46話
小さな光が見えた。ロウガの背に揺られながらその光を見ていると、光は少しずつだが確実に大きさを増しやがて村からの光だと分かる程の大きさにまで成長した。
「ありがとう」
「ありがとね」
ヤコン村まであと五百メートル位のところでロウガから降り徒歩へと切り替えた。
「すまんなぁ。今日はジャイアントホースを食べたかったんだが、中々見つからなくてな」
「別にいいよ。送ってくれてありがとう」
ロウガが帰路に着くと黒い毛を生やしたその姿が闇へと溶けたのは瞬く間のうちにであった。
村には簡素な柵が接地され柵を囲うように川……いや、用水路が掘られておりモンスターの侵入を拒むためと、農業用の水源の二種類の役割を担っている。村にかかる唯一の橋を渡り村の中へと入ると門番から村長の家を聞き向かった。民家の窓からは家庭の灯りが溢れている。夫婦の会話に、子供のはしゃぐ声、その子供を叱る母親の声が聞こえてくる。
「ごめんくださーーい。」
引き戸を開け村長宅の何処にいても聞こえるように大声で呼び掛けた。
「少々、お待ちくだい」
奥から女性の声が聞こえ一拍おいて七十前後の女性が出迎えてくれた。
「夜分遅くに申し訳ありません。私達ヴァインドマン討伐の依頼を受けたnoccsの者ですけど……」
「ヴァインドマンの討伐……?あぁ!そういえば主人が街の役所で依頼するより安価で引き受けて貰えたと喜んでましたねぇ。どうぞ、こちらへ」
案内された部屋で待っていると先ほどの女性と同じ位の年齢の男性が部屋へ入ってきた。
「村長をやらせて貰っておりますバーレンといいます。」
「初めまして。noccsから派遣されましたタクトとカグヤです。」
「して、他のメンバーの方はどちらに?野宿も大変でしょうから我が家へ泊まっていくが良い」
「いえ、今回派遣されたのは私達二名ですので他のメンバーは来ておりません。」
「ハァ~。そうですか。たった二名ですか。まぁあの報酬金からすればそうでしょうな……。」
落胆された……明らかに。まあ、二人でモンスター退治するといえばそれも仕方ないのかもしれないがちょっと悔しい……。
「ご安心下さい。確かに人手は少ないですが此方のカグヤは相当な手練れですので。」
その後、納得いかない顔をしている村長と打合せをし、村長宅の一室を借り眠りへ就いた。
「………きて………起きて……」
カグヤに体を揺すられ目を覚ましたタクトは時間を確認し首を傾げた。予定の時間よりまだ二時間以上早い。
「おはよう。どうしたの?まだ予定よりかなり早いけど?」
「子供がね、行方不明らしいの」
「子供?行方不明って何があったの?」
「私も詳しくは知らないんだけど、親の農作業を手伝っていた子供が居なくなったって騒ぎになってるの」
タクトは身仕度を簡単に済ませると村の外の畑へと向かった。畑には村の大人が集まり話し合いをしている。話し合いの内容から森の中へ入って行ったらしい。
「村長さん、僕達も探してみます。」
「……分かりました。くれぐれもお気をつけくだされ」
タクトとカグヤの他に五人一組の隊が三隊捜索に向かった。
子供がいないか、通った痕跡がないか念入りに捜して森の奥へと進んでいく。一時間位は探しただろうか?痕跡も見当たらないし、子供がこれ
以上奥へ行ったとは考えにくい。一旦戻って別ルートを探した方がいいと思っていた時だった。カグヤがタクトを引き寄せる。その直後にタクトのいた場所に蔦が地面に突き刺さる。カグヤがその蔦を力任せに引っ張ると木の上からボサッと蔦の束が落ちてきた。失念していた。この森には今回の依頼の対象のヴァインドマンがいることを……。それは人の形に蔦を束ねた存在。人間でいえば鳩尾のとこに蔦の隙間から種子のようなものが見える。あれがゴーレム系のモンスターの弱点の核だろう。
「タクト、隠れてて」
「う、うん。気をつけてね」
双剣を構えるカグヤに声をかけ後方にある木の陰へと身を隠した。
カグヤが走るとヴァインドマンが手をカグヤに向け蔦を伸ばす。普通の蔦ではないようで地面や木に刺さる程の威力と硬度を持っていた。迫ってくる蔦を自慢の速度と身軽さを生かして躱し切断していく。カグヤが走った後には蔦が道筋をつくっていく。
「減ってる様子はない。やっぱり核を斬らないとダメか……」
カグヤは冷静にヴァインドマンを観察していた。ヴァインドマンを中心に一周するように走り蔦を切断したがヴァインドマン自身の姿に変化は見当たらない。なら蔦をどれだけ斬っても時間の無駄。消耗するだけ。そう判断したカグヤはタイミングを計ると速度をあげ間合いを一気に詰めた。
「うえぇぇえぇ~~ん!おかあさぁぁぁん~~!!」
カグヤの耳に届いた子供の泣き声。ヴァインドマンもそれに気付き右手を子供に向けた。
――――マズイ。
強引に体を捻りヴァインドマンの右手を切断するも切断面から伸びた蔦がカグヤに絡みつく。左腕に絡みつき、首にも絡みつくが直前で右手を差し込んだので首が絞まることはない。
「ぐっ!くぅぅぅぅぅ」
絞める力が強くなるとヴァインドマンの口からストロー状の管が出てカグヤの胸元に突き立てられ赤い液体が吸い上げられた。
ヴァインドマンが吸血を止め左手から蔦を伸ばし始めた。その先を横目で追うとタクトが戦っている。カグヤと違い普通の人間で剣の腕も半人前と言えないタクトには片腕だけのヴァインドマンの相手は厳しく次第に攻撃が当り始めた。まだ大きな傷はなく掠り傷程度だがいつ致命傷を負ってもおかしくない状況だった。
「くっ、こんのぉぉお!」
人間以上の身体能力を持つカグヤが核を思いっきり蹴った。圧倒的な力で核は亀裂が入り、核を傷つけられたヴァインドマンは悶え攻撃の手を止めた。全力で迫ってくるタクトに再び攻撃が襲いかかった。………がその攻撃がタクトに届くことはなかった。二度目の蹴りで亀裂を増した核がヴァインドマンに苦痛を与える。ヴァインドマンの左手から延びてきた蔦がカグヤの脚が地面に着く前に捕縛する。残りの蔦がタクトへ伸びていく。今までより動きが鈍く手数が減った分、攻めに転じる機会が増え徐々に距離を詰めていく。
「おぉぉおぉぉりゃぁ」
タクトの放った突きが核を捉えた。既に大きな亀裂を有していた核は呆気なく砕けた………。
核が砕けると普通じゃなかった蔦は只の植物へと戻りその強度も普通の植物になっていた。カグヤの胸元から血が流れているのを見たタクトが応急処置用の魔術式の書かれた紙をカグヤへ渡した。魔術は他人に対しては使用できない。が自分に対しては使用できる。よって攻撃用の魔術はないが回復用の魔術は存在した。勿論、発動するのに必要な精神力は必要だが……。
「タクトが先に使って」
カグヤが右肩を叩きながら魔術式をタクトへ返す。突きを撃つ直前に深い傷を負っていた。痛みで嫌な汗も出ている。お言葉に甘え先に使わせて貰う。血が止まり痛みが消え傷が治っていく。肩の傷だけでなく全身についた傷も……。カグヤの胸元の傷も綺麗に治り傷跡もない。
「……いつまで見てるのよ!」
「あぁ!ごめん!さぁ帰ろう。」
「うん。タクトありがとう。戦ってる姿格好良かったよ。」
それだけ言い残し先に行ってしまう。照れ臭く頬をポリポリと掻くとヴァインドマンの核を回収して後を追った………。
「あっ!子供!」
忘れていた。さっきの子が行方不明の子供で間違いないだろう。子供が居た場所に行くがその姿はないがすすり泣くは聞こえる。その声を辿ると岩の隙間で泣いている女の子がいた。
「キミ、ヤコン村の子?」
怖がらせないように出来るだけ穏やかに、やさしく問いかけたが泣きやむ事はなく答えもない。他にも色々と話し掛けてみたが泣き声以外の声を出すことはなかった。泣く子供をあやす術を持たないタクトは完全にお手上げだった。




