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32話

カグヤが話してくれたお陰で色々と分かった。まず、この世界は『D・A』の世界だと思っていたが、自分の世界でも『D・A』の世界でもない別の世界だと分かった。それからカグヤを『D・A』の世界に送った機械。この世界の技術でないなら別の世界の技術。そして、それを持ち込んだ人間がいるという事。


「ねぇ、タクト。私からも聞いていいかな?」

「何を?」

「どうして『忌み子』が不幸を与えるって分かったの?」

「確証があった訳じゃないけど、幸福を与えるよりは不幸を与える方がしっくりきたから。最初に変だなって思ったのが、村長の言った[世界の業を受け、幸を与える]って言葉とコルガの教えてくれた解釈が噛み合ってなかったからかな。解釈して村長の言葉を言い直すと[過酷な運命を受け、幸福を与える]になるけど、コルガは過酷な運命を受けた人にカグヤじゃなく僕を指した。始めは分からなかったけど、よくよく考えれば変だよね。この解釈だと僕が幸福を与える存在になってしまうよ……」

「解釈が間違ってるかもしれないし、村長の言葉が間違ってるかもしれないし、もしかしたら両方間違ってる可能性だってあるよ?」

「そうだね。その可能性も充分にあるよね。でも、怪しいのは解釈だけじゃないんだ。昔に起きた戦争。その原因は『忌み子』を奪い合った事。幸せに成れる筈の戦争の勝利者は殺されてる。カグヤと今日まで一緒にいて出会ったモンスターの生態も調べたよ。偶然、縄張りを追い出されたサハギンに襲われてる。偶然、普段は温厚なケンタウロスが狂暴化して襲ってきた。偶然、この辺りの地域にはいないオーガイーターに襲われた。これだけ偶然が重なると幸福を与えるも嘘臭くなるよね。」

「そっか。タクト出会って数週間の内にこれだけ不幸を撒き散らしてたんだね。タクトが気付くのも無理ないか……。」

「違うよ?出会って数週間じゃないよ。一年と七ヶ月になるよ。」

「………!もうそんなになるんだ。」

タクトとカグヤが出逢った日。それはタクトがアプリをスマホにインストールした日。正確な日付までは覚えていないが、一年半程前にインストールし、プレイを開始したのは覚えていた。

「ねぇ、カグヤ。この村を出ていこうかと思うけど、一緒にきてくれないかな?」

「タクトの傍にいるって約束したばかりでしょ。でも、突然どうしたの?」

「ありがとう。人を捜そうと思って。僕と同じ世界の人を……。」

「タクト以外に異世界の人がいるとは思えないけど……?」

「多分、いるよ。まず、カグヤを『D・A』の世界に送る機械を作った人。厳密にはこの世界にはない技術を持ち込んだ人。あと、この世界でカグヤに会って直ぐにゴブリンに遭遇したのを覚えている?」

「覚えてるよ。タクトがブルブル震えて闘おうとした時だよね?」

「…………そうだけど、そんなカッコ悪い姿、忘れて」

「いや、カッコ悪くないから忘れない。で、そのゴブリンがどうしたの?」

「ゴブリンが運んでた死体、アレが異世界の人だったんだよ。」

「この世界の人じゃないの?」

「スーツ姿だったし、この世界の衣服の素材と違ってた。あと、村長には異世界の証拠として不十分て言われたけど、ライターも持ってた。決定的なのはスマホを持ってた事。」

「よく覚えてるね…。」

「僕も忘れてた。コルガに異世界の事われて[何か忘れてるな]って思ってたけど、ゴブリンに殺された人を見て思いだしたよ。」

「で、その人と同じくこの世界に来た人がいるかもしれない…と?」

「そう!」

「捜しに行くのは良いけど、どうやって異世界の人か見分けるの?」

「それは………捜しながら考えるよ」

カグヤが大きな溜め息をはいた。この旅が無計画なのは分かっている。

「………まぁ、いいや。ナタール町に着くまでには考えといてね。」

「なんでナタール町なの?」

「タクト………。旅に出るなら下調べ位しようよ?この村からはナタールに続く街道しか無いんだよ。森の中を進むか山脈を越えるなら別だけど……。」

そう言われれば以前、ナタールとしか貿易をしていないと聞いた……。

カグヤが二度目の大きな溜め息はいた。

「…………いつ出発するの?」

カグヤの目が恐い……。迂闊なことは言えない。

「明日の午前中に道中の食糧を調達。午後に出発でいかがでしょう?」

「明日、出発なら昼前までには出発にしよう。そうすれば明後日の夕方、暗くなる前には着ける筈だから。」

「了解。それじゃ明日に備えて寝るね。おやすみ。」

段取りはセーフだったようだ。無計画な旅は恐ろしい…………。


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