たので時間がかかった上行動を共にする人間が十二人にまで膨れあがった。その代わり有意義な情報も得られた。南側に二ヶ所ある公園が避難場所になっているそう。サムに近い方から案内を御願いした。有り合わせの材木で作りれたバリケードを越え公園に着くと入り口にいた警備から針の有無をチェックされると公園の中に入る事が出来た。予想通り大勢の人がいる。タクト達がいるのを期待して公園の中を探したが結局見つからず、情報を得ることも出来なかった。警備の人間からもう一ヶ所の公園の位置を聞きサムに別れを告げ公園をでた。




