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最終話

タクトが楔を破壊してから七日目の朝を迎えた。本来なら世界は崩壊しているはずだったがこうして存続しているのはタクトの頑張りがあったからこそ。楔が壊れたことにより二つの世界はゆっくりと離れ始め特定の場所を除き行き来出来なくなっている。しかし、その場所も刻一刻となくなりどちらの世界に残るか選択を迫られていた。


七時にセットされた目覚まし時計がピピピッと喧しく鳴いた。泣きわめく目覚まし時計のスイッチを切り布団から出るとカーテンを開けて朝日を招き入れる。

「ん~~~今日も良い天気!」

背筋を伸ばし朝日の眩しさに細めた目に深緑の木々と浅葱色の空が映る。noccsの拠点から少し離れた空き家、タクトと二人ここで新婚生活を満喫していた。拠点に戻ることも考えたがあそこだと二人だけの生活とは言い難い。ドームにあるタクトの家と拠点から家具、私物を運び込み生活していた。着替えを済ませ朝食の支度をする。タクトの家にあった料理本を参考に作られた味噌汁、焼き魚に白米が食卓に並べられる。

「タクト、朝ごはん出来たよ?」

ベッドから起こすと手早く着替えさせ食卓に座らせる。

「頂きます。」

タクトの前の魚を一口分取り分け口の中に入れる。咀嚼を繰り返し細かくなったらタクトの口へ移し飲み込ませた。七日経ってもまだタクトの心は戻って来ていない……。けれど、肉体は生きている。それは心が消滅していない証。肉体の生命活動が停止しないよう維持しながらカグヤは待っていた……。

朝食を終えれば食料の調達を兼ねて森へ散歩に出向いている。背中にタクトを乗せ木漏れ日の中をノンビリと歩く。特にコースを決めているわけではなく気の赴くまま歩を進めている。小川に沿って歩いていると微かに聞こえる不穏な音。足を止め聞こえてくる音に注意を向ける。枝を揺らす風の音に混ざる大型の獣の足音。タクトを木の影に下ろしいつでも剣が抜けるよう柄を握る。音が大きくなるにつれ姿を曝け出す大きな黒い狼。

「ロウガ!ナオキも!どうしたの?今日はいつもより早いけど……?」

剣から手を放し警戒を解く。

「コイツがどうしてもって聞かなくてな!」

ロウガの視線が自身の背に向けられている。

「なっ!どうしてもなんて言ってないだろ!!」

伏せたロウガの背からナオキが照れた様子で降りてくる。

「タクトの様子は?」

タクトへ視線を向けるとそれを追うようにナオキも視線を向ける。眠ったままのタクトを見てナオキが溜め息を漏らした。

「そうか……。まだ起きないんだな……。」

毎日のように様子を見に来てくれる。その度に寂しそうに溜め息をついていた。タクトとナオキは子供の頃から親友だったのだから寂しいと感じるのも無理はない。

「そうだ!今日はコッチで昼御飯食べないか?」

無理矢理作ったナオキの笑顔を見ているのは辛い。足下へ目をやり少し考え頷いた。

「それじゃあ、御言葉に甘えさせて貰おっかな!」

noccsの拠点を目指し走りだすロウガ。振り落とされないようにタクトをしっかり抱き締めているとニヤニヤ笑うナオキの顔が見えた。

「………いいでしょ!夫婦なんだから!」




久しぶりに皆で囲う食卓。以前はこうして皆でワイワイと食事をしていた。二人だけの食事というのも良いがこうして皆で食べるのも悪くない。

「あっ!タクトの分、どーしよっか?」

ナナが煮えた芋の入った皿を手に考える。ナオキが突然連れてきたためタクトのことは考慮されずに作った料理。量もナオキとナナの二人分。

「タクトは私が食べさせるよ!」

カグヤはナナの横に立って二人でもう一品作った。それが終われば普段通りタクトの分を咀嚼し喉に詰まらないくらい細かく噛み砕くとタクトに口移しで食べさせる。

「ほぅえ~~~~………カグヤちゃんってば大胆!!!」

二人が目を見開いてカグヤとタクトの食事の様子を観察している。改めて考えれば食事の様子を他の人に見せたことはない。急にはずかしくなり顔が茹で上がっていく!

「ほ、ほらぁ~~ふ、夫婦は支え合うのはとっ!当然のこと……だし?」

身振り手振りを交え必死に釈明した。けれどそれが無駄だったことは二人の下品な笑みを見れば一目瞭然だった……。

「カグヤちゃん、辛くないか?」

ナオキの声色が変わった。表情も真剣な話をするときのそれになっている。

「………辛くなんてないよ!一緒に居られる、それだけで十分幸せせなんだから!」

笑ってみせた!けど、それが上部だけなのは二人にも伝わってしまっただろう……。

―――一緒に居られるだけでも幸せ………それは本当!けど、やっぱり寂しい。声が聞きたい!話がしたい!笑顔が見たい!触って欲しいし!愛してるって言って欲しい!だから、早く戻って来てよ!!!




家に帰ってきた時には既に夜になっていた。なんだかんだで会話が弾み夜食までご馳走になってきた。入浴を済ませタクトをベッドに寝かせる。カグヤも布団の中に入れるとタクトの体温を右半身で感じることが出来た。

「ありがとう、タクト。アナタのお陰で今日も一日過ごすことが出来たよ!」

世界を繋ぐ楔は壊れた。けど、崩壊の危機が完全に去った和気ではない。二つの世界は重なったことで互いに喰らい合い致命傷をおった。けど、楔が壊れ離れはじめたことで持っている強大な治癒能力を存分に行使出来る。力尽きるのが先か治癒能力が上回るのか……それは誰にも分からない。

「アナタが作ってくれたこの奇跡の時間が何時まで続くか分からないけど、ず~~~と愛していくよ!」

タクトの体を横向きにすると腕の間に体を滑り込ませ一身にタクトの温もりを感じた。バクバクと早く大きく打つタクトの鼓動。燃えるように熱い。艶のあるカグヤの唇に重ねられた唇。唇を介し伝え、伝わる愛情………。滝のように流れる大粒の涙を袖で拭うと笑ってみせた。カグヤ自身が思う最高の笑顔を、最上の愛で……!

「この世界とあの世界が今すぐに崩壊しても私のタクトへの愛はぜ~~ったいに消えないよ!!だって、私は『黒薔薇の忌み子』なんだもん!知ってる?黒薔薇の花言葉。それはね、

¨¨決して滅びることのない愛、永遠の愛¨¨

なんだよ―――!」



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