39話
タクトとカグヤはその建物を呆然と眺めていた。ロウガの背に揺られ着いたナオキ率いる騎士団の拠点。
「城だ…」
「城だね……」
タクト達の前には正しく城が聳え立っていた。ヨーロッパを思わせる風貌。その外壁を担うレンガは風化し亀裂が入っており右手には崩れ大きな穴が空いている。窓はその半数以上が割れ黒ずんでおり、そこから外壁沿いにのびてきた蔦が侵入していた。正面口だけは綺麗に整備されているがこれは……
「廃墟だ…」
「廃墟だね……」
「廃墟とか言うな!!これでもかなりの値段なんだぞ!」
ホームを廃墟呼ばわりされナオキが吠えた。
「もっと良い建物無かったの?」
「しょうがないだろ!街の中はロウガ達は入れないし、ロウガ達の入れる大きさの建物で一番安価だったのがここなんだから!」
ナオキに続き裏口へ向かった。正面口はお客様専用とのいうことで急ピッチで修繕したそう。
「あそこらへんが裏口だ。」
ナオキの指が指す方を見るが瓦礫の山しかない。
「………?何もないけど?」
「今は使用禁止だ!」
「………………………」
タクト達は外壁の穴から城の中に入った。そこは何も無い部屋だった。壁は煤で黒くなっており白い糸で作られた蜘蛛の巣を浮かびあがらせてる。
「ここが謁見室をそのまま利用した自慢のリビングだ。」
ナオキが手作り感満載の引き戸を開けると広大な部屋が広がっていた。
「おぉ!!広い!!……広い…広いけど………」
「確かに広いけど、リビングって言うには難があるね……」
天井が抜けて吹き抜けになっている。元々、天井だった瓦礫は中央に集められてるが集めきれておらず床に散乱している。この部屋の壁も煤で汚れ、槍や剣でつけられた無残な傷が残っている。
その傷の中にも煤が入り込んでいた。
「なぁ、ナオキ。此処って元々は誰が住んでいたんだ?」
「ん~……暴君らしいぞ。この辺りを土地を所有してた女王様で、土地を貸した人からお金を大量に巻き上げたり冤罪を着せて拷問したりしたそうだ。」
「それで反乱が起きた……と」
「ああ。最後は惨たらしい死に方だったらしい。その怨みを晴らそうと魂だけになった今でもこの城を彷徨ってるそうだ。」
ナオキが胸の前で指を下に向けて幽霊のポーズをとり怖がらせようとしている。リビングを抜け『開けるな!危険!』と書かれた扉が列を成す廊下を進み途中で階段へと進路を変えた。廊下はまだ続いていたが『立ち入り禁止』の看板がぶら下がっていた。二階に上がり案内された部屋は今までの部屋と違い丁寧に清掃されていた。隣の部屋との壁が三部屋が一部屋になっている。中央には木製のテーブル、部屋の端には木箱が並べられている。
「この部屋は居間だ。食事は此処で食べてる。」
「さっきリビングを見たのに今度は居間なんだね」
「リビングは洋風、居間は和風だからセーフ。」
「和の要素が何処にもないけど?」
「それは追々…。」
「この木箱の中身は?」
「この箱はソファーだ。」
「こんな座り心地の悪いソファー始めて見た……。」
「和風ならソファーじゃなくて座椅子って言って欲しかった…」
「家具を買う金がないんだよ!」
居間を出ると別の階段から一階に行き厨房に浴場にと案内されその後、三階に用意された自室へと向かった。
「ここがタクトとカグヤちゃんの部屋だ。ベッドは小さいが添い寝すれば問題ないだろ!?」
ナオキの言葉にタクトとカグヤが固まった……。
「ほ、他の部屋は無いの?」
「俺も他の二人もパートナーとは同じ部屋で寝泊まりしてるぞ。あと、タクト。鼻の下、伸びすぎ。」
「伸びてないよっ!」
ナオキは鼻の下をくしゃくしゃに擦るタクトを押し退け隣の部屋の扉を開けた。
「とは言ってもムッツリなタクトと一緒だとカグヤちゃんが危ないのでこっちの部屋も使ってくれ。それでも隣の部屋だから夜這いには充分に気をつけて」
「はい、気を付けます」
「っ!カグヤ……」
苦笑いのカグヤと落ち込んだタクトは鍵を受け取った。「信じてるから」とか「冗談だから」とフォローを入れつつカグヤは四階への階段を登った。四階で主だった部屋はこの城の元々の所有者の女王の部屋と女王専用の大浴場だ。女王の部屋は予想に反し何も無かった。無機質な石材で囲まれただけの部屋。凄かったのは大浴場だった。大理石で作られた床に芸術的な彫刻が施された壁、一度に二十人位は入れそうな浴槽、その上に吊るされた金属製の箱。 その箱はアイアンメイデンのように内側に棘が備え付けられておりハンドルを回すと万力と同じ仕組みで棘が押し出される。箱の底には穴が空いていて血のシャワーとして美容を保つために使用していたそう。
「ちなみに女王が殺されたのも此処で幽霊の目撃例が多いのも此処だ。」
大浴場を後にしたタクト達は居間で待機していた。仕事に行ってる他の騎士団のメンバーがそろそろ帰ってくると連絡があった。
「他のメンバーって誰なの?」
「タクトのよく知る人間だよ。マコ姉とナナンだよ。」
「そっか。二人共無事だったんだ。」
一瞬、驚いた顔を見せたタクトだが直ぐ穏やかな表情へと変わった。
「誰なの?」
「カグヤちゃんは知らないよな。俺とタクトと子供の頃から一緒だった幼馴染みだ。」
「お馴染み…」
それから暫くして居間の扉が開かれ二人の女性とそのパートナーが入ってきた。
「マコ姉、ナナン!」
「タックン、本当に見つかったんだ!」
「タク、生きてたんだ」
手をとり再開を喜んでいるタクトの背にカグヤは隠れその背を掴み震えていた。




