26話
ゴブリンが剣を大きく振り上げ老人に斬りかかる。 しかし老人が斬られる事はなく代わりに甲高い金属音が響いた。狩神祭で腕利きの人間が集まっていたのが幸いしたのか青年が模造武器でゴブリンの一撃を受けていた。模造武器ではダメージを与えれないが問題はない…直ぐに自衛団の人間によりゴブリンは討伐された。自衛団はそのまま避難誘導と討伐部隊に別れ行動を開始した。数匹たが進入してくるゴブリンを撃退しながら避難場所である役場を目指す。
グォオオオォオ!!
腹の底から響く獣の声を聞き村人全員の足が止まる。好戦的なゴブリンでさえも逃げ出した。
「今の声…………」
「オーガイーターだ。」
いつの間にかタクトの背後にコルガが来ていた。
「そういえば、半年前、仕留めれなかったって……。村に入って来たゴブリンはオーガイーターに追われてやって来たのか。」
「いや、今度は別の個体だ。オーガイーターについて調べたなら分かると思うが゛緑色゛じゃなくて゛赤褐色゛のオーガイーターが近づいてる。この辺にオーガ種が棲息していないにも関わらず…な…」
あぁ、やっぱりそうなんだ…………
「?何だ?あんまり驚いてないな?」
「いえ、そんな事は…。それより赤褐色のオーガイーターは強力だって……。どうするんですか?」
「今、ナタールの奴に援軍を呼びに行って貰ってる。援軍が到着するまでは籠城だな……。」
コルガとの話しを終えるとタクトも避難のため役場に向かった。カグヤとは先程のパニックで逸れてしまったが避難場所に行けば会えるだろうし、ゴブリンに襲われてもカグヤの実力なら問題無いだろうと思っていた。だが避難場所に来てもカグヤが見つからない。人混みの中をかき分け探すがどうしても見付からず避難誘導しているレイアに尋ねた。
「カグヤちゃん?カグヤちゃんならオーガイーターの話しをした後タクト君を探すって…」
タクトは避難場所を抜け村の中を走った。カグヤのいそうな所……と言っても仮自宅しか思い浮かばないが。より一層強くなる雨の中を仮自宅までの道を全力で走った。
やっぱりいた……。建物の前で真っ黒に染まった空を見上げてる。
「カグヤ……」
「タクト…………」
「早く避難しよ?」
震えるカグヤの手がタクトの頬についた雨粒を拭う…。
「こんなに濡れて、風邪……引いちゃうよ?」
カグヤの声が少しだけ涙声に聞こえる。
「大丈夫だよ。これくらい…」
雨粒を拭った手をそっとタクトの背後に回しカグヤはタクトを抱き締めた。
「ちょっ、どうしたの?カグヤ?」
脈を打つ速度が一気に倍速になり体温がどんどん上がっていく。
「………………」
カグヤは何も答えず肩を震わせるだけだった。タクトもカグヤの背後に手を回し小さな背を撫でた。どれくらい経っただろう。カグヤの肩の震えが止まると手を離し代わりに普段の優しい笑顔を見せてくれた。
「タクト、今まで一緒にいてくれてありがとう。すっっごく嬉かったよ。でも…………ここでお別れしよ?バイバイ…」
「待って!!」
慌ててカグヤの手を掴むもののその小さな手はスルリとタクトの手から抜け雨の中に消えてしまう。急いで追いかけるもその姿は見つからなかった…。




